126 / 169
魔術と天使様
第32話 仲直り
しおりを挟む
シエロ様と、どう仲直りしようかしら。
言い争いとも言えない、気まずいやり取りをしてしまった。
彼の痛いところを突いた自覚はあるため、謝りたい気持ちがあるが、謝ってどうする? とも思う。
天使と人間は、寿命が違う。見えている世界も違う。
ネーヴェの指摘は、単なる事実で、謝罪して解決するような問題ではなかった。
話し合いをしなければならない。
だが、どう切り出せば良いのだろう。
「陛下。今日は礼拝堂に、聖下がいらしてますよ」
「……」
「陛下?」
シルヴィアがせっかく報告してくれているのに、自分からシエロと話しに行くのが、ためらわれた。
「今日は忙しいから、また今度にします」
そう言って、会いに行かなかった。
ネーヴェのためらいを、シエロも察したらしい。
翌日、侍女がシエロからの贈り物を持ってきた。
「聖堂の庭園の花を陛下に、との事です」
それは、真っ白なエルダーフラワーの花束だった。
ネーヴェは侍女に命じて、その花を花瓶に活けさせる。マスカットの果実のようなエルダーフラワーの香りが、執務室に広がった。
花の配達は、その日だけでなく、翌日以降も続いた。
次の日は、ラベンダー。
その次の日は、ヒナギク。
カーネーション、薔薇、カサブランカ……
花瓶ひとつでは活けられなくなってきた。
「あらあら。今日は何の花でしょうね?」
侍女頭のディアマンテは楽しそうだ。
「ネーヴェちゃん、聖下と仲直りしたら?」
「……」
ある日から突然、花の配達攻撃?が始まったのだ。
ネーヴェがシエロを避けているので、勘の良い者なら、二人の間に何かあったと気付く。そして、毎日の花の配達は、あからさまに女性のご機嫌取りだ。
「喧嘩など、していません」
「仲の良い男女は、皆そう言うのよ。こんなに毎日、お花をくれる男なんて、なかなかいないわよ」
いつの間にか叔母は、すっかりシエロの味方だ。
あの男は尊大な外面の癖に、下手に出るのが上手い。小娘相手に、プライドが傷付いたりしないのかしら。
そして、なぜネーヴェが悪いみたいな雰囲気になっているのか。
解せないわ……。
「分かりました。会いに行けば良いんでしょう!」
ネーヴェは意を決して、王城内の礼拝堂へ向かった。
礼拝堂の前には例によって長蛇の列が出来ているが、やけになった女王陛下の迫力に押され、蜘蛛の子を散らすように皆いなくなる。
重い扉を兵士に開けさせると、内部では司祭アドルフとシエロが何やら作業をしている。
「……ここに鉢を設置しろ」
「聖下が育てると、屋根を突き破るほど成長しそうで怖いですね」
部外者立ち入り禁止の内陣の隅っこに、植物の鉢を設置しようとしているところだった。
「何をやっているんですの?」
ネーヴェが聞くと、壇上に立っていたシエロが振り返る。
「ああ、来たのか。お前が来るきっかけになればと、礼拝堂にオリーブの木を設置しようとしていたところだ」
オリーブの木を育てることに興味があるネーヴェの気を引こうとしていたらしい。
恥ずかしげもなく宣うシエロに、ネーヴェは呆れた。
「もう来ましたので、不要なのでは?」
「いや。この礼拝堂の緑化推進のため、このオリーブはここで育ててみようと思う」
緑化推進とは何ぞやと色々突っ込みどころが多いが、ネーヴェはシエロと話せて安堵している自分に気付いた。断じて叔母のようにイケメン好きな訳ではないが、シエロの顔を見ると落ち着くのだ。
一方のシエロは、先日の気まずい会話が無かったかのように、穏やかに微笑む。
「お前の来訪を心待ちにしていたぞ、ネーヴェ」
「!」
臆面もなく言われて、これでは意地を張っていた自分の方が子供っぽいと思いながら、ネーヴェは嬉しくなってしまった。
言い争いとも言えない、気まずいやり取りをしてしまった。
彼の痛いところを突いた自覚はあるため、謝りたい気持ちがあるが、謝ってどうする? とも思う。
天使と人間は、寿命が違う。見えている世界も違う。
ネーヴェの指摘は、単なる事実で、謝罪して解決するような問題ではなかった。
話し合いをしなければならない。
だが、どう切り出せば良いのだろう。
「陛下。今日は礼拝堂に、聖下がいらしてますよ」
「……」
「陛下?」
シルヴィアがせっかく報告してくれているのに、自分からシエロと話しに行くのが、ためらわれた。
「今日は忙しいから、また今度にします」
そう言って、会いに行かなかった。
ネーヴェのためらいを、シエロも察したらしい。
翌日、侍女がシエロからの贈り物を持ってきた。
「聖堂の庭園の花を陛下に、との事です」
それは、真っ白なエルダーフラワーの花束だった。
ネーヴェは侍女に命じて、その花を花瓶に活けさせる。マスカットの果実のようなエルダーフラワーの香りが、執務室に広がった。
花の配達は、その日だけでなく、翌日以降も続いた。
次の日は、ラベンダー。
その次の日は、ヒナギク。
カーネーション、薔薇、カサブランカ……
花瓶ひとつでは活けられなくなってきた。
「あらあら。今日は何の花でしょうね?」
侍女頭のディアマンテは楽しそうだ。
「ネーヴェちゃん、聖下と仲直りしたら?」
「……」
ある日から突然、花の配達攻撃?が始まったのだ。
ネーヴェがシエロを避けているので、勘の良い者なら、二人の間に何かあったと気付く。そして、毎日の花の配達は、あからさまに女性のご機嫌取りだ。
「喧嘩など、していません」
「仲の良い男女は、皆そう言うのよ。こんなに毎日、お花をくれる男なんて、なかなかいないわよ」
いつの間にか叔母は、すっかりシエロの味方だ。
あの男は尊大な外面の癖に、下手に出るのが上手い。小娘相手に、プライドが傷付いたりしないのかしら。
そして、なぜネーヴェが悪いみたいな雰囲気になっているのか。
解せないわ……。
「分かりました。会いに行けば良いんでしょう!」
ネーヴェは意を決して、王城内の礼拝堂へ向かった。
礼拝堂の前には例によって長蛇の列が出来ているが、やけになった女王陛下の迫力に押され、蜘蛛の子を散らすように皆いなくなる。
重い扉を兵士に開けさせると、内部では司祭アドルフとシエロが何やら作業をしている。
「……ここに鉢を設置しろ」
「聖下が育てると、屋根を突き破るほど成長しそうで怖いですね」
部外者立ち入り禁止の内陣の隅っこに、植物の鉢を設置しようとしているところだった。
「何をやっているんですの?」
ネーヴェが聞くと、壇上に立っていたシエロが振り返る。
「ああ、来たのか。お前が来るきっかけになればと、礼拝堂にオリーブの木を設置しようとしていたところだ」
オリーブの木を育てることに興味があるネーヴェの気を引こうとしていたらしい。
恥ずかしげもなく宣うシエロに、ネーヴェは呆れた。
「もう来ましたので、不要なのでは?」
「いや。この礼拝堂の緑化推進のため、このオリーブはここで育ててみようと思う」
緑化推進とは何ぞやと色々突っ込みどころが多いが、ネーヴェはシエロと話せて安堵している自分に気付いた。断じて叔母のようにイケメン好きな訳ではないが、シエロの顔を見ると落ち着くのだ。
一方のシエロは、先日の気まずい会話が無かったかのように、穏やかに微笑む。
「お前の来訪を心待ちにしていたぞ、ネーヴェ」
「!」
臆面もなく言われて、これでは意地を張っていた自分の方が子供っぽいと思いながら、ネーヴェは嬉しくなってしまった。
13
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~
真曽木トウル
恋愛
「アルヴィナ、君との婚約は解消するよ。君の妹と結婚する」
両親から冷遇され、多すぎる仕事・睡眠不足・いわれのない悪評etc.に悩まされていた王女アルヴィナは、さらに婚約破棄まで受けてしまう。
そんな心身ともボロボロの彼女が出会ったのは、和平交渉のため訪れていた10歳上の敵国将軍・イーリアス。
一見冷徹な強面に見えたイーリアスだったが、彼女の置かれている境遇が酷すぎると強く憤る。
そして彼が、アルヴィナにした提案は────
「恐れながら王女殿下。私と結婚しませんか?」
勢いで始まった結婚生活は、ゆっくり確実にアルヴィナの心と身体を癒していく。
●『王子、婚約破棄したのは~』と同じシリーズ第4弾。『小説家になろう』で先行して掲載。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです
ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。
侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。
アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。
同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。
しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。
だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。
「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」
元々、これは政略的な婚約であった。
アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。
逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。
だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。
婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。
「失せろ、この出来損ないが」
両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。
魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。
政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。
だが、冒険者になってからも差別が続く。
魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。
そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。
心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。
ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。
魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。
その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。
何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。
これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる