上 下
96 / 120
5島連盟編

12 水竜王の宝物

しおりを挟む
 風の島の竜騎士ゲイルは、怒れる炎竜王の前から逃走し、一路、光の島コローナに逃げ込んだ。
 ゲイルの相棒である鋼色の竜ブライドは、ヒズミの投げた槍で酷く傷ついていたが、光の島までは何とか飛ぶことができた。

 白亜の都に到着したゲイルは、早速、光竜王に面会を申し込んだ。
 さほど時間をかけずに竜王の居城に入る許可が出る。
 玉座でふんぞり返る光竜王ウェスぺを見上げ、ゲイルは風の島の状況を報告した。

「……火の島の炎竜王が突然現れ、風の島に攻撃を仕掛けてきました。私は何とか逃げのびましたが、おそらくアウリガは炎竜王の手に落ちたと思われます。風竜王が動けない今、光竜王陛下にご判断をお願いしたく」
「もうよい」

 ウェスぺは報告の最中でゲイルの言葉をさえぎった。

「どうせ、お前が挑発したのだろう、ゲイルよ。誤魔化すな」
「さすが光竜王陛下、お見通しで」

 ゲイルは光竜王の力を借りて、アウリガの竜騎士達を率いていた。
 血に飢えたゲイルにとって光竜王の野望は渡りに船だったし、光竜王にとってもゲイルはアウリガを支配する上で都合の良い人材だったのだ。

「このままではアネモスが解放されてしまうが……今はもうそれでも良いか。地上を取り返す方法が他にあると分かった以上、もはや風竜王はアサヒにくれてやってもいい」
「は? アウリガはどうするんです?」
「どうもしない。ご苦労だったな、ゲイルよ。下がっていいぞ」

 ウェスぺは片手をひらひら振って、ゲイルを追い払う仕草をした。
 側近の竜騎士が、ゲイルの退出をうながす。

「ちょっと待て! アウリガにいる炎竜王は放っておくのかっ」
「ゲイル、お前は戦うしか能がない、私の治める世界ではもっとも価値の無い者だ。私は平和を目指している。その過程で幾多の血が流れようとも」

 ふざけるな、お前が全部指図したんだろうが、とゲイルは不満を叫ぼうとしたが、その前に竜王の前から追い出される。

「くそっ!」

 ゲイルは腹いせに城の壁を蹴る。
 ひとりで逃走してきた以上、風の島に戻って居場所があるかどうか定かではない。これからどうするか考え込んだゲイルは、ふと思い付く。

「待てよ。炎竜王がアウリガに来てるってことは、今は火の島は手薄か……?」

 王不在のピクシスに潜り込み、炎竜王の弱みをにぎって逆襲してやるのだ。ゲイルは唇をつりあげて笑った。




 光竜王ウェスぺは、他の竜王の力を奪うことを諦めた。
 唯一、封柱に確保している風竜王アネモスも、炎竜王に解放されてもやむなしと考えている。今の状況では他の4人の竜王を倒して、力を奪うことは難しいだろう。前は油断していたから封柱できたが、今はそうはいかない。
 だから代わりに海竜王と契約して、直接、地上をおおう海水を取り除くことにした。

「海竜王リヴァイアサンは海の中にいると聞きますが、どうやって海竜王のもとへ行かれるのですか?」

 従卒のルークが聞く。
 ウェスぺは机の引き出しから、丸い水晶の球のような物体を取り出した。

「これは水竜王の宝物のひとつ、水の力がこもった海神の玉だ。これがあれば海竜王の居場所が分かる。それに、水の中でも呼吸できるようになる」
「すごい! いつ水竜王から盗んだんですか?」
「盗んだなどと人聞きの悪いことをいうな。これは奴が不在の間に譲り受けたのだよ」
「それを盗んだと言うのでは」

 海神の玉を手でもてあそびながら、ウェスぺは機嫌良さそうに笑った。

「どうせ使わないのなら、私が有効利用してやろう。ふふっ、水竜王の奴、宝物が無いことにいつ頃気付くだろうか」

 実は気付いて光の島に来ようとしているのだが、ウェスぺは水竜王がアサヒと一緒にいることは知らなかった。




 風の島の宿で休んだ次の日。
 どこかへ出掛けていたスミレが戻ってきた。

「スミレさん、どこへ行ってたんだよ。心配したんだよ。あれ……ユエリ?」
「あ、あなたに会いに来たんじゃないんだからね!」

 スミレの後ろには、昨日別れたばかりの蜂蜜色の髪と瞳をした少女の姿があった。切ない雰囲気で別れたので、こうやって再会すると気まずい。

「いや、俺は会えて嬉しいけどさ。どうしたの、ユエリ?」
「兄様が……」
「んん?」

 彼女の隣には見覚えがある、痩せて顔色の悪い灰色の髪の男が立っている。

「やあ、炎竜王」
「あんたは……!」

 以前、ピクシスで戦ったこともあるユエリの兄だ。
 アウリガに戻って来ていたのか。

「そう身構えないでくれ、私は君達の敵じゃない。君達を風竜王様の元へ案内しにきたのだから」
「何?!」

 手掛かりが向こうから飛び込んできた。
 アサヒはびっくりして瞬きする。
 様子を見ていた水竜王ピンインが手を打った。

「案内してくれるとは気前が良いではないか」
「ピンイン! もし罠だったら」
「罠でも飛び込むまでのこと。竜王である我らに恐れるものなど一つもない」
「……なんか前に水竜王が封じられた理由が分かってきたぜ」

 気軽に言うピンインに溜め息をつくと、アサヒは案内をしてくれるというユエリの兄に向き直る。

「あんたを信じた訳じゃない。少しでも情報が欲しいだけだ」
「それでいい。付いてきてくれ」

 警戒するアサヒ達の前に立って、彼は街の外へ歩き始めた。
 

しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ!

紅灯空呼
ファンタジー
★第一部【ヴェッポン国自衛軍編】  ウムラジアン大陸一の軍事強国ヴェッポン国の名門武器商キュウカンバ伯爵家には、とても令嬢とは呼べない凄まじいお転婆娘ピクルスがいる。しかも自衛軍の大佐なのだ。ある日、隣の大国デモングラから戦闘機ボムキャベッツが飛んできた。軍用ヘリコプターに乗って移動中だったピクルス大佐はチョリソール大尉に迎撃を命じる。 ★第二部【ピクルスの世界巡遊編】  キュウカンバ伯爵家のご令嬢ピクルス大佐が世界各地へ旅をする。まず向かった先は大陸の東部に浮かぶ列島・ヤポン神国。そこで伝統的行事の『神攻略戦』という恋愛模擬体験遊戯に加わる。その後、一度ヴェッポン国に帰ったピクルス大佐は、世界各地を舞台にした壮大なRPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』に参戦することとなる。 ★第三部【異世界転生ヒロイン編】  前世とそっくりな世界の別人へと転生したピクルス大佐が、ゲームのヒロインとして大活躍する。そのゲームは二つあり、最初がトンジル国のダブルヒロイン乙女ゲーム『烏賊になったお嬢様』で、次はアルデンテ王国で行われる心トキめくアクションゲーム『四級女官は王宮を守れるか?』だ。より良いエンディングを目指して、ピクルス大佐は奮闘するのである。

仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ
ファンタジー
魔界に召喚されてしまった彼女とシマシマな彼の日常ストーリー 2022年6月9日に完結いたしました。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

転生しようとしたら魔族に邪魔されて加護が受けられませんでした。おかげで魔力がありません。

ライゼノ
ファンタジー
事故により死んだ俺は女神に転生の話を持ちかけられる。女神の加護により高い身体能力と魔力を得られるはずであったが、魔族の襲撃により加護を受けることなく転生してしまう。転生をした俺は後に気づく。魔力が使えて当たり前の世界で、俺は魔力を全く持たずに生まれてしまったことを。魔法に満ち溢れた世界で、魔力を持たない俺はこの世界で生き残ることはできるのか。どのように他者に負けぬ『強さ』を手に入れるのか。 師弟編の感想頂けると凄く嬉しいです! 最新話は小説家になろうにて公開しております。 https://ncode.syosetu.com/n2519ft/ よろしければこちらも見ていただけると非常に嬉しいです! 応援よろしくお願いします!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...