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第三部 魔界探索

84 主人公が真のラスボスという話

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凍結薔薇ブリザードローズ
 
 椿が放った魔法により生じた氷の薔薇が、敵の動きを封じる。巨大なカニの姿をしたモンスターは、脚をもつれさせ、つんのめった。
 
「いかさまEX」
 
 そこへ真のレベル交換スキルが決まる。
 いかな高レベルモンスターだろうと、レベルが下がってしまえば敵ではない。

「食らえ、聖炎斬ファイアスラッシュ!」
 
 とどめは大地の魔法剣。
 カニの頭部に的確に切り込む。魔法剣は硬い甲羅を切り裂き、口から泡を吐いて巨大カニは地に倒れ伏した。
 
「よっしゃ、レベルが2上がった!」
 
 大地はカニを踏みつけてガッツポーズを取った。
 この海底遺跡では、経験値が豊富にもらえる特殊モンスターばかりが生息している。
 レベル100越えの大地たちでも、容易にレベル上げができた。
 
「お疲れ様です。次は心菜が前衛ですね。斬って斬って斬りまくってやります……」
「心菜ちゃん目が怖い」
 
 日本刀を手に、座った暗い目で言う心菜。
 真が引いている。
 
「さっきの戦闘の怪我は治ったし、俺も前線復帰して攪乱するよ。椿さんはMPを温存してくれ」
 
 夜鳥が前に出て言う。
 入れ替わるように後退しながら、椿は肩をすくめてみせた。
 
「当然よ。これはあなたたち雑魚の修行でしょ。私は関係ないもの」
「椿さん、雑魚呼ばわりは酷いっす……」
 
 大地は椿の物言いに消沈する。
 だが怒ったり説教したりはしない。大地が椿に惚れていて彼女に甘いことは、周知の事実だ。
 
「雑魚と呼ばれても仕方ないです。私たちは、枢たんの足を引っ張るばかりですから」
「心菜ちゃん……」
 
 暗い表情で言う心菜を、誰もフォローできなかった。
 彼女が人魚の血を飲んで倒れた一件は、側にいたのに止められなかった他の仲間も思うところがあるようだ。
 異世界に戻ってきてこちら、枢におんぶにだっこだったことは皆、認識していた。
 
「だから私たちは、レベルを極限まで上げて、世界の頂点を目指すのです……!」
「いや、枢っちを探しに行くんだろ」
 
 真は思わず突っ込む。
 しかし心菜は聞いていなかったようだ。
 顔を上げて日本刀を鞘から解き放ち、弾丸のようにモンスターの群れに突貫している。その鬼気迫る様子にモンスターの方が恐怖して、散り散りになった。
 
「やれやれ」
 
 真は後ろ手で頭をかいた。
 特殊な後衛である真には、暴走する心菜を止める術はない。大地や夜鳥が彼女を援護するのを、後ろで見守るだけだった。
 
「あのぅ~~」
「ああ人魚さん、まだいたんだ」
 
 遠慮がちに後ろからお伺いを立てる人魚の貴婦人。
 真たちを魔界に引き込んで食うつもりだったらしいが、その目論見が明らかになった今は、すっかり害の無い案内役になっていた。
 
「皆さん、Lv.300を越えられましたよね? もう魔王を倒せるので、魔界に行っても大丈夫なような」
 
 いつ終わるかしれぬレベル上げに付き合わされた人魚の貴婦人は憔悴した様子だった。これではどちらが悪人か分からない。
 真は「あっはっは」と笑った。
 
「いやいや、もうちょいレベルを上げないとなー」
「もう十分ですよ! いい加減赦してください! 干からびてしまいます~」
 
 半泣きの人魚の貴婦人。
 少しばかり気の毒に思いながら、真は彼女に向かって言う。
 
「悪いけど、もうちょっと付き合ってもらうぜ。俺たちが倒したいのは、魔王じゃなくて神だからな……」
 
 
 
 
 枢を追いかけて魔界に行くという目標はあったが、Lv.999の枢はどうせ自分で何とかしているだろう。祝福の竜神リーシャンまで追いかけていったのだ。世界の危機だとか、そういうよっぽどの事がない限り枢は大丈夫だと思われる。
 それよりも、せっかくレベルアップできるダンジョンにいるのだから、出来る限りレベル上げをしようと、真たちの意見は一致していた。
 
「Lv.400を越えると、上がりにくくなってきましたね……あとは魔界に攻めこんで強者をばっさばっさと薙ぎ倒すくらいでしょうか」
 
 戦闘後、日本刀に付いたモンスターの血を布でぬぐいながら、心菜が物騒なことを言う。
 
「ちょっと、そんな理由で罪なき一般の魔族を殺さないでよ?! あなたたちの方が危ないわよ?!」
 
 元魔族の椿は、心菜の台詞に待ったをかけた。
 魔界で辻斬りが催されそうで怖い。
 
「心菜ちゃん、危険な場所に行ったら枢っちが心配するぜ? 君は夜鳥とアダマスに戻って待ってた方が良いんじゃないか。魔界は俺と大地と椿で見てくるよ」
 
 真が提案する。
 枢がどこにいるか分からないが、魔界でトラブルに巻き込まれていなければ自力でアダマスに帰るだろうと見越しての発言だった。
 
「ふっ……真さん、私がまた無茶なことをして枢たんに迷惑をかけるかもしれないから、大人しくしたほうがいいと思ってますね?」
「それは……まあ……」
 
 ほの暗い笑みを浮かべ、心菜は言った。
 内心を言い当てられた真は冷や汗を流しながら頷く。何故だろう、仲間なのに説得が命懸けな気がする。
 
「甘い、甘いです。そんな普通の行動では、カナメたんに付いていけません。心菜が枢たんをゲットするのに正攻法が通じなくてどれだけ苦労したことか……!」
 
 日本刀を握りしめ震える心菜。
 真以外のメンバーは、意味が分からない様子である。
 枢と幼馴染みの真だけは、察した顔で苦笑いする。
 
「……確かに、枢っちは妙にハードな家庭環境で育ったせいか、感性が普通と違うからなあ」
「妙にハード?」
「機会があったら本人に聞けよ。プライバシーに関わるから俺からはノーコメント」
 
 不思議そうに問いかける夜鳥に、真は手をひらひら振って答える。
 そして、なんで俺がリーダーしてるんだろ、と思いながら会話をまとめた。
 
「しゃーねーな。じゃあ皆で魔界に行って、ラスボスの枢っちを倒すか」
「「おぉー!」」
 
 心菜と大地が拳を上げて賛同する。
 椿と夜鳥はげんなりした顔だ。
 趣旨が違う、とは誰も突っ込まなかった。
 
 
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