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第三章 ハムスターと王子様

初めての恋愛

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 その日の朝、私の頭の中は昨夜の出来事でいっぱいだった。
 お見舞いに木の実を届けに行ったところ、就寝中の王子様が寝言でむにゃむにゃ言い出した。それが私への告白の言葉だったのだ。
 王子様に寝言でプロポーズされました。

 人生とハムスター生を合わせても、初めて男性から貰ったプロポーズ。

 デブもといぽっちゃり系の私には、全く恋愛と縁がないと思っていた。だから免疫がない。プロポーズされたとき、どんな言葉を返したら良いか、検討も付かない。
 告白の返事。
 ありがとう、嬉しいです。モテ女の台詞だ!自分が言ってるところが思い浮かばない。恥ずかしくてぎゃおうう、と転げ回ってから、気付いた。

 私、ハムスターじゃん。
 人間の男性とお付き合いなんか出来ないよ。

 浮かれていた気持ちがしょぼんと萎む。
 正直、告白を聞いてとても嬉しかった。王子様は「エステル、君がいいんだ」と言ってくれた。美人でもなく賢くもない、ただのぽっちゃり系平凡女子のこの私が良いと、そう言ったのだ。これで喜ばない女がいたら氷のハートの持ち主に違いない。

 初めて貰ったプロポーズは、イコール初めての失恋になりそうだった。
 私はハムスターに生まれたことを、生まれて初めて残念に思った。

 朝日を浴びて人間の姿になっても、私は枕を抱えて丸くなってしくしく泣いていた。メグはそんな私を心配そうに見ていたが、やがてどこかに出掛けていった。お昼過ぎまで、私はベッドの上で王子様の告白を反芻しては切なくなり、夢と現実の狭間を行ったり来たりうたた寝した。

 コンコン……。

「……はい」

 ドアをノックする音がして、私は枕を抱えながら返事をする。

「エステル、お腹はすいていませんか。おやつを用意したのですが」

 扉の向こうからアルジェンの気遣わしげな声が聞こえる。

「おやつ?」
「ホットケーキです」

 ホットケーキ……美味しそう。
 ぐうとお腹が鳴る。そういえば朝から何も食べてなかったわ。

「頂きます!」

 ベッドから飛び起きる。簡単に身支度を整えて部屋を出た。アルジェンが食卓に用意してくれたのは、日本のものと同じような丸くて甘い匂いのするホットケーキだ。味は日本のものとは少し違う。純粋な小麦粉じゃないのか、他の草の種の味もした。
 はむはむとホットケーキを頬張る私を、アルジェンは微笑ましそうに見守る。

「良かった。元気になったようですね」
「私は元気だよ」
「なら良いのですが。貴方が元気がないと、皆が心配します。私も、パムスターの皆様も…」
「アルも心配してくれたんだ」
「勿論ですとも!」

 なんでそんな力強く肯定するの。でも、嬉しいな、心配してくれるの。
 メグやアルジェンや……王子様に会えたのも、ハムスターに転生したからだ。
 やっぱり、ハムスターに転生して良かったかもしれない。


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