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17 猫の逆襲

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 満月の日、和真は同じ猫族の幸宏の様子が気になっていた。
 本当は「大丈夫か」と声を掛けたい。けれど、下手に声を掛けると幸宏のプライドを傷付けそうだ。まだ友人になって1ヶ月経つか経たないかだが、何となく、幸宏はプライドが高い性格だと感じ取っていた。

 クラスが違うと幸宏との接点が少ない。
 時折、遠目に見掛ける幸宏の様子はいつも通りだったので、和真はひとまず安心していた。ここ最近、話ができていないが、今日こそは話をしようと決意する。

 放課後真っ先に幸宏のクラスを訪ねたが、そこに幸宏の姿は無かった。

「須郷? あいつなら先生の用事だとかで授業の終わりと同時に出て行ったぞ」
「戻ってくるか」
「えーと……鞄ないな。先生の用事が終わったら直接帰るんじゃないか」
「先生は誰だ?」
「山川先生」

 同級生の会話で情報を仕入れた和真は、山川先生を探しに職員室へ向かった。
 職員室で適当な教師を捕まえて話し掛ける。

「すいません、山川先生はどちらにいらっしゃいますか」
「山川先生?」

 若い女性教師は首を傾げた。

「その辺で休憩されてるんじゃないかしら。山川先生の担当の部室に行って待ってみたら。今日は天文学部は活動してる日だし」

 和真は天文学部の部室に向かった。
 天文学部の部員と話をして待たせてもらったが、教師が現れる気配はない。
 ここに至って、和真はさすがにおかしいと思い始めていた。

「先生、今日は来なかったな。今日は天体観測するって言ってたのに」
「天体観測?」
「夜、屋上で星を見るんだよ。うーん、今回は部員以外の生徒も来るって言ってたのに」

 天文学部の生徒が不思議そうにしながらも「おかしいな。でも先生がいないなら今日は解散」と言って帰っていく。部活動も終わり時刻は夜に入ろうとしている。

 和真は人気が無くなった校舎を歩きながら、感覚を研ぎ澄ませた。
 あまり知られていないが、猫も犬程ではないが嗅覚が鋭い。特に今日は満月なので、感覚は鋭くなっている。
 かすかに感じる、幸宏の匂い。
 彼はまだ校舎にいる。そう、和真は確信した。しかし匂いの元を辿ろうとすると、近付く程に気配が拡散する。人為的に隠されているように。
 これは狗乃森が絡んでいるな……。

 狗乃森は妖怪だ。
 和真達のような、なんちゃって変身できる人間ではなく、危険な術を使い、正体を隠して暮らしている人間以外の何か。人間の常識の範囲で生きている和真達とは相容れない存在。狗乃森は人間の認識を操作する怪しげな術も使う。
 おそらく山川先生は利用されたのだろう。天体観測に参加する予定だった部員以外の生徒というのは、幸宏かもしれない。天文学部の活動に参加するということにすれば、周囲の学校関係者も親も違和感なく幸宏の不在を受け入れる。
 狗乃森の気配も学校にあるのだが、どこにいるかは掴めない。

 このまま捜索を続けても無駄かもしれない。

 こちらから探しにいくのではなく奴が出てくるのを待とう。
 そう和真は決めた。
 妖怪である奴の活動時間は夜。月が登る頃。
 学校に人がいなくなってから出てくる筈だ。

 和真は猫の姿で物陰に隠れて、教師達が戸締まりして学校から去るのを待った。
 やがて学校から灯りが消える。最後まで残業している教師がいるのか職員室の灯りはなかなか消えなかったが、デスクライトだけの状態になる。
 暗くなったグラウンドに現れる人影。
 狗乃森だ。
 猫の姿から人間の姿に戻った和真は彼の前に立った。

「須郷をどこに隠した? 答えろ狗乃森」
「うっとうしい奴だな、お前は。邪魔されては困るから、ここで片付けてやろう」
「ふざけるな」

 悪役じみた笑みを浮かべる狗乃森。
 その瞳が赤く光ると、複数の投擲物が和真に向かって飛んでくる。猫族の身体能力もあって、和真はその攻撃を避けたり払い落としたりする。
 地面に落ちたそれは、筆記用具やペンだった。

「どうだ、これが学生に忘れられて怨念がこもったモノ達の逆襲……」
「普通に落とし物を集めただけだろう」
「ただの落とし物ではない! 俺の魔力でパワーアップして鋭く尖っている! 刺さったらお前でも痛いぞ、遠藤!」

 ただの筆記用具だが、どこにでもある筆記用具だけあって、数が半端ない。コンパスやカッターは普通に投げても刺さる。
 敵に近付く事が出来なくて和真は歯噛みした。狗乃森の鬱陶しい笑顔に蹴りを入れてやりたいのだが、現状難しい。それどころか油断すると散らばった筆記用具に足を取られて転びそうだった。

「ハハハハッ! 諦めて針山になれ!」

 哄笑する狗乃森。
 さりげなくピンチになった和真の視界に黒い小さな影が踊った。
 阿呆みたいに高笑いしていた狗乃森が後ろ頭を押されてよろめく。

「うおっ?! ギャアアアアア!」

 狗乃森は奇声をあげて前倒しに倒れる。そして自分が撒いた筆記用具が手足に刺さって悲鳴を上げた。

 倒れた狗乃森の背中を踏んづけて黒猫が胸を張る。
 誇らしげにまるで「どうだ! 俺様のキックは」と言わんばかりに。


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