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不屈の剣

109 ニュー天牙で試し切りしました

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「えらく大地小人ドワーフの数が少ないわね」
 
 邪神ヒルデは、壁を破って地下都市ニダベリルに侵入した。
 そこで彼女が見たのは、やたらヨボヨボした大地小人たちの姿だった。
 
「本にしたいならワシらを本にすればいいぞ!」
「大往生の人生じゃ!」
 
 市長のバーガーが動ける大地小人たちを率いて避難したので、街には老人しか残っていない。
 
「ちっ。若い方が生きたい気持ちが強いから、志半ばで倒れる極上の悲劇に仕上がるのに! 私はバッドエンドのストーリーが好きなのよ」
 
 ヒルデは舌打ちした。
 老人たちは、自分の人生が本になると聞いて逆に喜んでいる。
 
「自伝じゃあ。ワシの人生が形に残るんじゃー」
「よきかなーよきかなー」
「私はボランティアで自伝作りをしてる訳じゃないのよ!」
 
 大地小人の寿命は人間より長い。
 分厚い人生の本で埋め尽くされた本棚を思い浮かべ、ヒルデは青筋を立てた。
 
「ええいっ、本作りはもう良いわ! 皆殺しにしてくれる!」
「そんなぁー」
 
 がっかりする老人たちを踏みつぶそうと、ムカデの節足を動かしてのしかかった。
 そこに一陣の旋風が吹く。
 
「せいっ!」
 
 青い刃が残光を残して通り過ぎた。
 ムカデの足の一部が切り落とされる。
 
「何?!」
 
 あまりに素早い動きだったので、ヒルデの反応は遅れた。
 足を切られて一拍後に振り返る。
 そこには銀髪の少年が、抜き身の青い剣を手に立っていた。
 
 
 
 
 俺はムカデの足を斬って着地する。
 前回と違い、剣が引っかかるような嫌な感じはしない。
 しっかり斬ったという手応えが腕に伝わってきた。
 
「わお。新しい天牙、最高だな!」
 
 青い刃を惚れ惚れと眺める。
 視線を剣から外すと、怒りに顔を歪ませたヒルデが立っている。
 周囲には難を逃れた大地小人ドワーフたち。
 
「おお~、孫が助けに来てくれたぞ!」
「ワシの孫じゃ!」
「いやワシの」
 
 なんかお爺ちゃんばっかりだな。
 しかも俺を孫だと勘違いしてるし。
 
「爺ちゃん、危ないから下がってて!」
 
 人違いされてても良いかと思い、剣を振って下がれと言うと、老人たちは感動にむせび泣きし始めた。
 
「なんて立派になったんじゃ、リックや!」
「トムの雄姿をこの目に焼き付けなければのぅ」
 
 爺ちゃんたち、だいぶ呆けてるな……。
 
「ゼフィ! 牙の調子はどうだ?」
「兄たん」
 
 颯爽と追いついてきたクロス兄が、俺の隣に並ぶ。
 
「調子すごく良いよ!」
「よし。俺が奴の動きを止めるから、ゼフィはその刃でとどめを刺すんだ」
 
 クロス兄は弧を描くように走って、ヒルデの背後に回り込もうとする。
 俺は正面からヒルデに突進した。
 
「私を殺しても無駄よ。私たち運命の女神の本体は、こことは違う天界にある。下界で死んでも、何度でもよみがえる!」
 
 青い剣が脅威だと認識したのだろう。
 俺の剣を見ながら、ヒルデは引きつった笑みを浮かべた。
 そうか。ここで倒してもヒルデはまた復活してしまうんだな。
 できれば二度と大地小人を襲えないよう、復活できないようにしたいけれど。
 
 
 ――大丈夫。ゼフィならできるよ。
 
 
 不意に、耳元でささやくような少女の声がして、俺は目を見張った。
 
「メープル?」
 
 天牙の剣の精霊、メープルの声なのだろうか。
 
 
 ――ゼフィの魔法で、時空を切り裂いて、邪神の本体にダメージを与えるの。
 
 
 時の魔法と、空間の魔法を応用して、ヒルデの本体がある天界につなげるんだ。
 俺は剣にまとわりつかせるように、魔法を発動した。
 自分でも細かいことはどうやっているか分からない。
 天牙が魔法をサポートしてくれている気配がする。
 
「天界に還れ!」
 
 クロス兄がムカデの尾の上に飛び乗って、ヒルデの動きを止めてくれている。
 その間に俺は、ヒルデの胸めがけて天牙を振り下ろした。
 時空のひずみが黄金の光となって、剣の軌跡を描く。
 
「そんな馬鹿な!!」
 
 届いた。
 理由もない直感がした。
 ヒルデの肉体が、光の粉になってほどけ始める。
 
「あああっ! 下界に干渉できない?!」
 
 信じられないという表情のまま、ヒルデは消えた。
 せっかく仕留めたのに肉が無くなっちゃったよ、残念だな。
 俺は、消滅したヒルデが立っていた場所にフワリと降りる。
 ヒルデが連れてきたモンスターの群れが、じりっと俺から逃げるように遠ざかる。
 
「よーし。お前ら、今日の俺のおやつな」
「?!」
 
 統率を失って逃げまどうモンスターたちを、俺と兄たんで後始末する。
 美味しくなさそうな奴ばっかりだな。
 
 
 
 
 モンスターをやっつけた後、俺の後を追ってきたイヴァンやゴッホさんと一緒に、ニダベリルで休憩することにした。
 
「なんか、つかれたー」
 
 俺は子狼の姿に戻った。
 ヒルデを倒すために使った魔法で意外に消耗したらしい。
 安眠場所を求めて、クロス兄の背中によじのぼる。
 ふわあ、と大あくび。
 今日はもう寝よう。
 
「……ゼフィ! 見て見て! 大地小人ドワーフのお婆ちゃんに、素敵なスカートを着せてもらったの!」
 
 たったかと軽い足音がして、空色の髪を腰まで伸ばした美少女が現れた。
 兄たんの上で今にも寝そうな俺に向かって、チョコレート色のスカートを、ひらりとひるがえして見せる。星みたいな黄金の瞳をきらきらさせた、快活そうな娘だ。
 
「だれ?」
「私だよ、メープルだよ! 打ち直してもらってグレードアップしたおかげで、光焔剣の精霊エンバーみたいに、実体化できるようになったの!」
 
 なんだと?
 
「これからもよろしくね、ゼフィ!」
 
 メープルは俺たち兄弟に近寄ると、仰天して固まっている俺に両手を伸ばし、鼻先に軽くキスをした。
 どうしよう。
 俺の剣が歩いてしゃべるようになってしまった?!
 
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