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第三部 魔界探索
74 奇跡の薬?それとも毒薬?
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そのダンジョンのモンスターを倒すと、異常なほど経験値が入ることに気付いたのは、大地だった。
「あ。今、レベルが上がった! ここしばらく全然上がってなかったのに!」
虚空に映るステータスを凝視して、喜びの声を上げる大地。
ここはリーシャンいわく「海底遺跡」。
平な石が積み重なった迷路が続いており、天井は不思議な魔法でとどめられた海水で出来ている。リーシャンは人間が息のできる場所を探して、大地たちをこのダンジョンに誘導した。しかし、透明な海水の壁は、入るのは自由で出るのは難しい。
「こちらに進めば、地上に出ることができます。私が案内してあげましょう」
そこに偶然、クラゲのパラソルをさした、人魚の貴婦人が通りかかった。
「人魚は魔族だろ。七瀬の部下じゃないか」
「ナナセ? 何のことですか?」
「別口みたいだな」
警戒する夜鳥に、人魚の貴婦人は不思議そうに返す。
どうやら七瀬とは関係ないらしい。
「だーいじょうぶだよー。嘘を付いてたら、僕が目からビームでやっつけちゃうから」
リーシャンがそう保証したので、一行は人魚を信じる事にした。
案内を申し出た彼女に従って歩いていくと、ワカメをかぶったスケルトンがわらわら現れた。
前衛の心菜と大地が、武器を抜いて切り込み、倒した後に入った経験値に驚く。
「この遺跡は地上にあった頃、人間たちにレベルアップのダンジョンと呼ばれていました」
人魚は、ころころと笑って大地たちに説明する。
「ちょうどいいぜ! ここでレベルアップしていこうぜ!」
大地は目を輝かせた。
彼の食い付きに気を良くしたのか、人魚はさらに続ける。
「人間たちはここで、限界のLv.299まで特訓していたようですわ」
「Lv.299が限界?」
大地たちは顔を見合わせる。
「枢たんはLv.999ですよ?」
真っ先に疑問を口にしたのは、心菜だった。
心菜の疑問に答えたのは、空中をふわふわ飛ぶリーシャンだ。
「称号によって限界レベルは変わるんだよ。神や不死者の称号を持つ者の到達限界は、Lv.999。人間によくある、英雄とか勇者とか巫女の称号を持つ者の到達限界はLv.299だね」
「私は吸血鬼だったから、不死者の称号を持っているのよ。だからLv.999まで上げられるわ」
リーシャンの説明に、椿が補足する。
「じゃあ俺たちは、どうあがいても枢さんには追い付けないのか」
大地はがっかりした。
すると、人魚の貴婦人が不思議そうな顔をする。
「Lv.299以上になりたいのですか? 人間はLv.100を越えれば満足かと思っていましたが」
「すごい奴がゴロゴロいすぎて、俺らは足手まといになりつつあるんだよ……」
気落ちしている大地の呟きに、他のメンバーも無言になってしまった。
椿はのぞき、仲間の中で枢だけが頭ひとつ抜けている。
そのことに気付いてしまうと、やはり悔しいものだ。
「レベルの限界を上げるのは簡単ですよ」
人魚はフフフとほほ笑む。
おもむろに胸の谷間から、いくつか小瓶を取り出して見せた。
小瓶の中には、ネオンブルーの輝きを放つ青い液体が入っている。
「ここに人魚姫の血というアイテムがあります。このアイテムを使えば、人間でも不死者の称号が得られるのですよ」
「本当か?!」
大地が目の色を変えて小瓶に飛びつく。
今にも人魚の血を飲みだしそうな大地を、夜鳥が止めた。
「やめろ! 怪しいことこの上ない!」
「そうだ」
真も「やめておいた方がいい」と、大地から小瓶を取り上げる。
「この世の中はバランスで成り立ってる。何かを得れば、何かを失う。レベル限界解放できるアイテムなんて、何のリスクもなく手に入る訳がないだろ」
だいたい不老不死なんてロクなもんじゃない、とぶつぶつ言う真。
一方、心菜は真剣な表情で小瓶をのぞきこんでいた。
「でも、枢たんに追いつくには、多少のリスクが必要です」
「追いつく必要なんてないぜ、心菜ちゃん。あいつがそれを望んでいるとでも?」
心菜の声に含まれる本気を感じた真は、いつになく真面目に彼女を止めようとした。
「でも、このままじゃ、置いて行かれてしまいます!」
しかし、焦りを含んだ彼女の叫びを聞いて、目を見張る。
心菜はこらえていたものが決壊したように叫んだ。
「枢たんは無意識にモテモテなんです! 人間だけじゃなくて動物も神様も、皆、枢たんが好きになっちゃう。心菜はいつも、追いかけるのに必死なんです。だから……!」
「おい!」
止めようとする真だが、間に合わなかった。
心菜は小瓶の中身を一気飲みする。
そして飲み干した途端、「ふあぁ」と目を回して気絶した。
「心菜ちゃん?!」
「ちょっと何してるのよ!」
椿がしゃがみこんで介抱を始め、周囲の男たちはオロオロした。
「あのー」
輪の外に放って置かれている人魚が、所在なく呟く。
「ひとくちだけなら、仰っているようなリスクもなく多少丈夫になるだけで、不老不死になったりしないのですが」
「なんだって?!」
「ひと瓶すべて飲むと、逆に毒になってしまいます……あ、今のは私も長老に聞いただけで本当かどうか」
真は手元の瓶をひっくり返した。
ファンタジーな世界に似つかわしくなく、裏側に使用説明が記載されたシールが貼られていた。一回につき一口。薬は用法を守って正しく服用しましょう。
「あ。今、レベルが上がった! ここしばらく全然上がってなかったのに!」
虚空に映るステータスを凝視して、喜びの声を上げる大地。
ここはリーシャンいわく「海底遺跡」。
平な石が積み重なった迷路が続いており、天井は不思議な魔法でとどめられた海水で出来ている。リーシャンは人間が息のできる場所を探して、大地たちをこのダンジョンに誘導した。しかし、透明な海水の壁は、入るのは自由で出るのは難しい。
「こちらに進めば、地上に出ることができます。私が案内してあげましょう」
そこに偶然、クラゲのパラソルをさした、人魚の貴婦人が通りかかった。
「人魚は魔族だろ。七瀬の部下じゃないか」
「ナナセ? 何のことですか?」
「別口みたいだな」
警戒する夜鳥に、人魚の貴婦人は不思議そうに返す。
どうやら七瀬とは関係ないらしい。
「だーいじょうぶだよー。嘘を付いてたら、僕が目からビームでやっつけちゃうから」
リーシャンがそう保証したので、一行は人魚を信じる事にした。
案内を申し出た彼女に従って歩いていくと、ワカメをかぶったスケルトンがわらわら現れた。
前衛の心菜と大地が、武器を抜いて切り込み、倒した後に入った経験値に驚く。
「この遺跡は地上にあった頃、人間たちにレベルアップのダンジョンと呼ばれていました」
人魚は、ころころと笑って大地たちに説明する。
「ちょうどいいぜ! ここでレベルアップしていこうぜ!」
大地は目を輝かせた。
彼の食い付きに気を良くしたのか、人魚はさらに続ける。
「人間たちはここで、限界のLv.299まで特訓していたようですわ」
「Lv.299が限界?」
大地たちは顔を見合わせる。
「枢たんはLv.999ですよ?」
真っ先に疑問を口にしたのは、心菜だった。
心菜の疑問に答えたのは、空中をふわふわ飛ぶリーシャンだ。
「称号によって限界レベルは変わるんだよ。神や不死者の称号を持つ者の到達限界は、Lv.999。人間によくある、英雄とか勇者とか巫女の称号を持つ者の到達限界はLv.299だね」
「私は吸血鬼だったから、不死者の称号を持っているのよ。だからLv.999まで上げられるわ」
リーシャンの説明に、椿が補足する。
「じゃあ俺たちは、どうあがいても枢さんには追い付けないのか」
大地はがっかりした。
すると、人魚の貴婦人が不思議そうな顔をする。
「Lv.299以上になりたいのですか? 人間はLv.100を越えれば満足かと思っていましたが」
「すごい奴がゴロゴロいすぎて、俺らは足手まといになりつつあるんだよ……」
気落ちしている大地の呟きに、他のメンバーも無言になってしまった。
椿はのぞき、仲間の中で枢だけが頭ひとつ抜けている。
そのことに気付いてしまうと、やはり悔しいものだ。
「レベルの限界を上げるのは簡単ですよ」
人魚はフフフとほほ笑む。
おもむろに胸の谷間から、いくつか小瓶を取り出して見せた。
小瓶の中には、ネオンブルーの輝きを放つ青い液体が入っている。
「ここに人魚姫の血というアイテムがあります。このアイテムを使えば、人間でも不死者の称号が得られるのですよ」
「本当か?!」
大地が目の色を変えて小瓶に飛びつく。
今にも人魚の血を飲みだしそうな大地を、夜鳥が止めた。
「やめろ! 怪しいことこの上ない!」
「そうだ」
真も「やめておいた方がいい」と、大地から小瓶を取り上げる。
「この世の中はバランスで成り立ってる。何かを得れば、何かを失う。レベル限界解放できるアイテムなんて、何のリスクもなく手に入る訳がないだろ」
だいたい不老不死なんてロクなもんじゃない、とぶつぶつ言う真。
一方、心菜は真剣な表情で小瓶をのぞきこんでいた。
「でも、枢たんに追いつくには、多少のリスクが必要です」
「追いつく必要なんてないぜ、心菜ちゃん。あいつがそれを望んでいるとでも?」
心菜の声に含まれる本気を感じた真は、いつになく真面目に彼女を止めようとした。
「でも、このままじゃ、置いて行かれてしまいます!」
しかし、焦りを含んだ彼女の叫びを聞いて、目を見張る。
心菜はこらえていたものが決壊したように叫んだ。
「枢たんは無意識にモテモテなんです! 人間だけじゃなくて動物も神様も、皆、枢たんが好きになっちゃう。心菜はいつも、追いかけるのに必死なんです。だから……!」
「おい!」
止めようとする真だが、間に合わなかった。
心菜は小瓶の中身を一気飲みする。
そして飲み干した途端、「ふあぁ」と目を回して気絶した。
「心菜ちゃん?!」
「ちょっと何してるのよ!」
椿がしゃがみこんで介抱を始め、周囲の男たちはオロオロした。
「あのー」
輪の外に放って置かれている人魚が、所在なく呟く。
「ひとくちだけなら、仰っているようなリスクもなく多少丈夫になるだけで、不老不死になったりしないのですが」
「なんだって?!」
「ひと瓶すべて飲むと、逆に毒になってしまいます……あ、今のは私も長老に聞いただけで本当かどうか」
真は手元の瓶をひっくり返した。
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