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第一部 世界熔解

12 手合わせは俺の勝ちでいいよな

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 俺と心菜は同時に呆気に取られる。
 城山大地という青年は、なぜか俺に試合を申し込んできた。
 
「お台場の戦闘を見たので、鳳さんの戦い方は分かりました。そっちのLv.1の詐欺師は見るからに普通の戦闘向きじゃないから、魔法使いの人で」
「い、いや俺はそういうのは……」
 
 いきなり戦闘に引きずりだされそうになって、俺は慌てて断ろうとした。
 だが城山はにっこり微笑む。
 
「俺は魔法剣士というクラスなんですが、この世界では剣が無いので、実力の半分も発揮できないんですよ。近藤さんがLv.50の魔法使いでも良い勝負だと思いますよ。ちょうど良いでしょう?」
 
 城山は自信満々の口調で、よく聞くと失礼なことを堂々と宣った。
 俺の偽装しているステータスを見て勝てると踏んでいるらしい。
 ちょっと馬鹿じゃないかな。
 
「う、うーん」
 
 俺が断り文句を頑張って考えていると、心菜がぼそりと言った。
 
「枢たんの格好いいところ見たいにゃー」
「あのな心菜」
「枢たん、勝つ自信ないのにゃー?」
「……」
 
 そんな挑発に乗ってたまるか……いや、ちょっと待て。ここで勝負を断って俺にメリットがあるのか、逆に。もう名指しされている時点で目立ってしまっているので、断って地味を装うのは無理だ。
 
「分かった」
 
 俺は手合わせを受けることにした。
 石の身体の時とスペックが少し違うようなので、その違いを検証するのに良いかもしれない。例えば、セーブクリスタルだった時はMPが無限だったが今は固定値だ。スキルの使い方にも違いが出てくるはずである。
 
 
 
 
 真は腕組みして、向かい合う枢と城山を眺めた。
 隣では心菜が「枢たんガンバ!」と声援を送っている。
 
「なあ心菜ちゃん。枢の奴、隠してるレベルどのくらいだと思う?」
 
 真は心菜に聞いてみた。
 この手合わせ、枢が負けるとはどうも思えない真だった。
 色々隠している風な枢だったが、真は「詐欺師」なので枢を積極的に責めるつもりはなかった。真だって異世界での出来事について、枢に話していない事もある。お互い様というやつだ。
 責める資格があるとすれば、心菜だろう。
 恋人の彼女にも、異世界での事を打ち明けていないようだから。
 
 だが心菜は、真の質問の答えとは別なことを言い出した。
 
「真くん、枢たんが辛いもの苦手って知ってる?」 
「あーそういえば」
 
 寿司はワサビ抜き、カレーは甘辛止まり。
 幼馴染みの食べ物の好みを思い出して、真は頭をかいた。
 
「心菜の前では格好つけて、辛いものを無理に食べるんだよ!」
「……レベルの話とどう関係あんの?」
 
 心菜はぐっと拳を握った。
 
「へたれな枢たんだから、実は心菜よりレベル低いことを気にして隠してるのかも?!」
 
 それはどうだろう、と真は思ったが、否定する要素もないので無言で戦いを見守ることにした。
 
 
 
 
 体育館の中央で距離を置いて向かい合う、俺と城山。
 
「もしかして偽装してます?」
 
 城山は俺の冷静な態度に、ステータス偽装の可能性に気付いたようだ。
 
「当たり前だろ。自分の手札を全部オープンにする訳がない」
「ま、そうですよね」
 
 肩をすくめる城山。
 
「レベルが戦いの全てを決める訳じゃないですからね……蛇霊呪カース!」
 
 対戦が始まってすぐ、呪いの呪文が飛んでくる。
 抵抗レジストできるけれど、俺はあえて呪いを受けた。
 本当は自動防御オートシールドで楽々防げるが、それじゃ戦いにならないだろうと思ったので、今回そのスキルはOFF状態だ。
 ステータスの状態の項目が「呪い」になり、状態異常のアイコンがHPのバーの横で点滅する。へえ、呪いってこういう表示になるのか。
 全スキルを強制的に「Lv.10」の状態にする呪い……面白いな。
 
「喰らえ、白火炎ホワイトフレア!」
光盾シールド
 
 続いて飛んでくる城山の炎の魔法。
 俺は落ち着いて防御の魔法を使った。しかしスキルは「Lv.10」に下がっているので効果が落ちている。
 俺の盾の魔法は、城山の炎の前に砕け散りそうだ。
 
「近藤さん、どれだけ高レベルだろうと、呪いに掛かっちゃ関係ないぜ?!」
「そうだな。じゃあ重ねるか」
「へ?!」
 
 俺は追加で、三枚の盾の呪文を重ねた。
 城山の炎を飲み込んで盾は消滅する。
 
「いやいやいや、おかしいでしょ! 同時に使える呪文は一つでしょ?!」
「え……そんな規則あったっけ?」
 
 城山が焦って喚くのを聞いて、俺は首をかしげた。
 
「こうなったら、俺の最強呪文で……低レベルの呪文を何個使っても、無駄だと思い知らせてやる」
 
 城山は呪文の詠唱を始めた。
 強大な効果がある秘伝級の魔法は、呪文の詠唱をする必要があるのだ。
 俺は彼の呪文を聞いていて、ふと「スキルがLv.10に下がった今の状態で最大威力の魔法を使ったらどうなるんだろう」と興味が沸いた。
 論より証拠。
 俺も手持ちの中で一番強力な、秘伝級の魔法を使うために詠唱を始める。
 
「――おれは此の魔法式ねがいの真値を世界に問う」
 
 呪文を唱えるの恥ずかしいな!
 クリスタルの体の時は、念じるだけだった。
 だが、意外にすらすら呪文が出てくる。
 おっとMPが半分に減った。スキルレベルが下がっていてもMPを食うんだな。
 
「熾天使の炎、氷晶の銀狼の足跡、金剛石の――」
 
 各属性の最強魔法を集約する。
 目の前の空中に銀色の光で魔法陣が描かれ、円に沿うように一個ずつ魔法の灯が燃え上がる。
 本来であれば空に浮かぶ巨大な魔法陣になるはずだが、スキルレベルの低下に伴ってサイズが小さくなっているようだ。
 
「やめんか!」
 
 そして途中で、アマテラスに後頭部を叩かれた。
 魔法が中断される。
 振り返ると金色の扇を持って、空中でアマテラスが仁王立ちしていた。
 
「なんで止めるんです?」
「そんな魔法使われたら、妾の結界に穴が空くわ!」
「多少暴れても大丈夫って」
「なにごとも限度がある!」
 
 言っている間に、城山の魔法が完成した。
 炎と雷撃が混合された秘伝魔法が降ってくる。
 俺は咄嗟に呪いをサクッと解呪して、自動防御オートシールドをONにした。
 あっさり城山の魔法をしのいだのは言うまでもない。
 
「馬鹿な……近藤さん、俺の掛けた呪いは?!」
「あ、ごめん。さっき解いちゃった」
 
 スキルレベルが下がっても、基礎能力値や称号の効果があるから、解呪できてしまうんだよな。
 
「解いちゃった、って……」
 
 城山は絶句すると、がっくり肩を落とした。
 俺は城山を哀れに思った。
 
「あー、悪い。じゃあ剣を使って勝負する?」
「剣はないって……」
「じゃあ作ってやるよ」
 
 魔法で近くの地面から鉱石を手元に呼び寄せると、炎と水と風の魔法を使って加工する。
 千年の間、暇だったから、魔法で剣を作る練習をしていたのだ。
 こっそりドワーフの工房を借りて見様見真似で練習して、鍛冶師のおっちゃんを驚かせたりしたな……閑話休題。異世界で石ころをしていた俺は、石だから大地属性の魔法の使用に各種ボーナスが付く。
 
「はい」
 
 数分で基本のロングソードを作って差し出すと、城山はぎょっとした。
 
「近藤さん、この剣はありがたく頂きます。そして、もう勝負は俺の負けで良いです……」
「いいの?」
「うむ。あまりのチート具合に、プレイヤーの者たちもドン引いておるぞ」
 
 俺はアマテラスの指摘に、プレイヤーの仲間を見渡して愕然とした。
 皆、なぜか遠い目をしている。
 わりと加減して戦ったのに、なんでだ?!
 
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