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天使様と里帰り

第63話 勝負ですわ

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 ウーゴも、シエロの言葉を聞いて、少し戸惑っている。
 しかし、よほどネーヴェへの思い入れが強いのか、おそるおそる疑問の声を上げた。

「司教様と伺ったが、なぜ騎士の服装を」
「俺も身分を隠しての旅ゆえ、護衛騎士を偽っているのだ。貴卿らの気にさわったなら謝罪する」
 
 そう言いながら、シエロはちらとネーヴェを見た。
 妙に意味深な視線だった。

「そうだ、偽りでも騎士を装っているなら、剣の修練をせねばならないな。よろしければ、勇猛で知られるクラヴィーア騎士団の者に、稽古を付けて頂きたい」

 シエロの言葉に、騎士団の者たちがざわつく。
 彼らは、司教であるシエロがどこまで剣を使えるか分からず、冗談と流した方がよいか、戸惑っている。
 ネーヴェは、ふと思い付いて声を上げた。

「―――シエロ様は、あなたたちが思っている以上に強い方です。もし、練習試合でシエロ様に勝った者がいたら、私のポケットマネーから賞金を支払いましょう」
「姫?!」

 急に賭け事を始めたネーヴェに、皆、仰天する。
 ネーヴェは、厳しい眼差しで、騎士団を見渡した。

「シエロ様が勝ったら、私がクラヴィーアの騎士団と傭兵団を指揮し、蛮族を掃討します。あなたたちが隠している、父の状況について、洗いざらい話してもらいますわよ!」

 先ほどから、クラヴィーアの騎士たちは、ネーヴェと父の対面を遅らせようと画策していた。
 その真意を問いただしたい。
 これで良いですわね?
 シエロに目線を送ると、彼は口元にかすかな笑みを浮かべ、頷いた。

「……姫のご慧眼、まことに天晴れです」

 ウーゴが感じ入ったように、頭を下げた。

「そこまで見破られているなら、お話するのもやぶさかではありません。しかし、我らは誉れ高きクラヴィーア騎士として、売られた喧嘩は買わねばなりません。隠していることについてお話するのは、姫様の婚約者殿を見定めてから、でよろしいですかな?」

 喧嘩を売られたのに、それを無かったことにはできぬと、ウーゴは言う。

「姫様の指揮に従うかも含め、確かめさせて頂きましょう」

 何年も地元を留守にしていた娘に、いきなり指揮させたくないと考えるのも分からなくはない。
 彼らは今のネーヴェについて、知りたいと考えているのだ。
 それに、騎士の矜持に掛けて、一度決めたことを変更するのは、何かしら理由が必要だ。それが、どんなに下らない理由であっても、打ち解けるには、きっかけが必要だった。
 こうしてネーヴェたちは街に着いた後、兵士の修練場を借り、練習試合を行うことになった。

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