33 / 126
極夜の支配者
32 使える魔法を増やしました
しおりを挟む
今度こそ役に立つ魔法を教えてもらうぞ。
例えば……そうだ、物を増やす魔法なんかどうだ?
美味しいお肉に魔法をかけると二倍になる。増やしたお肉にさらに魔法をかければ四倍に! そうして無限増殖するお肉でウハウハ生活を送るのだ!
俺は束の間、妄想にひたる。
ヨルムンガンドは小さい姿で表情が分からないが、呆れたように言った。
「何を考えているのか、顔を見れば分かるぞ。食べ物に関する魔法か、派手な攻撃魔法を教えて欲しいと思っているのだろう」
「え? ソンナコトナイヨ」
「だが断る。君には転移の魔法を教えよう」
何故か前回と同じような流れで、やっぱり地味な魔法を教わることになった。
「てんい……?」
「転移は空の属性だから、前に教えた時の魔法と時空関連で相性がいい魔法だ。魔法は近い系統が覚えやすい。これを技法樹系という」
「理屈はいいから、実際の使い方を教えてくれよ」
「よろしい。これは魔法で力場を作って、離れた空間をつなぐ魔法だ……」
ヨルムンガンドの説明を聞きながら、俺は別々の場所に二つの扉を作り、それをゼロ距離でつなげるイメージをする。集中すると、目の前に光でできた小さな扉が現れた。
まずは試しに手元のティーカップを扉に入れてみる。
ティーカップは扉を通って、少し離れたテーブルの端に現れた。
「できた……!」
「おお、やっぱり君は魔法の才能があるな。一発で成功させるとは」
ヨルムンガンドは感心したようだ。
俺もまんざらでもない。
前世は魔法を全然使えなかったけど、今世では魔法を使えて楽しい。
もっといろいろな魔法を覚えたいなー。
「……あれ? そういえば、前に能力保管がどうこう言ってたけど、魔法を覚える限界があるんじゃないの?」
「能力保管か。属性魔法は、持って生まれた属性に左右される。例えば神獣フェンリルなら、生まれながらに氷の属性を持っている。他の属性の魔法は、長い時間修行しなければ会得できない」
「ということは、俺は初めから氷の属性を持ってたってこと? 時の魔法と、変身の魔法、今は転移の魔法を覚えて……」
合計四つか。なんか多くないか。
「ゼフィ君の年齢なら、普通は二つが限界なんだが」
「俺って天才?」
「うーむ」
ヨルムンガンドは何故かうなって腕組みをした。
俺はテーブルの端に転移させたティーカップを取りに行った。
そうして、妙にティオとクロス兄が静かだな、と気付く。
「クロス兄? 寝てるのか? ティオも」
食堂の隅で、食事を終えたティオは机に突っ伏して寝ていた。
クロス兄も体を丸めて寝息を立てている。
俺は起こそうと彼らに近寄った。
しかし、行くてをさえぎるように、ドリアーデが俺の前に立つ。
「……小さいフェンリルさまは変身の魔法を使っているので眠らなかったようですね。魔法同士が干渉しあい片方が無効になることもあると、聞いたことがあります」
「えっ?」
ドリアーデの言葉を聞いて、俺は驚いた。
どうやら彼女がクロス兄とティオを眠らせたらしい。
「どうして眠らせたんだ。まさか……」
「ご安心ください。人間と違って、私たちは殺しなど野蛮なことはしません。ただ、太陽の精霊を探すフェンリルさまは邪魔なので、眠っていて欲しいだけ」
俺は身構えながら、頭の中で話を整理した。
鍋が偶然開いて太陽の精霊が逃げ出したって話だけど、ドリアーデ率いる魔族たちが意図的に封印を解いたのかもしれない。
太陽の精霊を探すフェンリルって、ウォルト兄のことなんだろうか。
「危害を加えるつもりはありません。どうか大人しくしてください」
「って、言われても」
気付くと、ドリアーデを初めとする魔族たちが、俺を取り囲むように輪になっていた。
どうしようと思っていると、ヨルムンガンドが飛んでくる。
「ゼフィ君。ここはひとまず逃げてはどうだ?」
「確かにそれが良さそうだなっ」
俺は食堂の外に向かって駆けだした。
クロス兄とティオを置いていくのは心苦しいが、ドリアーデは眠らせる以上のことはしないと思われる。「危害を加えるつもりはない」と言っていたし、実際に優しい性格だということは、過去に一緒に戦った仲間だから知っている。
走る俺を止めようと、獣人が襲ってくる。しかしこちらが子供の姿をしているからか、下手に攻撃して怪我をさせたら可哀想だと思っているようだ。困った顔をしていた。
ひらりとそいつらを軽くいなしながら、俺は外に出る扉を探す。
元来た道を戻っていくと、大きな岩の扉の前に辿り着いた。
岩の扉は重く分厚い。
押してもひいても開きそうにない。
扉の前で立ち止まっていると、ドリアーデが追い付いてきた。
「そこまでです。降参してください」
扉を背に振り返る。
ドリアーデを中心に包囲網が完成している。このままでは逃げられそうにない。
「……もしかして転移の魔法なら」
俺は思いついて、習ったばかりの転移魔法を使い、岩の内側と外側をつなぐ扉を作った。
一か八か時空の扉に飛び込む。
「それは転移の魔法?! なぜそんな高度な魔法を使えるのですか!」
驚いたドリアーデの叫びが聞こえた。
暗転。
次の瞬間、俺は一面の銀世界に投げ出されていた。
「うわああああっ」
「……ゼフィ!」
落下する俺の身体を、ふさふさの白銀の毛並みが受け止める。
片目の上に傷跡のある、がっしりとした体格のフェンリル。
「ウォルト兄!?」
「無事だったか。良かった!」
俺は兄たんの首もとに抱き着いた。
懐かしい森と雪風の匂いに包まれて、ほっと安心する。
「会いたかったよ、兄たん!」
「俺もだ、ゼフィ」
「どうしよう、兄たん。クロス兄と、ティオが……」
「大丈夫だ」
ウォルト兄は、いつものように穏やかで自信に満ちた声で言った。
「ここにお前と、俺がいる。俺たちが力をあわせれば、どんなことだって解決できる」
例えば……そうだ、物を増やす魔法なんかどうだ?
美味しいお肉に魔法をかけると二倍になる。増やしたお肉にさらに魔法をかければ四倍に! そうして無限増殖するお肉でウハウハ生活を送るのだ!
俺は束の間、妄想にひたる。
ヨルムンガンドは小さい姿で表情が分からないが、呆れたように言った。
「何を考えているのか、顔を見れば分かるぞ。食べ物に関する魔法か、派手な攻撃魔法を教えて欲しいと思っているのだろう」
「え? ソンナコトナイヨ」
「だが断る。君には転移の魔法を教えよう」
何故か前回と同じような流れで、やっぱり地味な魔法を教わることになった。
「てんい……?」
「転移は空の属性だから、前に教えた時の魔法と時空関連で相性がいい魔法だ。魔法は近い系統が覚えやすい。これを技法樹系という」
「理屈はいいから、実際の使い方を教えてくれよ」
「よろしい。これは魔法で力場を作って、離れた空間をつなぐ魔法だ……」
ヨルムンガンドの説明を聞きながら、俺は別々の場所に二つの扉を作り、それをゼロ距離でつなげるイメージをする。集中すると、目の前に光でできた小さな扉が現れた。
まずは試しに手元のティーカップを扉に入れてみる。
ティーカップは扉を通って、少し離れたテーブルの端に現れた。
「できた……!」
「おお、やっぱり君は魔法の才能があるな。一発で成功させるとは」
ヨルムンガンドは感心したようだ。
俺もまんざらでもない。
前世は魔法を全然使えなかったけど、今世では魔法を使えて楽しい。
もっといろいろな魔法を覚えたいなー。
「……あれ? そういえば、前に能力保管がどうこう言ってたけど、魔法を覚える限界があるんじゃないの?」
「能力保管か。属性魔法は、持って生まれた属性に左右される。例えば神獣フェンリルなら、生まれながらに氷の属性を持っている。他の属性の魔法は、長い時間修行しなければ会得できない」
「ということは、俺は初めから氷の属性を持ってたってこと? 時の魔法と、変身の魔法、今は転移の魔法を覚えて……」
合計四つか。なんか多くないか。
「ゼフィ君の年齢なら、普通は二つが限界なんだが」
「俺って天才?」
「うーむ」
ヨルムンガンドは何故かうなって腕組みをした。
俺はテーブルの端に転移させたティーカップを取りに行った。
そうして、妙にティオとクロス兄が静かだな、と気付く。
「クロス兄? 寝てるのか? ティオも」
食堂の隅で、食事を終えたティオは机に突っ伏して寝ていた。
クロス兄も体を丸めて寝息を立てている。
俺は起こそうと彼らに近寄った。
しかし、行くてをさえぎるように、ドリアーデが俺の前に立つ。
「……小さいフェンリルさまは変身の魔法を使っているので眠らなかったようですね。魔法同士が干渉しあい片方が無効になることもあると、聞いたことがあります」
「えっ?」
ドリアーデの言葉を聞いて、俺は驚いた。
どうやら彼女がクロス兄とティオを眠らせたらしい。
「どうして眠らせたんだ。まさか……」
「ご安心ください。人間と違って、私たちは殺しなど野蛮なことはしません。ただ、太陽の精霊を探すフェンリルさまは邪魔なので、眠っていて欲しいだけ」
俺は身構えながら、頭の中で話を整理した。
鍋が偶然開いて太陽の精霊が逃げ出したって話だけど、ドリアーデ率いる魔族たちが意図的に封印を解いたのかもしれない。
太陽の精霊を探すフェンリルって、ウォルト兄のことなんだろうか。
「危害を加えるつもりはありません。どうか大人しくしてください」
「って、言われても」
気付くと、ドリアーデを初めとする魔族たちが、俺を取り囲むように輪になっていた。
どうしようと思っていると、ヨルムンガンドが飛んでくる。
「ゼフィ君。ここはひとまず逃げてはどうだ?」
「確かにそれが良さそうだなっ」
俺は食堂の外に向かって駆けだした。
クロス兄とティオを置いていくのは心苦しいが、ドリアーデは眠らせる以上のことはしないと思われる。「危害を加えるつもりはない」と言っていたし、実際に優しい性格だということは、過去に一緒に戦った仲間だから知っている。
走る俺を止めようと、獣人が襲ってくる。しかしこちらが子供の姿をしているからか、下手に攻撃して怪我をさせたら可哀想だと思っているようだ。困った顔をしていた。
ひらりとそいつらを軽くいなしながら、俺は外に出る扉を探す。
元来た道を戻っていくと、大きな岩の扉の前に辿り着いた。
岩の扉は重く分厚い。
押してもひいても開きそうにない。
扉の前で立ち止まっていると、ドリアーデが追い付いてきた。
「そこまでです。降参してください」
扉を背に振り返る。
ドリアーデを中心に包囲網が完成している。このままでは逃げられそうにない。
「……もしかして転移の魔法なら」
俺は思いついて、習ったばかりの転移魔法を使い、岩の内側と外側をつなぐ扉を作った。
一か八か時空の扉に飛び込む。
「それは転移の魔法?! なぜそんな高度な魔法を使えるのですか!」
驚いたドリアーデの叫びが聞こえた。
暗転。
次の瞬間、俺は一面の銀世界に投げ出されていた。
「うわああああっ」
「……ゼフィ!」
落下する俺の身体を、ふさふさの白銀の毛並みが受け止める。
片目の上に傷跡のある、がっしりとした体格のフェンリル。
「ウォルト兄!?」
「無事だったか。良かった!」
俺は兄たんの首もとに抱き着いた。
懐かしい森と雪風の匂いに包まれて、ほっと安心する。
「会いたかったよ、兄たん!」
「俺もだ、ゼフィ」
「どうしよう、兄たん。クロス兄と、ティオが……」
「大丈夫だ」
ウォルト兄は、いつものように穏やかで自信に満ちた声で言った。
「ここにお前と、俺がいる。俺たちが力をあわせれば、どんなことだって解決できる」
20
お気に入りに追加
5,272
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる