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第三部 魔界探索
72 流されてお腹の中
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「自己再生!」
俺が次の一撃を放つ前に、七瀬は立ち直ってHPを回復した。
真が半眼で呟く。
「ポ●モンかよ」
俺は思わず同意しかけた。
分かるよ。せっかく削ったHPを満タンにされると、ちょっとイラっとするよな。
元の美少女に戻った七瀬は、CM前に戻った番組のように、余裕のある態度を演出した。
「ふっ……確かにそっちの地味男の言う通り、スキルレベルが上がった訳じゃないものね。ええ、当然分かってるわよ!」
「俺の名前を覚えてないんだな……」
「でも私のHPが、あなたたちの倍以上あるのは事実よ!」
俺はその台詞に、七瀬のステータスに目を走らせた。
鑑定スキルのレベルは当然、俺の方が高い。彼女が隠しているステータスも見えている。
こいつ……HPを攻撃に使うスキルがあるな。
聖晶神の杖を召喚して、七瀬の技をキャンセルする魔法を使おうとしたが、向こうが「Lv.1016」だからか失敗してしまった。
「ちっ……」
行儀悪く舌打ちして、仕方なく防御のために結界魔法を準備する。
「これで終わりよ! 深海高津波!」
海面がゴボゴボ泡立って盛り上がり、 七瀬を中心に水の壁が発生した。
椿が「そうはさせない」と氷の魔法を使って津波を凍らせようとしたが、次から次に沸き上がる海水に飲み込まれる。
その内に海水の瀑布は破れ、津波が怒濤の勢いで俺たちに襲いかかってきた。
「枢たん!」
「心菜、手を」
離ればなれにならないよう、手を繋いでから結界魔法を使おうと彼女に手を伸ばす。しかしそんな俺の顔面に何かぶつかってきて、視界がブラックアウトした。
「キュー!」
「ぶっ」
それはウサギギツネのメロンだった。
大地の肩に乗っていたのが、非常事態に動転して、俺に飛びかかってきたのだ。
伸ばした手はすれ違う。
最後に見たのは「ガーン」とショックを受けた心菜の顔だった。
津波に飲まれる瞬間、意識を失っても持続する泡状の結界を、仲間たち個別に掛けていた。だから心菜たちの心配はしてなかったのだが。
うっかり自分に魔法掛けるの忘れてた……。
「……はっ」
気がついた時には、びしょ濡れで洞窟の中に倒れていた。
頬をペロペロなめる小動物。
この事態の元凶であるウサギギツネのメロンだ。
俺はメロンを抱えて上体を起こした。
「まずったなー……ひとりか」
見回しても誰もいない。
咄嗟に結界魔法を使い忘れたとはいえ、俺自身は自動防御のスキルが発動してダメージは無かった。濡れた服が気持ち悪いだけだ。
「そういえば、パーティーを組んでたな」
やっと思い出して、視界の隅っこのアイコンに指を走らせる。
異世界に落ちる際にリセットされて使えなかったパーティーメニューだが、今は改めてパーティーを組んでいるので使えるはずだった。
この世界ではゲームじみたグラフィックの、直線で構成された簡易マップを参照できる。
パーティーを組んでいる場合は、マップにメンバーの位置が表示される仕様だ。
今、マップを見たところ、近くに心菜たちはいないようだった。
通信やメッセージを飛ばしたりする機能も無い以上、お手上げだ。
「メンバーの名前とHPバーもグレーアウトされてやがる……使えねーな」
離れ過ぎているらしく、心菜たちの位置もHPも確認できない。
俺は、パーティーのステータス確認を早々に諦めた。
この世界で過ごした千年間で学んだことは、ゲームのようなシステム画面やメッセージは、最終的には何の役にも立たないということだ。かゆいところまで手が届かないので、結局、自分のスキルか、直接見たり聞いたりした情報が一番頼りになる。
「照明球」
暗くて周囲の様子が分からないので、魔法で明かりを付ける。
壁や地面は赤みがかっており、濡れて光っている。
生暖かい風が頬を撫でた。
何か普通の洞窟と違うような……?
『テステス~♪ 聞こえるカナメ~?』
「リーシャン?!」
頭上に小さな金色の光の球が現れた。
光からリーシャンの声がする。
「どこにいるんだ?」
『カナメの仲間と一緒にいるよ。僕、機転を効かせて、カナメの仲間の人間をまとめて保護したんだ。偉いでしょー褒めて褒めて!』
ナイスフォローだ、リーシャン。
「偉いぞリーシャン。俺ははぐれたけどな……」
『カナメったら、自分に魔法掛けるの忘れてたでしょー。流される方向が違ってて回収できなかったよー』
「うっ……ところでリーシャン、この魔法は何だ? 電話みたいな」
「デンワ? これはね、僕が開発した神様連絡網だよ!」
「神様……連絡網?」
遠隔地にいるはずのリーシャンの声が、クリアに聞こえてくる。かなり精度の高い魔法だ。マスコットみたいな見た目に惑わされるが、リーシャンは祝福の竜神。魔法は得意なのである。
『遠い場所にいるカナメと話すために、前から準備してたんだよー』
「なるほど。リーシャン、そっちはどこにいるか、場所は分かるか?」
『僕らは海底遺跡だよ。カナメは……海神マナーンのお腹の中だね!』
「は?」
俺は思わず間抜けな声を漏らして、周囲を見回した。
お腹の中?
海神マナーンは巨大な鯨だ。人ひとりくらい飲み込めそうな。
ど、どうりで壁がうねってると思った……やば、消化吸収されるんじゃね?!
俺が次の一撃を放つ前に、七瀬は立ち直ってHPを回復した。
真が半眼で呟く。
「ポ●モンかよ」
俺は思わず同意しかけた。
分かるよ。せっかく削ったHPを満タンにされると、ちょっとイラっとするよな。
元の美少女に戻った七瀬は、CM前に戻った番組のように、余裕のある態度を演出した。
「ふっ……確かにそっちの地味男の言う通り、スキルレベルが上がった訳じゃないものね。ええ、当然分かってるわよ!」
「俺の名前を覚えてないんだな……」
「でも私のHPが、あなたたちの倍以上あるのは事実よ!」
俺はその台詞に、七瀬のステータスに目を走らせた。
鑑定スキルのレベルは当然、俺の方が高い。彼女が隠しているステータスも見えている。
こいつ……HPを攻撃に使うスキルがあるな。
聖晶神の杖を召喚して、七瀬の技をキャンセルする魔法を使おうとしたが、向こうが「Lv.1016」だからか失敗してしまった。
「ちっ……」
行儀悪く舌打ちして、仕方なく防御のために結界魔法を準備する。
「これで終わりよ! 深海高津波!」
海面がゴボゴボ泡立って盛り上がり、 七瀬を中心に水の壁が発生した。
椿が「そうはさせない」と氷の魔法を使って津波を凍らせようとしたが、次から次に沸き上がる海水に飲み込まれる。
その内に海水の瀑布は破れ、津波が怒濤の勢いで俺たちに襲いかかってきた。
「枢たん!」
「心菜、手を」
離ればなれにならないよう、手を繋いでから結界魔法を使おうと彼女に手を伸ばす。しかしそんな俺の顔面に何かぶつかってきて、視界がブラックアウトした。
「キュー!」
「ぶっ」
それはウサギギツネのメロンだった。
大地の肩に乗っていたのが、非常事態に動転して、俺に飛びかかってきたのだ。
伸ばした手はすれ違う。
最後に見たのは「ガーン」とショックを受けた心菜の顔だった。
津波に飲まれる瞬間、意識を失っても持続する泡状の結界を、仲間たち個別に掛けていた。だから心菜たちの心配はしてなかったのだが。
うっかり自分に魔法掛けるの忘れてた……。
「……はっ」
気がついた時には、びしょ濡れで洞窟の中に倒れていた。
頬をペロペロなめる小動物。
この事態の元凶であるウサギギツネのメロンだ。
俺はメロンを抱えて上体を起こした。
「まずったなー……ひとりか」
見回しても誰もいない。
咄嗟に結界魔法を使い忘れたとはいえ、俺自身は自動防御のスキルが発動してダメージは無かった。濡れた服が気持ち悪いだけだ。
「そういえば、パーティーを組んでたな」
やっと思い出して、視界の隅っこのアイコンに指を走らせる。
異世界に落ちる際にリセットされて使えなかったパーティーメニューだが、今は改めてパーティーを組んでいるので使えるはずだった。
この世界ではゲームじみたグラフィックの、直線で構成された簡易マップを参照できる。
パーティーを組んでいる場合は、マップにメンバーの位置が表示される仕様だ。
今、マップを見たところ、近くに心菜たちはいないようだった。
通信やメッセージを飛ばしたりする機能も無い以上、お手上げだ。
「メンバーの名前とHPバーもグレーアウトされてやがる……使えねーな」
離れ過ぎているらしく、心菜たちの位置もHPも確認できない。
俺は、パーティーのステータス確認を早々に諦めた。
この世界で過ごした千年間で学んだことは、ゲームのようなシステム画面やメッセージは、最終的には何の役にも立たないということだ。かゆいところまで手が届かないので、結局、自分のスキルか、直接見たり聞いたりした情報が一番頼りになる。
「照明球」
暗くて周囲の様子が分からないので、魔法で明かりを付ける。
壁や地面は赤みがかっており、濡れて光っている。
生暖かい風が頬を撫でた。
何か普通の洞窟と違うような……?
『テステス~♪ 聞こえるカナメ~?』
「リーシャン?!」
頭上に小さな金色の光の球が現れた。
光からリーシャンの声がする。
「どこにいるんだ?」
『カナメの仲間と一緒にいるよ。僕、機転を効かせて、カナメの仲間の人間をまとめて保護したんだ。偉いでしょー褒めて褒めて!』
ナイスフォローだ、リーシャン。
「偉いぞリーシャン。俺ははぐれたけどな……」
『カナメったら、自分に魔法掛けるの忘れてたでしょー。流される方向が違ってて回収できなかったよー』
「うっ……ところでリーシャン、この魔法は何だ? 電話みたいな」
「デンワ? これはね、僕が開発した神様連絡網だよ!」
「神様……連絡網?」
遠隔地にいるはずのリーシャンの声が、クリアに聞こえてくる。かなり精度の高い魔法だ。マスコットみたいな見た目に惑わされるが、リーシャンは祝福の竜神。魔法は得意なのである。
『遠い場所にいるカナメと話すために、前から準備してたんだよー』
「なるほど。リーシャン、そっちはどこにいるか、場所は分かるか?」
『僕らは海底遺跡だよ。カナメは……海神マナーンのお腹の中だね!』
「は?」
俺は思わず間抜けな声を漏らして、周囲を見回した。
お腹の中?
海神マナーンは巨大な鯨だ。人ひとりくらい飲み込めそうな。
ど、どうりで壁がうねってると思った……やば、消化吸収されるんじゃね?!
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