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第四章 ハムスターの恋

決意

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 何が起こってるの?

 呆然とする私の前でパーティー会場は俄かに慌ただしくなる。
 音楽は中断され、軍服を着た男たちが声を上げて駆け回る。
 大理石に広がる赤い染み。

「医師の手配を!早く!」
「その娘を拘束しろ!」

 怒号が飛び交う。
 王子様は苦しそうな顔で腹を押さえて、イッシュ君に支えられながら退場する。去りながら彼は私を一瞥した。ヘーゼルの瞳がほんの少し和らいで私を見る。まるで、青ざめている私に「心配しないでいいよ」と言っているよう。
 血の付いたナイフを持ったアーリアは、軍服の男たちに取り押さえられて、別の部屋に連れて行かれた。

「皆様、勝手な退出は禁じます。こちらにお集まり下さい」

 ………。

「エステル、大丈夫ですか?」
「はいっ」

 ぼうっとしていた私は、気遣わしげに覗き込んでくるアルジェンの声に我に返った。
 アルジェンと一緒に移動する。
 どうやら花選びの儀の参加者に、アーリアとの関係について聞き取り調査するみたいだ。私は彼女と親しいので、調査担当らしき軍服の人に色々聞かれた。
 だけど、私に答えられることは少ない。
 出逢ったのはつい数日前。
 貴族の娘らしいということ、舞が得意ということ以外は何も知らない。ぶっちゃけ、アーリアのことを何ひとつ私は知らないのだ。

 ぼけー。

 あまりの急展開に付いていけず、聞き取りされた後、私はお城の控え室で疲れて伸びてしまった。時刻は夕刻に差し掛かっている。聖水で人間の姿を維持出来るが、夜中にはハムスターに戻ってしまうだろう。

「エステル、私達はもう良いそうです。教会に帰りましょう」
「……帰ったら、どうなるの?」
「エステル?」

 控え室の椅子で伸びながら、私はうーんと唸った。

「花選びの儀はどうなるかしら」
「中断ですね。結果をどうするかは、おそらく殿下の回復を待ってから決めるのでしょう」
「私はパムスター生活に戻るんだよね」
「そうですね……教会に遊びに来て頂ければ、どうなったか後日結果をお知らせしますよ」

 そう、ここで「はいそうですか」と帰ったら、私はパムスター生活に戻って、以前と同じように子ども達と戯れながらポヨポヨライフを満喫できるだろう。
 王子様のことも、アーリアのことも忘れて。
 ……でも、それでいいの?

「アル」
「何でしょう」
「私、アーリアがなんであんなことをしたか知りたい。アーリアに会いたいよ」

 銀髪の美青年は、白い神官服の袖を翻して、私に向かって優雅な動作で頭を下げた。

「すべて貴女の仰せのままに。私達の星姫エステラよ」


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