41 / 126
英雄の後継
39 世の中、食べたり食べられたりです
しおりを挟む
ウォルト兄も帰ってきて一件落着したので、一旦ティオを王都に送り返してあげた。元の人間の姿に戻ったティオに王様は大喜びだった。
あれから数日経った。
俺は真白山脈の南にある火山で、カビパラさんと挨拶をしていた。
「フェンリルさま、蜜柑はいかがですかー?」
カビパラさんは、ずんぐりむっくりした体型のげっ歯類だ。灰色の毛皮に丸い耳と鼻、胴体に比べ手足は短く尻尾が無い。いつも眠たそうな顔をしている。年中寒い真白山脈は本来の生息地では無いのだが、山脈の外れにある火山は地熱で温かいのでそこに棲んでいた。
縄張りパトロールに出ているウォルト兄、その背中にくっついた俺に、自家製の果物をすすめてくれる。
「お肉が食べたいです」
「……」
正直に気持ちを伝えると、カビパラさんは沈黙してしまった。もしかして「カビパラさん美味しそう」と思ったのが伝わってしまったのだろうか。
フェンリル母上と俺たちは真白山脈の一帯を治めている。
具体的には、危険なモンスターは排除し、部下になったモンスターや動物は守ってあげるのだ。
真白山脈に棲む動物やモンスターは、フェンリルがこの地域を守っていると知っているから、俺たちの食料になることも覚悟しているという。
「世の中、食べたり食べられたりですよー」
カビパラさんは悟ったように言った。
「だからフェンリル坊ちゃんに食べられるのも、まあ、仕方ないですねー」
「まだ、食べたい、って言ってないよ?」
「まったまたー。私は美味しくないですよー」
語尾を伸ばして、のほほんというカビパラさん。
悲壮感が無いのでどこまで本気か分からない。
俺たちはそこまでお腹が空いてないので、蜜柑の栽培に精を出すカビパラさんを食べるつもりはなかった。無駄な狩りはしないのだ。
栽培と言えば、人間の村の農作物はどうなっただろう。
「兄たん、にんげんの村、寄って」
「……ああ」
俺がお願いすると、ウォルト兄はさっと走り出した。
すごい速度で木々の間を飛ぶように駆け抜ける。
麓の村にすぐに着いた。
「あ、フェンリルさま!」
俺たちの姿に気付き、サムズ爺さんが声を掛けてくる。
「王都から伝令の鳥が来ておりますぞ。この間のお礼に、伝説の牛肉マツサカギュウをフェンリルさまに召し上がって頂きたいので、ぜひ王都に来てほしいと」
「ぎゅうにく? いく!」
美味しいお肉が呼んでいるなら、農作物のことは後回しでいい。
ウォルト兄と一緒に、王都へ王様に会いに行くことにする。
途中で、クロス兄と合流した。
クロス兄はローリエ王国を縄張りにしたので、王国の国境に沿って広域パトロール中だった。
「さっきゴブリンの群れを追い払ったぞ。あいつらがいると、熊や鹿がいなくなるからな」
「おいしいお肉のためだね!」
ゴブリンの肉は美味しくないとクロス兄は言っていた。
俺もあいつらは臭くて汚いから嫌いだ。
フェンリルの駆け足であっという間に王都に移動する。
三匹で連れ立って宮殿に入ると、人間たちはびっくりしたようだ。
「準備しますので、お待ちください!」
彼らは慌てて宮殿の中庭を関係者以外立ち入り禁止にすると、王様やフィリップさんを呼んできた。
庭の中央にテーブルと椅子を運んできて、料理を並べ始める。
俺は意思疎通の取りやすい人間の姿に変身する。
「フェンリルさま、ティオを元に戻してくださってありがとうございました」
王様は俺に頭を下げて礼を言った。
勝手に時間切れになっただけで、何もしてないんだけどなー。
「今日はティオいないの?」
「ああ、部屋で勉強をさせております。呼びましょうか」
「いいよ。勉強って何の勉強? 帝王学?」
テーブルで向かい合うように、俺と王様は席についた。
フィリップさんは立って王様の後ろに控えている。
「いえ、エスペランサという国の竜騎士学校に留学させようと思いまして、その勉強です」
「竜騎士学校?」
「はい。今、世界の最先端を走っている国は、エスペランサです。各国から王族や貴族を招いて、竜の卵を渡しているのだそうです。魔導銃の量産や竜を操る技術も……フェンリルさまには関係のない話ですね」
王様が言葉を切ったタイミングで、白い服を着た給仕人が、銀色の盆を持ってきた。
「マツサカギュウのレアステーキでございます……」
給仕人は盆に伏せてあるお椀型のフタを、上に持ち上げた。
現れたのは、肉汁が染み出した厚切りの牛肉……ではなく。
「む。ばれてしまった」
口の周りを肉汁で汚した、小さな青い竜だった。
「ヨルムンガンド! 俺の肉は?!」
「すまん。君の肉だと知らず、すっかり食べてしまったよ」
いったいどうして料理に潜んでいたか、とか、なんでここにいるのか、とか、疑問は尽きないが、ショックを受けた俺は取り急ぎ「楽しみにしていた牛肉があああっ!」と絶叫した。
あれから数日経った。
俺は真白山脈の南にある火山で、カビパラさんと挨拶をしていた。
「フェンリルさま、蜜柑はいかがですかー?」
カビパラさんは、ずんぐりむっくりした体型のげっ歯類だ。灰色の毛皮に丸い耳と鼻、胴体に比べ手足は短く尻尾が無い。いつも眠たそうな顔をしている。年中寒い真白山脈は本来の生息地では無いのだが、山脈の外れにある火山は地熱で温かいのでそこに棲んでいた。
縄張りパトロールに出ているウォルト兄、その背中にくっついた俺に、自家製の果物をすすめてくれる。
「お肉が食べたいです」
「……」
正直に気持ちを伝えると、カビパラさんは沈黙してしまった。もしかして「カビパラさん美味しそう」と思ったのが伝わってしまったのだろうか。
フェンリル母上と俺たちは真白山脈の一帯を治めている。
具体的には、危険なモンスターは排除し、部下になったモンスターや動物は守ってあげるのだ。
真白山脈に棲む動物やモンスターは、フェンリルがこの地域を守っていると知っているから、俺たちの食料になることも覚悟しているという。
「世の中、食べたり食べられたりですよー」
カビパラさんは悟ったように言った。
「だからフェンリル坊ちゃんに食べられるのも、まあ、仕方ないですねー」
「まだ、食べたい、って言ってないよ?」
「まったまたー。私は美味しくないですよー」
語尾を伸ばして、のほほんというカビパラさん。
悲壮感が無いのでどこまで本気か分からない。
俺たちはそこまでお腹が空いてないので、蜜柑の栽培に精を出すカビパラさんを食べるつもりはなかった。無駄な狩りはしないのだ。
栽培と言えば、人間の村の農作物はどうなっただろう。
「兄たん、にんげんの村、寄って」
「……ああ」
俺がお願いすると、ウォルト兄はさっと走り出した。
すごい速度で木々の間を飛ぶように駆け抜ける。
麓の村にすぐに着いた。
「あ、フェンリルさま!」
俺たちの姿に気付き、サムズ爺さんが声を掛けてくる。
「王都から伝令の鳥が来ておりますぞ。この間のお礼に、伝説の牛肉マツサカギュウをフェンリルさまに召し上がって頂きたいので、ぜひ王都に来てほしいと」
「ぎゅうにく? いく!」
美味しいお肉が呼んでいるなら、農作物のことは後回しでいい。
ウォルト兄と一緒に、王都へ王様に会いに行くことにする。
途中で、クロス兄と合流した。
クロス兄はローリエ王国を縄張りにしたので、王国の国境に沿って広域パトロール中だった。
「さっきゴブリンの群れを追い払ったぞ。あいつらがいると、熊や鹿がいなくなるからな」
「おいしいお肉のためだね!」
ゴブリンの肉は美味しくないとクロス兄は言っていた。
俺もあいつらは臭くて汚いから嫌いだ。
フェンリルの駆け足であっという間に王都に移動する。
三匹で連れ立って宮殿に入ると、人間たちはびっくりしたようだ。
「準備しますので、お待ちください!」
彼らは慌てて宮殿の中庭を関係者以外立ち入り禁止にすると、王様やフィリップさんを呼んできた。
庭の中央にテーブルと椅子を運んできて、料理を並べ始める。
俺は意思疎通の取りやすい人間の姿に変身する。
「フェンリルさま、ティオを元に戻してくださってありがとうございました」
王様は俺に頭を下げて礼を言った。
勝手に時間切れになっただけで、何もしてないんだけどなー。
「今日はティオいないの?」
「ああ、部屋で勉強をさせております。呼びましょうか」
「いいよ。勉強って何の勉強? 帝王学?」
テーブルで向かい合うように、俺と王様は席についた。
フィリップさんは立って王様の後ろに控えている。
「いえ、エスペランサという国の竜騎士学校に留学させようと思いまして、その勉強です」
「竜騎士学校?」
「はい。今、世界の最先端を走っている国は、エスペランサです。各国から王族や貴族を招いて、竜の卵を渡しているのだそうです。魔導銃の量産や竜を操る技術も……フェンリルさまには関係のない話ですね」
王様が言葉を切ったタイミングで、白い服を着た給仕人が、銀色の盆を持ってきた。
「マツサカギュウのレアステーキでございます……」
給仕人は盆に伏せてあるお椀型のフタを、上に持ち上げた。
現れたのは、肉汁が染み出した厚切りの牛肉……ではなく。
「む。ばれてしまった」
口の周りを肉汁で汚した、小さな青い竜だった。
「ヨルムンガンド! 俺の肉は?!」
「すまん。君の肉だと知らず、すっかり食べてしまったよ」
いったいどうして料理に潜んでいたか、とか、なんでここにいるのか、とか、疑問は尽きないが、ショックを受けた俺は取り急ぎ「楽しみにしていた牛肉があああっ!」と絶叫した。
20
お気に入りに追加
5,220
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる