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18 俺、お持ち帰りされる

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 対峙する二人、遠藤と狗乃森は俺の接近に気付いていなかった。ふと思いついた俺は、学校につきものの二宮金次郎の像によじのぼって、そこから狗乃森に向かって飛び降りる。
 そのまま高笑いする狗乃森の後ろ頭を蹴倒してやった。

 ざまあみやがれ!

 猫の姿で狗乃森の背中を踏んづける。
 地面に這いつくばって悲鳴をあげる狗乃森。
 あー、すっきりした。
 こちとらお前のせいで散々な目にあったんだよ。このくらいは別にいいだろ。

幸宏ユキヒロ

 遠藤が俺の姿を認めて驚いたように目を見張る。
 微かにアクアブルーに光る瞳に安堵の色がよぎった。
 遠藤は倒れた狗乃森はもう見ないで、俺だけを見て少ししゃがんで両腕を広げる。
 俺は狗乃森の頭を念入りに踏んづけながら地面に降り、なにやら筆記用具が散らばっている地面を注意深く走り抜けて、遠藤の腕の中に飛び込んだ。タイミングを合わせて遠藤が俺を抱え上げる。
 自分の足で歩くのは面倒くさい。後は遠藤が抱えて運んでくれるだろう。

「……うぐぐ、待て」

 黒猫(俺)を抱えた遠藤は、倒れている狗乃森を放って校門へ歩き出した。
 その背中に声が掛かる。

「覚えてろよ……遠藤、須郷!」

 恨み文句を言われた遠藤は肩越しに振り返って嘆息した。

「覚えないさ。そんなに暇じゃない。お前と違って有限の命を持つ僕達は、どうでもいいことにかかづらってる時間がもったいないんだ」
「くっ」

 ぐうの音も出ない正論だったらしく、狗乃森は悔しそうにする。
 遠藤はもうそんな狗乃森は気にせずに自宅への道と思われる経路を進み始めていた。夜道は暗かったが、月光を受けて遠藤の眼鏡の奥の瞳が淡くアクアブルーに輝いている。遠藤の猫族の瞳には道がはっきり見えているようだ。
 歩きながら遠藤は俺に軽く話しかけた。

「幸宏、鞄は?」

 そうだ、鞄。持ち物はどこにやったっけ。
 猫の姿だと返事ができない。
 俺は首を傾げながら遠藤を見上げた。

「まあいい。明日はやく学校に行って鞄を探せばいい。僕も手伝おう」

 返事がかえってこなくても良かったらしく、遠藤は勝手に決めた。
 仕方ない。今から学校に戻るのは嫌だし、それしかないだろう。

 安定感のある遠藤の腕の中で揺られながら、俺は夜風を吸い込んだ。
 風に混じるミントの匂い。
 爽やかで胸がすっとするような匂いは、なぜか遠藤の身体から漂ってくる。こいつ何か香水でも使ってんのか。この匂いを嗅いでいると、なんだか体が熱くなる。むずがゆくなって……。

「幸宏?」

 腕の中で身じろぎした俺に気付いたらしく、遠藤が不思議そうにする。
 そのアクアブルーの瞳と目があって、俺は心臓が高鳴るのを感じた。俺を見た遠藤は目を細めて、ふっと笑う。冷たい色の筈のアクアブルーに宿る熱を感じて、俺は身震いをした。
 

 

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