37 / 120
学院編
27 予想外の味方(2017/12/8 新規追加)
しおりを挟む
アサヒはユエリの腕を引きながら薄暗い地下牢の廊下を走り抜け、地上への階段を駆け上った。地下牢の出入り口は、城の中庭に設置されている。そこは既に外だった。
外に出たアサヒは思い付いて上着を脱ぐ。脱いだ上着をユエリに渡して頭に被るように指示した。彼女の金髪は夜の闇でも目立つ。
裏口から出ようと中庭を走っていると、城から出てきた人影にぶつかりそうになる。
「って、くるりん眉毛?!」
「三等級! なんでこんな場所に?!」
それは学生服を着たハルト・レイゼンだった。渦巻いた眉毛と明るい赤毛が特徴の青年で、学院の二等級の男子生徒だ。
鉢合わせして仰天している間にも、地下牢から兵士が追いかけてきている。
咄嗟にアサヒは彼に頼む。
「助けてくれ!」
ハルトは目を丸くする。
アサヒは返事を聞かずに彼の横を走り抜けると、近くの木陰に入ってユエリと一緒に身をかがめて隠れた。
追いかけてきた兵士はハルトを見つける。
「おい、そこの学生! こっちに赤い目の男が走って来なかったか?!」
問われたハルトは眉をしかめた。
「……そいつなら、逆方向に行ったぞ」
「そうか!」
兵士達は逆方向の城の表門に向かって走り出す。
彼らが去った後、ハルトはアサヒ達の潜む木陰に声を掛けた。
「説明をしてもらおうか、三等級」
アサヒはユエリと共に立ち上がってハルトの前に立った。
上着で金髪を隠しているユエリだが、同じ学院の生徒だったハルトには正体が分かる。
「おいっ、三等級、どういうことだ?! お前まさか」
「だから誤解だって!」
幸いハルトは問答無用で斬りかかってはこなかった。
焦りながらも、アサヒは早口で事の次第を説明する。
アサヒの弁解を聞いた彼は険しい表情になる。
「……無抵抗の婦女子を暴行しようなど、竜騎士の風上にも置けん奴らだ」
「信じてくれるのか」
「そういう事をしそうな奴らに心当たりがある」
問題の男子生徒の外見を挙げると、ハルトは同じ二等級だから名前も分かると言う。
「我がレイゼン家の力で真相を明かしてくれよう!」
「おお、さすがだな、くるりん眉毛!」
「ふふん、もっと褒めたたえるのだ!」
アサヒは降って沸いた救世主に拍手喝采する。
「と、言うわけで家に帰って父上の力を借りるぞ」
「親の七光りか……」
自信満々に言い放つハルトに、アサヒは肩を落とした。
とは言え、ここは権力者の力が無ければ解決は難しい。学生のアサヒやハルトが何と言っても聞いてもらえないからだ。
兵士達に見つからない内にレイゼン家に移動しようということになった。
「ところで、くるりん眉毛。こんな夜になんで城にいたんだ?」
「竜騎士の叔父上が巡回に出られるというので、見送りと差し入れのために来たのだ。妙な名前で呼ぶな、三等級!」
「お前もいい加減、俺のことを名前で呼べよ」
軽口を叩くアサヒ。一連の会話でハルトが機嫌を害した気配はない。どうやら、数度の手合わせで妙な親しみが生まれてしまっているらしい。
雑談をしながらアサヒは、後ろを付いてくるユエリが黙ったままなのが気にかかった。
「……さっきから何も言わないけど、大丈夫か、ユエリ」
「っ……」
彼女はうなずくと口をパクパクさせ、顔をしかめて首に手を当てた。
その動作にアサヒは彼女が話せなくなっていることに気付く。
振り返ったハルトが言う。
「なんだ、閉口の魔術を掛けられているのか。外なる大気、内なる魔力……解除!」
ハルトはあっさり彼女に掛けられた魔術を解く。
さすが二等級だとアサヒは感心したが、待てよ、と思った。こんな簡単に捕虜の魔術を解いてしまっていいのだろうか。まあ、解いたのはハルトだから自分には関係ないけれど。
「……ありがとう」
喉に手をやったユエリが細い声で礼をのべる。
「ふん、礼ならそこの三等級に言え」
ユエリへの返答はそっけない。ハルトはアサヒに対しては同じ竜騎士で仲間だという認識を持っているが、ユエリはアウリガの間者だと分かっているので冷たく振る舞っているようだ。
三人は城の裏口を出て夜の街を歩き始めた。
歩きながらアサヒは、出てきた時と比べて風が穏やかになっていることに気付く。
穏やかというか、風が止んでいる。
確認のため夜空を見上げると、上空から降ってくる人影がある。
「……よっ、と」
「お前は!」
どこからともなくアサヒ達の目の前に飛び降りてきたのは、青い長髪で片目を隠した青年だった。
彼は陽気に笑って言った。
「よう、お揃いでどこへ行くのかな? アウリガの女を連れて」
一等級のハヤテ・クジョウの目には明確な敵意がある。
ハヤテはアサヒ達の行く手をはばむように立ちふさがった。
外に出たアサヒは思い付いて上着を脱ぐ。脱いだ上着をユエリに渡して頭に被るように指示した。彼女の金髪は夜の闇でも目立つ。
裏口から出ようと中庭を走っていると、城から出てきた人影にぶつかりそうになる。
「って、くるりん眉毛?!」
「三等級! なんでこんな場所に?!」
それは学生服を着たハルト・レイゼンだった。渦巻いた眉毛と明るい赤毛が特徴の青年で、学院の二等級の男子生徒だ。
鉢合わせして仰天している間にも、地下牢から兵士が追いかけてきている。
咄嗟にアサヒは彼に頼む。
「助けてくれ!」
ハルトは目を丸くする。
アサヒは返事を聞かずに彼の横を走り抜けると、近くの木陰に入ってユエリと一緒に身をかがめて隠れた。
追いかけてきた兵士はハルトを見つける。
「おい、そこの学生! こっちに赤い目の男が走って来なかったか?!」
問われたハルトは眉をしかめた。
「……そいつなら、逆方向に行ったぞ」
「そうか!」
兵士達は逆方向の城の表門に向かって走り出す。
彼らが去った後、ハルトはアサヒ達の潜む木陰に声を掛けた。
「説明をしてもらおうか、三等級」
アサヒはユエリと共に立ち上がってハルトの前に立った。
上着で金髪を隠しているユエリだが、同じ学院の生徒だったハルトには正体が分かる。
「おいっ、三等級、どういうことだ?! お前まさか」
「だから誤解だって!」
幸いハルトは問答無用で斬りかかってはこなかった。
焦りながらも、アサヒは早口で事の次第を説明する。
アサヒの弁解を聞いた彼は険しい表情になる。
「……無抵抗の婦女子を暴行しようなど、竜騎士の風上にも置けん奴らだ」
「信じてくれるのか」
「そういう事をしそうな奴らに心当たりがある」
問題の男子生徒の外見を挙げると、ハルトは同じ二等級だから名前も分かると言う。
「我がレイゼン家の力で真相を明かしてくれよう!」
「おお、さすがだな、くるりん眉毛!」
「ふふん、もっと褒めたたえるのだ!」
アサヒは降って沸いた救世主に拍手喝采する。
「と、言うわけで家に帰って父上の力を借りるぞ」
「親の七光りか……」
自信満々に言い放つハルトに、アサヒは肩を落とした。
とは言え、ここは権力者の力が無ければ解決は難しい。学生のアサヒやハルトが何と言っても聞いてもらえないからだ。
兵士達に見つからない内にレイゼン家に移動しようということになった。
「ところで、くるりん眉毛。こんな夜になんで城にいたんだ?」
「竜騎士の叔父上が巡回に出られるというので、見送りと差し入れのために来たのだ。妙な名前で呼ぶな、三等級!」
「お前もいい加減、俺のことを名前で呼べよ」
軽口を叩くアサヒ。一連の会話でハルトが機嫌を害した気配はない。どうやら、数度の手合わせで妙な親しみが生まれてしまっているらしい。
雑談をしながらアサヒは、後ろを付いてくるユエリが黙ったままなのが気にかかった。
「……さっきから何も言わないけど、大丈夫か、ユエリ」
「っ……」
彼女はうなずくと口をパクパクさせ、顔をしかめて首に手を当てた。
その動作にアサヒは彼女が話せなくなっていることに気付く。
振り返ったハルトが言う。
「なんだ、閉口の魔術を掛けられているのか。外なる大気、内なる魔力……解除!」
ハルトはあっさり彼女に掛けられた魔術を解く。
さすが二等級だとアサヒは感心したが、待てよ、と思った。こんな簡単に捕虜の魔術を解いてしまっていいのだろうか。まあ、解いたのはハルトだから自分には関係ないけれど。
「……ありがとう」
喉に手をやったユエリが細い声で礼をのべる。
「ふん、礼ならそこの三等級に言え」
ユエリへの返答はそっけない。ハルトはアサヒに対しては同じ竜騎士で仲間だという認識を持っているが、ユエリはアウリガの間者だと分かっているので冷たく振る舞っているようだ。
三人は城の裏口を出て夜の街を歩き始めた。
歩きながらアサヒは、出てきた時と比べて風が穏やかになっていることに気付く。
穏やかというか、風が止んでいる。
確認のため夜空を見上げると、上空から降ってくる人影がある。
「……よっ、と」
「お前は!」
どこからともなくアサヒ達の目の前に飛び降りてきたのは、青い長髪で片目を隠した青年だった。
彼は陽気に笑って言った。
「よう、お揃いでどこへ行くのかな? アウリガの女を連れて」
一等級のハヤテ・クジョウの目には明確な敵意がある。
ハヤテはアサヒ達の行く手をはばむように立ちふさがった。
2
お気に入りに追加
4,059
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる