上 下
74 / 159
第三部 魔界探索

74 奇跡の薬?それとも毒薬?

しおりを挟む
 そのダンジョンのモンスターを倒すと、異常なほど経験値が入ることに気付いたのは、大地だった。
 
「あ。今、レベルが上がった! ここしばらく全然上がってなかったのに!」
 
 虚空に映るステータスを凝視して、喜びの声を上げる大地。
 ここはリーシャンいわく「海底遺跡」。
 平な石が積み重なった迷路が続いており、天井は不思議な魔法でとどめられた海水で出来ている。リーシャンは人間が息のできる場所を探して、大地たちをこのダンジョンに誘導した。しかし、透明な海水の壁は、入るのは自由で出るのは難しい。
 
「こちらに進めば、地上に出ることができます。私が案内してあげましょう」
 
 そこに偶然、クラゲのパラソルをさした、人魚の貴婦人が通りかかった。
 
「人魚は魔族だろ。七瀬の部下じゃないか」
「ナナセ? 何のことですか?」
「別口みたいだな」 
 
 警戒する夜鳥に、人魚の貴婦人は不思議そうに返す。
 どうやら七瀬とは関係ないらしい。
 
「だーいじょうぶだよー。嘘を付いてたら、僕が目からビームでやっつけちゃうから」
 
 リーシャンがそう保証したので、一行は人魚を信じる事にした。
 案内を申し出た彼女に従って歩いていくと、ワカメをかぶったスケルトンがわらわら現れた。
 前衛の心菜と大地が、武器を抜いて切り込み、倒した後に入った経験値に驚く。
 
「この遺跡は地上にあった頃、人間たちにレベルアップのダンジョンと呼ばれていました」
 
 人魚は、ころころと笑って大地たちに説明する。

「ちょうどいいぜ! ここでレベルアップしていこうぜ!」
 
 大地は目を輝かせた。
 彼の食い付きに気を良くしたのか、人魚はさらに続ける。
 
「人間たちはここで、限界のLv.299まで特訓していたようですわ」
「Lv.299が限界?」
 
 大地たちは顔を見合わせる。
 
「枢たんはLv.999ですよ?」
 
 真っ先に疑問を口にしたのは、心菜だった。
 心菜の疑問に答えたのは、空中をふわふわ飛ぶリーシャンだ。
 
「称号によって限界レベルは変わるんだよ。神や不死者の称号を持つ者の到達限界は、Lv.999。人間によくある、英雄とか勇者とか巫女の称号を持つ者の到達限界はLv.299だね」
「私は吸血鬼だったから、不死者の称号を持っているのよ。だからLv.999まで上げられるわ」
 
 リーシャンの説明に、椿が補足する。
 
「じゃあ俺たちは、どうあがいても枢さんには追い付けないのか」
 
 大地はがっかりした。
 すると、人魚の貴婦人が不思議そうな顔をする。
 
「Lv.299以上になりたいのですか? 人間はLv.100を越えれば満足かと思っていましたが」
「すごい奴がゴロゴロいすぎて、俺らは足手まといになりつつあるんだよ……」
 
 気落ちしている大地の呟きに、他のメンバーも無言になってしまった。
 椿はのぞき、仲間の中で枢だけが頭ひとつ抜けている。
 そのことに気付いてしまうと、やはり悔しいものだ。
 
「レベルの限界を上げるのは簡単ですよ」
 
 人魚はフフフとほほ笑む。
 おもむろに胸の谷間から、いくつか小瓶を取り出して見せた。
 小瓶の中には、ネオンブルーの輝きを放つ青い液体が入っている。
 
「ここに人魚姫の血というアイテムがあります。このアイテムを使えば、人間でも不死者の称号が得られるのですよ」
「本当か?!」
 
 大地が目の色を変えて小瓶に飛びつく。
 今にも人魚の血を飲みだしそうな大地を、夜鳥が止めた。
 
「やめろ! 怪しいことこの上ない!」
「そうだ」
 
 真も「やめておいた方がいい」と、大地から小瓶を取り上げる。
 
「この世の中はバランスで成り立ってる。何かを得れば、何かを失う。レベル限界解放できるアイテムなんて、何のリスクもなく手に入る訳がないだろ」
 
 だいたい不老不死なんてロクなもんじゃない、とぶつぶつ言う真。
 一方、心菜は真剣な表情で小瓶をのぞきこんでいた。
 
「でも、枢たんに追いつくには、多少のリスクが必要です」
「追いつく必要なんてないぜ、心菜ちゃん。あいつがそれを望んでいるとでも?」
 
 心菜の声に含まれる本気を感じた真は、いつになく真面目に彼女を止めようとした。
 
「でも、このままじゃ、置いて行かれてしまいます!」
 
 しかし、焦りを含んだ彼女の叫びを聞いて、目を見張る。
 心菜はこらえていたものが決壊したように叫んだ。
 
「枢たんは無意識にモテモテなんです! 人間だけじゃなくて動物も神様も、皆、枢たんが好きになっちゃう。心菜はいつも、追いかけるのに必死なんです。だから……!」
「おい!」
 
 止めようとする真だが、間に合わなかった。
 心菜は小瓶の中身を一気飲みする。
 そして飲み干した途端、「ふあぁ」と目を回して気絶した。
 
「心菜ちゃん?!」
「ちょっと何してるのよ!」
 
 椿がしゃがみこんで介抱を始め、周囲の男たちはオロオロした。
 
「あのー」
 
 輪の外に放って置かれている人魚が、所在なく呟く。
 
「ひとくちだけなら、仰っているようなリスクもなく多少丈夫になるだけで、不老不死になったりしないのですが」
「なんだって?!」
「ひと瓶すべて飲むと、逆に毒になってしまいます……あ、今のは私も長老に聞いただけで本当かどうか」
 
 真は手元の瓶をひっくり返した。
 ファンタジーな世界に似つかわしくなく、裏側に使用説明が記載されたシールが貼られていた。一回につき一口。薬は用法を守って正しく服用しましょう。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の武器が最弱のブーメランだった件〜でも、レベルを上げたら強すぎた。なんか伝説作ってます!?〜

神伊 咲児
ファンタジー
守護武器とは、自分の中にあるエネルギーを司祭に具現化してもらって武器にするというもの。 世界は皆、自分だけの守護武器を持っていた。 剣聖に憧れた主人公マワル・ヤイバーン。 しかし、守護武器の認定式で具現化した武器は小さなブーメランだった。 ブーメランは最弱武器。 みんなに笑われたマワルはブーメランで最強になることを決意する。 冒険者になったマワルは初日から快進撃が続く。 そんな評判をよく思わないのが2人の冒険者。立派な剣の守護武器の持ち主ケンゼランドと槍を守護武器とするヤーリーだった。 2人はマワルを陥れる為に色々と工作するが、その行動はことごとく失敗。その度に苦水を飲まされるのであった。 マワルはドンドン強くなり! いい仲間に巡り会える! 一方、ケンゼランドとヤーリーにはざまぁ展開が待ち受ける! 攻撃方法もざまぁ展開もブーメラン。 痛快ブーメラン無双冒険譚!! 他サイトにも掲載していた物をアルファポリス用に改稿いたしました。 全37話、10万字程度。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...