異世界転移でモブの俺はよくある不遇パターンかと思ったら、イケメン幼馴染みは一般人で俺が救世主になってるんだが

空色蜻蛉

文字の大きさ
上 下
33 / 74
第一部

33 祝勝会で彼女と花火見物しました

しおりを挟む
 賞をもらうのは小学校の書道大会以来だけど、もらう賞が東皇陛下から授与される武勲功労賞とは、だいぶ色々すっ飛ばして無いだろうか。
 いや、異世界転移している時点で、ぶっ飛んでいるから今更か。
 戦いで活躍した自覚はあるから、もらえるものはもらっとくけど。ところで賞金はたんまり出るの?
 
「功二級、金鷹勲章、授与」
 
 勲章は、複数の交差した線で陽光を表現した上に、剣と鷹を配置した意匠のメダルだった。たぶん、ものすごく栄誉な物なんだろうけど、異世界に来て感覚が麻痺してしまっているからか「おおぅ」以上の感想が出てこない。
 皇居内の建物でセレモニーが行われた後、天照殿で東皇陛下との拝謁の儀があった。
 東皇陛下は「敵の首級を上げアマテラスを復活させた功労は、本当は一級に値しますが、世界情勢も依然として厳しいですし、今後の活躍に期待して二級とします」的な説明をしてくれた。そもそも勲章が欲しくて古神に乗った訳ではないから、一級だとか二級だとか、どうでもいい話だ。
 
 薄い白い和紙の向こう側、東皇陛下の姿は影しか見えなかったけれど、背丈や声から、若い女性のようだ。後に聞いた話によると、パラレル日本は代々女帝で、物心付くか付かないかの幼い年齢で即位するらしい。
 
「それでは、我が国の勝利を祝して、神に捧げる舞を奉納します」
 
 儀式の最後の方で突然、咲良が舞台に上がったから、とても驚いた。
 道理で家を出る時に「私は実家に寄って行くから」と一緒に来なかった訳だよ。
 深緑の着物に身を包み、金色の扇を二枚持って、咲良は舞台の中央に立った。日本舞踊は始めて見たけれど、鼓や笛の音に合わせて、クルリクルリと舞う咲良の動きは滑らかで見応えがあった。動きは緩やかだけど、無駄が一切ない。扇を回し、長い裾を翻す仕草は優雅で華麗だ。
 
「響矢くん……僕は、僕が当主の代で、こんな歴史に残る出来事に立ち会えるとは、思ってもみなかったよ……!」
「叔父さん、鼻水が! ハンカチハンカチ」
「おお、すまない。クシュ」
 
 優矢叔父さんが大層感激していたので、ようやく俺も重大な事に関わったのだと少し実感が沸いた。
 異世界転移ビギナーズラックか、神様の加護か、チートのおかげだ。
 俺的には棚からボタ餅である。
 
「ええと、身に余る光栄です」
 
 コメントを求められたので、本気でそればっかり繰り返してたら、役人や神華七家のお偉いさんから「なんて謙虚だ」と感心されてしまった。いや本当にそう思ってるんだってば。
 セレモニーには、天照防衛特務機関の職員や、神華七家の関係者、戦いに参加した古神操縦者とその家族など、多くの人が参列していた。
 儀式が全て終了すると、皆、雑談をしながら解散の流れである。
 
「響矢くん。この後、大神島の浜辺で、トウモロコシと海鮮を焼いたり花火を見たりするんだが、君も参加してくれるよね?」
「御門先輩……飲み会ですか?」
「そうなんだよ~。お偉いさんを接待しなきゃいけなくて。でも君を接待しないといけないと言えば、途中で抜けられると思うんだ!」
「俺は口実ですか」
 
 御門さんは「頼むよ」と手を合わせてきた。
 
「良いですよ。大神島は海が綺麗だから、出撃のためじゃなくて、観光に行きたいと思ってたところです」
「ありがとう~、響矢くん!」
 
 バーベキューでご飯が食べられるなら、と俺は快諾した。
 儀式の参加者の中で希望者のみ、儀式後に大神島でバーベキューをするらしい。ま、ちょっとした打ち上げだな。
 二代目アメノトリフネに乗って、関係者は大神島に移動した。
 咲良も一緒にアメノトリフネに乗った筈なのだが、入れ替わり立ち替わり誰かに話し掛けられて、咲良を見失ってしまった。
 
「あら、君が英雄の久我響矢さん?」
「人違いです!」 
「はじめまして、久我響矢くん。私の娘が君と話したいと聞かなくてね…」
「すみません、用事があって」
 
 人生初めてのハニートラップを頑張って回避しつつ、咲良を探す。
 だが広い船内で人が大勢いるからか、彼女の姿は見つからなかった。
 もしかしてバーベキュー行かないのかな。
 
「響矢じゃねえか。どうしたんだよ、湿気たツラだな」
「桃華」
 
 途中で、正装した着物姿の桃華に見つかった。
 背が低くて小柄な桃華の着物姿は、まるで七五三みたいに見える。
 
「咲良を見なかった?」
「いーや」
 
 俺はがっかりして、思わずしゃがみ込みそうになった。
  
「姉貴なら、知ってるかもだぜ」
「恵里菜さん? 聞いてみるよ。ありがとう!」
 
 桃華から手掛かりをもらい、恵里菜さんを探す。
 恵里菜さんはパーティー会場でお酒を飲んでいた。
 
「恵里菜さん、聞きたいことが」
「響矢くん、素面のままじゃない。駄目よ、そんなんじゃ。ほら、お酒を飲みなさい」
「いや俺は未成年で」
「何言ってるの。正規の古神操縦者になったら、特例で成人と見なされるのよ。お酒飲み放題なのよ!」
 
 恵里菜さんは、何故か異様な勢いでお酒を勧めてきた。
 知的な美人だと思ってたけど、やはりあの桃華のお姉さんだ。
 
「私の酒が飲めないってぇの?」
「怖いよ恵里菜さん怖い」
 
 お酒には興味あるけど、今は咲良を探してるんだ。
 俺は絡み酒になっている恵里菜さんから逃亡した。
 そうこうしている内に、二代目アメノトリフネは大神島に到着する。
 白い砂浜にテント等が設置されて、本格的なバーベキューが始まった。
 
「かき氷、ソフトクリーム、焼き蕎麦はいかがですかー?」
 
 誰かが屋台で客を呼んでいる。
 かき氷はともかく、ソフトクリームはパラレル日本らしくないな。
 
「弘?!」
「よう、響矢。受賞おめでとう。ソフトクリーム食うか?」
 
 なんと屋台をやっていたのは弘だった。
 イケメンは鉢巻で業務エプロン姿も絵になるんだな……。
 
「お前どうしてここに……いつから屋台を始めたんだ」
「釈放された時に、天照防衛特務機関に下働きをさせて下さいと申し出たんだ。雑用ついでに、商売でもしてみようと」
「すごい。商才があるんだな」
「俺の家は商売をやっているからな! 金稼ぎなら任せてくれ!」
 
 弘は心を入れ替えてリスタートするつもりのようだ。異世界に来る前より爽やか度が増している。屋台は大繁盛のようだ。
 タダでくれると言うから、ソフトクリームはもらった。
 そうこうしている間に日が暮れている。
 咲良は見つからない。
 先に家に帰ったのかな。
 
「……」
 
 窮屈な晴れ着は脱いで、シャツとズボンだけになり、ついでに革靴も置いて行く。
 人が沢山いるバーベキュー会場から離れ、素足で波打ち際を歩いた。
 夜の海は静かで波の音がする。
 
「……響矢!」
「うわっ」
 
 背中から飛び付かれて、つんのめりそうになる。
 
「咲良? 今まで、どこにいたんだよ?」
 
 振り向くと、珍しく洋服に着替えた咲良が砂浜に立っていた。
 白い麻のワンピースは風に煽られて、少し透けている。
 
「たぬきちゃんを連れて来てあげたんだよ、ほら!」
「たぬき……」
 
 式場に動物を連れて行ったら駄目かな、と思ったので、狸は家に置いてきたのだった。
 咲良に差し出された狸は、ぽかーんとした表情で尻尾をゆっくり揺らしている。
 俺は狸を受け取った。
 
「咲良は、本当に縁神よりがみが好きだなー」
「だって可愛いでしょ? 響矢だって、たぬきちゃん可愛がってるじゃない」
「もさもさ具合が、つい撫でたくなる」
 
 狸の毛皮は、絶妙の触り心地なんだ。
 
「縁神が好きだから、縁神学を専攻してるのか?」
「うん。縁神は色々な場所にいるんだよ。あそこにも、ほら」
 
 咲良の指差す方向を見ると、人魚がいた。
 沖の岩に腰掛けた下半身が魚の美女が、俺を見てゆったり微笑んでいる。一人だけではなく、そこかしこに人魚が泳いでいる。俺に向かって手を振る者もいた。
 
「うわー」
「見とれるのは禁止」
  
 人魚の上半身は、女性の裸のため、まじまじ見ていると咲良に目を塞がれてしまった。
 
「こら。目をふさがれたら歩けないだろ」
 
 咲良に文句を言ったところで、沖合いからドーンと花火の音が鳴った。
 さすがに花火が気になったのか、咲良の手が外れる。
 人魚たちも、もう俺には興味を失ったらしく、花火を見上げて歓声を上げていた。
 離れ小島で花火を上げているようだ。
 花火は海の上に大輪の光を咲かせ、火花が水面にはらはらと散る。
 
「……響矢は元の世界に帰るの?」
「え? 帰らないよ? どうして?」
 
 急に真剣な声で聞いてきた咲良に、俺はきょとんとした。
 元の世界? いつの間にか、どうでも良くなってたな。
 
「そっか。なら、いいんだ」
 
 安心したように呟く咲良。
 元の世界に戻るか、はっきりさせていなかったから、彼女を不安にさせていたのかもしれない。
 俺は、咲良の手を取って浅瀬に導いた。
 
「行こう。あの辺の岩に登ったら、花火がよく見えそうだろ」
 
 
  




◇◇◇
 
 


 
 大鳳十七年。天岩戸の戦いが起きる。数千に及ぶ敵の大群に対し、旭光国は奇跡の大勝利を収めた。歴史書に、久我響矢の名前が登場するのは、これが最初である。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

処理中です...