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第二章 花選びの儀スタート!

ごめんあそばせ!

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 王子様の視線が真っ直ぐ私を見ている。
 狩りの獲物を見つけたような執着のこもった視線だ。
 えへへ、私ぽっちゃりしてるけど、食べても美味しくないよ。脂肪部分が美味しいのは牛さんとマグロさんであって、ハムスターじゃないからね。美味しくないから、お願いだから食べないでえっ!

「私、急用を思い出しました!」

 三十六計逃げるにしかず。
 私は椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。

「ちょっと待ちたまえ…」
「お爺さんとお婆さんとお母さんと弟が危篤なんですぅっ」

 そんなに親族はいないが、並べておけば緊急事態に聞こえるかもしれない。
 止める王子様から後ずさって、部屋の出入り口にダッシュしようとする。
 王子様も立ち上がった気配がした。
 身を翻した私は、扉を開けて入ってきた執事さんをすり抜けて廊下に飛び出した。

「エステル!」
「殿下っ」

 私の名を呼ぶ王子様が走り出す。彼は慌てた拍子に執事さんにぶつかったようだ。
 執事さんの持っていた水差しの水が飛び散った。
 食器が床にぶつかる音がして振り返ると、謝りまくっている執事さんと、水に濡れた髪をかきあげて私を睨む王子様が。
 ひええっ、ごめんなさーい!
 今更後戻りもできないので、廊下を小走りしてパーティー会場を通り、そのまま宿泊所の自分の部屋へ。
 ああ、とんでもないことしちゃったよ。明日の朝どうなるか分からない。
 ハムスターの姿で脱走しちゃいたい。






 パドリックは去っていく少女の後ろ姿を仕方なく見送った。
 王子という立場では、びしょ濡れの格好でうろつく訳にはいかない。どこに人目があるか分からないし、あらぬ噂を立てられたらことだ。

「申し訳ありません、殿下」
「いや、こちらこそすまない。前を見ていなかった」

 執事を責めるのは酷というものだ。
 花選びの儀に出るような少女は大概、名家の娘と相場が決まっている。お淑やかな彼女達が、この国の王子の前から全速力で逃げ出すなど誰が想像できるだろう。

「急ぎ乾いた布とお着替えをお持ちします」

 執事は何度も謝罪しながら慌ただしく布と衣服を取りに行く。
 パドリックは部屋で執事を待った。

 それにしても、エステルはつくづく予想外の反応をしてくれる。
 水を被る羽目になったのは腹が立つが、不思議とそれで彼女への好意は醒めなかった。むしろ、あれは一体どういう出自の娘かと興味を抱く。

 エステル……僕に水を浴びせた罪は重いぞ。

 パドリックはぶるりと身を震わせた。
 水に濡れた髪が鬱陶しい。気のせいか寒気がする。

「……くしゅ」


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