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第一部 世界熔解
18 二つの世界のどちらかを選ぶなら
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「行く! 心菜もいーくーのー!」
「駄目だっつってんだろ!」
黒崎に会いに一人きりでビッグサイトへ行くと言ったら、やっぱり心菜が大反対した。
「電柱に隠れて付いていく! 心菜は忍者にジョブチェンジするのだ!」
「絶対に無理だから」
心菜は駄々をこねる。
こいつは何かと目立つから、隠密行動に向いていない。
俺はなだめるように彼女の猫っ毛を撫でた。
「仕方ないな……真、ロープ」
「あいよ」
心菜は縄でぐるぐる巻きにして、学校の教室に軟禁することにした。ちなみに真が出してきたのは、縄は縄でも、縄跳びのビニールロープだった。
「仮にも彼女に酷くないですか?!」
「酷くない。乱入されて混戦になったら、黒崎からお前を守りきれるか分からないからな」
恨みがましく睨んでくる心菜に背を向けて、俺は歩き出した。
「心菜を見張っといてくれ」
「へーい」
真はスマホの画面から目を離さずに、手をヒラヒラ振った。
電車を乗り継いで、黒崎が待つというビックサイトへ向かう。
ビッグサイトは正式名称を東京国際展示場と言い、広大な建物を利用して様々な催しが実施されている。有名なところでは漫画の同人誌の即売会などだろうか。
そんなビッグサイトだが、最近は奇妙なモンスターが目撃されたという噂で入り口が閉鎖されており、一般の観光客は立ち入り禁止になっていた。
俺は少し考えて、建物内部が見えるガラスの窓から、転送魔法をアレンジして自分を建物内部に転送させた。
「ビッグサイトって言ったって広いよな」
どこで待ち合わせかは聞いていない。
黒崎は「ビッグサイトに来い」としか言っていなかった。
そういえば、閉鎖の原因となった奇妙なモンスターの噂は、黒崎たちが関係しているのだろうか。
誰もいない通路を歩いていると、キューンキューンと鳴き声が聞こえた。
「あ、ウサギギツネ」
柱の陰にうずくまって、ウサギとキツネを合体させたような生き物が鳴いている。
異世界の生き物だ。
良質の毛皮が採れるということで、よく狩人の標的にされていた。基本的には無害なおとなしい動物だが、身を守るために幻惑魔法を使い、狩人に幻影を見せることもあるという。
ビッグサイトのモンスター目撃情報は、こいつの幻惑魔法のせいかもしれない。
それにしても、焦げたフレンチトーストみたいな色の、艶々の毛並みが気になる。触ってみたいとずっと思っていたが、異世界でクリスタルの俺は動けないからどうにもならなかった。
「どこから迷いこんだんだ、お前。おいで」
しゃがんで手を差しのべると、ウサギギツネは黒い円らな瞳で俺を見上げた。くうーっ、可愛い!
俺はふわふわした可愛い生き物に弱い。彼女の心菜もふわふわした感じが好きで付き合っているようなものだった。
「キューッ!」
ウサギギツネは俺に突進すると、服の中に潜り込んだ。
胸にくっつくウサギギツネの震えが伝わってくる。何に怯えているのだろうか。
「……近藤は生き物に好かれるんだな」
「!」
気が付くと背後に黒崎が立っていた。
うわっ、ちょっとびっくりしたじゃないか。
ビッグサイトに入った時から自動防御は使用しているので、油断していた訳じゃない。俺は心菜のような武芸の達人ではないので、背後に立たれたことは気にならなかった。
それに背後から攻撃されても、その時はその時だ。
異世界でセーブクリスタルだった俺は、どれだけ危機が迫っても、自分の足では一歩も動けなかった。何が起きてもただ受け入れるしかない。だから「何とかなるさ」の精神で対応する癖が付いてしまっている。
黒崎の不機嫌そうな声がした。
「俺は生き物が寄ってこない。そのウサギギツネも、逃げ回るから捕まえるのが面倒になっていたところだ……」
「辛気くさい顔をしてるからだろ」
「……」
振り向いて言い返すと、黒崎はムッとしたようだ。
俺は服の上からウサギギツネを撫でながら立ち上がる。
のんきに世間話をするつもりはない。
すぐに本題に入った。
「約束通り、一人で来てやったぜ。お前の目的とやらを聞かせてみろよ」
言いながら、緊張せずに自然体で話せる自分に気付く。
異世界の千年間でべらぼうに度胸が付いてしまったので、よほどの窮地でない限り、恐怖は感じそうにない。
「……近藤。異世界と現実世界、どちらの方が長い?」
「そりゃ勿論、異世界だろ」
本題と関係があるのか、無いのか。
唐突に質問を投げかけてきた黒崎に、俺は即答した。
なんたって異世界で千年以上過ごしたからな。
「俺もそうだ。魔獣に転生し、数百年以上を異世界で過ごした。だからだろうな……こっちに帰ってきても、現実感に乏しい。長い旅をしている最中に故郷だった場所に立ち寄ったような、妙な気分だ」
黒崎は遠い目をして言う。
確かに千年は長すぎた。しかし俺の場合はクリスタルだったから、異世界に家族や恋人がいる訳ではない。黒崎は違うのだろうか。
「だから、異世界と地球、どちらかを選べと言われたら、俺は異世界を選ぶ。二つの世界のうち、どちらかが滅ばないと片方が継続できないと知ったら、異世界ジ・アニマを選ぶさ」
「おい、お前が黙示録獣を目覚めさせたって聞いたが」
俺は慌てて、黒崎の話を遮った。
話の行く先が分からなくなってきたので、分かる方向に軌道修正したくなったのだ。確か黒崎が黙示録獣を目覚めさせたと、竜神リーシャンは言っていた。
「そうだ、俺が黙示録獣を目覚めさせた。近藤は耳が早い。良い情報源を持っているんだな」
「俺のことはどうでもいい。話を整理させろ。お前は異世界ジ・アニマを滅ぼすために、黙示録獣を目覚めさせた訳じゃないのか」
「まさか」
黒崎は口元に冷笑を浮かべた。
「俺たちの仲間で預言者クラスの能力者が言うには、このまま二つの世界が接触し続けると両方の世界が滅ぶそうだ。俺は世界を救うために動いている」
「ちょっと待て。頭が混乱する……!」
「二つの世界は時空のメルトダウンにより繋がり、双方を巻き込んで消滅の未来が訪れようとしている。生き延びられるのは片方の世界だけ。生き延びるには、もう片方の世界を滅ぼさなければならない」
あまりに突拍子のない話に俺は絶句した。
「駄目だっつってんだろ!」
黒崎に会いに一人きりでビッグサイトへ行くと言ったら、やっぱり心菜が大反対した。
「電柱に隠れて付いていく! 心菜は忍者にジョブチェンジするのだ!」
「絶対に無理だから」
心菜は駄々をこねる。
こいつは何かと目立つから、隠密行動に向いていない。
俺はなだめるように彼女の猫っ毛を撫でた。
「仕方ないな……真、ロープ」
「あいよ」
心菜は縄でぐるぐる巻きにして、学校の教室に軟禁することにした。ちなみに真が出してきたのは、縄は縄でも、縄跳びのビニールロープだった。
「仮にも彼女に酷くないですか?!」
「酷くない。乱入されて混戦になったら、黒崎からお前を守りきれるか分からないからな」
恨みがましく睨んでくる心菜に背を向けて、俺は歩き出した。
「心菜を見張っといてくれ」
「へーい」
真はスマホの画面から目を離さずに、手をヒラヒラ振った。
電車を乗り継いで、黒崎が待つというビックサイトへ向かう。
ビッグサイトは正式名称を東京国際展示場と言い、広大な建物を利用して様々な催しが実施されている。有名なところでは漫画の同人誌の即売会などだろうか。
そんなビッグサイトだが、最近は奇妙なモンスターが目撃されたという噂で入り口が閉鎖されており、一般の観光客は立ち入り禁止になっていた。
俺は少し考えて、建物内部が見えるガラスの窓から、転送魔法をアレンジして自分を建物内部に転送させた。
「ビッグサイトって言ったって広いよな」
どこで待ち合わせかは聞いていない。
黒崎は「ビッグサイトに来い」としか言っていなかった。
そういえば、閉鎖の原因となった奇妙なモンスターの噂は、黒崎たちが関係しているのだろうか。
誰もいない通路を歩いていると、キューンキューンと鳴き声が聞こえた。
「あ、ウサギギツネ」
柱の陰にうずくまって、ウサギとキツネを合体させたような生き物が鳴いている。
異世界の生き物だ。
良質の毛皮が採れるということで、よく狩人の標的にされていた。基本的には無害なおとなしい動物だが、身を守るために幻惑魔法を使い、狩人に幻影を見せることもあるという。
ビッグサイトのモンスター目撃情報は、こいつの幻惑魔法のせいかもしれない。
それにしても、焦げたフレンチトーストみたいな色の、艶々の毛並みが気になる。触ってみたいとずっと思っていたが、異世界でクリスタルの俺は動けないからどうにもならなかった。
「どこから迷いこんだんだ、お前。おいで」
しゃがんで手を差しのべると、ウサギギツネは黒い円らな瞳で俺を見上げた。くうーっ、可愛い!
俺はふわふわした可愛い生き物に弱い。彼女の心菜もふわふわした感じが好きで付き合っているようなものだった。
「キューッ!」
ウサギギツネは俺に突進すると、服の中に潜り込んだ。
胸にくっつくウサギギツネの震えが伝わってくる。何に怯えているのだろうか。
「……近藤は生き物に好かれるんだな」
「!」
気が付くと背後に黒崎が立っていた。
うわっ、ちょっとびっくりしたじゃないか。
ビッグサイトに入った時から自動防御は使用しているので、油断していた訳じゃない。俺は心菜のような武芸の達人ではないので、背後に立たれたことは気にならなかった。
それに背後から攻撃されても、その時はその時だ。
異世界でセーブクリスタルだった俺は、どれだけ危機が迫っても、自分の足では一歩も動けなかった。何が起きてもただ受け入れるしかない。だから「何とかなるさ」の精神で対応する癖が付いてしまっている。
黒崎の不機嫌そうな声がした。
「俺は生き物が寄ってこない。そのウサギギツネも、逃げ回るから捕まえるのが面倒になっていたところだ……」
「辛気くさい顔をしてるからだろ」
「……」
振り向いて言い返すと、黒崎はムッとしたようだ。
俺は服の上からウサギギツネを撫でながら立ち上がる。
のんきに世間話をするつもりはない。
すぐに本題に入った。
「約束通り、一人で来てやったぜ。お前の目的とやらを聞かせてみろよ」
言いながら、緊張せずに自然体で話せる自分に気付く。
異世界の千年間でべらぼうに度胸が付いてしまったので、よほどの窮地でない限り、恐怖は感じそうにない。
「……近藤。異世界と現実世界、どちらの方が長い?」
「そりゃ勿論、異世界だろ」
本題と関係があるのか、無いのか。
唐突に質問を投げかけてきた黒崎に、俺は即答した。
なんたって異世界で千年以上過ごしたからな。
「俺もそうだ。魔獣に転生し、数百年以上を異世界で過ごした。だからだろうな……こっちに帰ってきても、現実感に乏しい。長い旅をしている最中に故郷だった場所に立ち寄ったような、妙な気分だ」
黒崎は遠い目をして言う。
確かに千年は長すぎた。しかし俺の場合はクリスタルだったから、異世界に家族や恋人がいる訳ではない。黒崎は違うのだろうか。
「だから、異世界と地球、どちらかを選べと言われたら、俺は異世界を選ぶ。二つの世界のうち、どちらかが滅ばないと片方が継続できないと知ったら、異世界ジ・アニマを選ぶさ」
「おい、お前が黙示録獣を目覚めさせたって聞いたが」
俺は慌てて、黒崎の話を遮った。
話の行く先が分からなくなってきたので、分かる方向に軌道修正したくなったのだ。確か黒崎が黙示録獣を目覚めさせたと、竜神リーシャンは言っていた。
「そうだ、俺が黙示録獣を目覚めさせた。近藤は耳が早い。良い情報源を持っているんだな」
「俺のことはどうでもいい。話を整理させろ。お前は異世界ジ・アニマを滅ぼすために、黙示録獣を目覚めさせた訳じゃないのか」
「まさか」
黒崎は口元に冷笑を浮かべた。
「俺たちの仲間で預言者クラスの能力者が言うには、このまま二つの世界が接触し続けると両方の世界が滅ぶそうだ。俺は世界を救うために動いている」
「ちょっと待て。頭が混乱する……!」
「二つの世界は時空のメルトダウンにより繋がり、双方を巻き込んで消滅の未来が訪れようとしている。生き延びられるのは片方の世界だけ。生き延びるには、もう片方の世界を滅ぼさなければならない」
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