20 / 36
プラチナ【トナミ】
しおりを挟む
「うん。でもオレお風呂入ってないし……」
キスされた手の平はトイレで散々洗ったが、身体中佐々木に触れられた感触が残っていて気持ち悪かった。佐々木に舐められたところがなめくじが這った後の様にぬるぬるとしているような気分で、恐らくどんなに綺麗に洗っても不快感は消えないだろう。あいつに触られた髪の毛は輝きを失ったように思えたし、何より心が一番汚れてしまったと思った。
そんな汚い身体でゼンに近づくわけにはいかない。
「今、オレ、汚いから……」
そう言うと、ゼンが何故か眉間に皺を寄せて立ち上がった。大股でオレに近づき、声を上げる間も無く抱き抱えられる。
そして、まるで犬を運ぶかのように、自分のベッドの上に放り投げた。完全に人扱いされていない。それなのに全く嫌じゃなかった。
「ちょ、」
状況が理解出来ないオレを置いて、ゼンはオレに腕を回し、抱き抱えたままベッドに横になった。向かい合わせで、まるで抱き合うような形で身体を拘束される。全く身体は動かないのに、不思議とどこも痛くはなかった。
「トナミはきたなくない」
「え、」
「プラチナみたい」
「プラチナ……?」
この髪の事だろうか。
ゼンの大きな手がオレの頭に触れる。そこから伝わる温かさに、引っ込んでいた涙がまた溢れてきそうになる。
宥めるように髪を撫でられる。もしかしたら、犬を撫でているような感覚なのかもしれない。それでもこの気持ち良さから逃れられなかった。
あれほど汚れてしまったと思っていた髪が、また綺麗になったような気がした。
「もうねよ……」
その言葉を最後にゼンはまた眠りに落ちた。
間近に迫るゼンの胸は穏やかに上下している。顔を寄せてみると、心地良い心臓の音がした。
誰かの心臓の音に安心する時がくるなんて思っていなかった。誰と寝ても、自分と合わないリズムの鼓動は煩わしいもの以外の何者でもなかった。もしかしたらちゃんと聞いたのも初めてかもしれない。
もう少し聞いていたいと、もう一度顔を寄せようとして、やめた。成り行きでこんなことになってしまったが、自分が今汚れている事実は変わらない。
ここにいたらゼンまで汚くなってしまうんじゃないかという恐怖と今まで感じたことのない安心感に感情がぐちゃぐちゃになる。
ぐちゃぐちゃの感情はやがてオレの脳を麻痺させて、なにも考えられなくなった。
それでもいいか、と半ば投げやりに、ゼンの背中に腕をまわす。
目の前に置かれた甘い誘惑にオレは余すことなく縋り付き、目を閉じた。
***
起きるとそこにゼンの姿はなかった。
時計を見ると午前10時を回っている。
…………寝過ぎた。
ゼンが起き上がったのも分からないくらい爆睡してしまった自分が恥ずかしくなる。しかし、起きた時のゼンのリアクションが分からなかったのは不幸中の幸いだった。
ゼンは昨日、完全に寝ぼけていた。オレを抱き抱えたのも、密着しながら寝たのも全部ゼンから始めたことだが、どうせ覚えていないだろう。その状況で目を覚まし、間近に眠るオレの顔を見たらきっと嫌な顔をしたはずだ。そんなゼンの顔を見てしまったら、多分傷つく。
ゼンの背中に回していたはずの腕を見つめる。
昨日、長時間震えていたせいか、身体中が引き攣ったように痛い。緊張して強張っていたのか、怠さもある。
オレは重たい身体を起こすと、直ぐに風呂場へと駆け込んだ。乱暴に服を脱ぎ散らかし、シャワーを頭から被る。冷たい水が肌を伝って汚れを洗い流してくれると、ようやく少し落ち着いてきた。
ゼンが隣に居ないと分かった瞬間、また身体が震え出した。昨日の出来事がフラッシュバックして、佐々木の舌が身体を這いずる感覚を鮮明に思い出し始める。
ざらざらとまるで味見をするかのような動きで何度も舐められた。全然気持ち良くなんかないはずなのに、ゼンの顔を思い出したらイッてしまった。
それを自分の手柄だと喜ぶ佐々木の声が重なって聞こえる。
思い出せば出すほど罪悪感に苛まれた。
いけない、と分かっているはずなのに、冷たいシャワーに比例して身体はどんどん熱くなっていく。
きっと、最近シてなかったせいだ。無理矢理そう思い込むことでゼンを意識の中から排除する。
そして、誰でもない男に抱かれている自分を想像して熱を収めようとする。
相手の顔はオレのタイプでタワマンに住んでる金持ち。何でも買ってくれていつも優しい。オレの良い場所もよく分かっていて、甘えたいだけ甘えさせてくれる。何度も何度も好きだと言葉をくれて、オレもそれに応える。
何度も夢見た最高のシチュエーションのはずなのに、全く気分が乗らない。
自分で触っていても虚しさだけが膨らんでいく。
オレは諦めて蹲りながら熱が収まるのを待つことにした。
徐々に末端から冷えていく身体はやがて心まで到達し、オレはなんとか、いつも通りに見えるオレを取り戻した。
キスされた手の平はトイレで散々洗ったが、身体中佐々木に触れられた感触が残っていて気持ち悪かった。佐々木に舐められたところがなめくじが這った後の様にぬるぬるとしているような気分で、恐らくどんなに綺麗に洗っても不快感は消えないだろう。あいつに触られた髪の毛は輝きを失ったように思えたし、何より心が一番汚れてしまったと思った。
そんな汚い身体でゼンに近づくわけにはいかない。
「今、オレ、汚いから……」
そう言うと、ゼンが何故か眉間に皺を寄せて立ち上がった。大股でオレに近づき、声を上げる間も無く抱き抱えられる。
そして、まるで犬を運ぶかのように、自分のベッドの上に放り投げた。完全に人扱いされていない。それなのに全く嫌じゃなかった。
「ちょ、」
状況が理解出来ないオレを置いて、ゼンはオレに腕を回し、抱き抱えたままベッドに横になった。向かい合わせで、まるで抱き合うような形で身体を拘束される。全く身体は動かないのに、不思議とどこも痛くはなかった。
「トナミはきたなくない」
「え、」
「プラチナみたい」
「プラチナ……?」
この髪の事だろうか。
ゼンの大きな手がオレの頭に触れる。そこから伝わる温かさに、引っ込んでいた涙がまた溢れてきそうになる。
宥めるように髪を撫でられる。もしかしたら、犬を撫でているような感覚なのかもしれない。それでもこの気持ち良さから逃れられなかった。
あれほど汚れてしまったと思っていた髪が、また綺麗になったような気がした。
「もうねよ……」
その言葉を最後にゼンはまた眠りに落ちた。
間近に迫るゼンの胸は穏やかに上下している。顔を寄せてみると、心地良い心臓の音がした。
誰かの心臓の音に安心する時がくるなんて思っていなかった。誰と寝ても、自分と合わないリズムの鼓動は煩わしいもの以外の何者でもなかった。もしかしたらちゃんと聞いたのも初めてかもしれない。
もう少し聞いていたいと、もう一度顔を寄せようとして、やめた。成り行きでこんなことになってしまったが、自分が今汚れている事実は変わらない。
ここにいたらゼンまで汚くなってしまうんじゃないかという恐怖と今まで感じたことのない安心感に感情がぐちゃぐちゃになる。
ぐちゃぐちゃの感情はやがてオレの脳を麻痺させて、なにも考えられなくなった。
それでもいいか、と半ば投げやりに、ゼンの背中に腕をまわす。
目の前に置かれた甘い誘惑にオレは余すことなく縋り付き、目を閉じた。
***
起きるとそこにゼンの姿はなかった。
時計を見ると午前10時を回っている。
…………寝過ぎた。
ゼンが起き上がったのも分からないくらい爆睡してしまった自分が恥ずかしくなる。しかし、起きた時のゼンのリアクションが分からなかったのは不幸中の幸いだった。
ゼンは昨日、完全に寝ぼけていた。オレを抱き抱えたのも、密着しながら寝たのも全部ゼンから始めたことだが、どうせ覚えていないだろう。その状況で目を覚まし、間近に眠るオレの顔を見たらきっと嫌な顔をしたはずだ。そんなゼンの顔を見てしまったら、多分傷つく。
ゼンの背中に回していたはずの腕を見つめる。
昨日、長時間震えていたせいか、身体中が引き攣ったように痛い。緊張して強張っていたのか、怠さもある。
オレは重たい身体を起こすと、直ぐに風呂場へと駆け込んだ。乱暴に服を脱ぎ散らかし、シャワーを頭から被る。冷たい水が肌を伝って汚れを洗い流してくれると、ようやく少し落ち着いてきた。
ゼンが隣に居ないと分かった瞬間、また身体が震え出した。昨日の出来事がフラッシュバックして、佐々木の舌が身体を這いずる感覚を鮮明に思い出し始める。
ざらざらとまるで味見をするかのような動きで何度も舐められた。全然気持ち良くなんかないはずなのに、ゼンの顔を思い出したらイッてしまった。
それを自分の手柄だと喜ぶ佐々木の声が重なって聞こえる。
思い出せば出すほど罪悪感に苛まれた。
いけない、と分かっているはずなのに、冷たいシャワーに比例して身体はどんどん熱くなっていく。
きっと、最近シてなかったせいだ。無理矢理そう思い込むことでゼンを意識の中から排除する。
そして、誰でもない男に抱かれている自分を想像して熱を収めようとする。
相手の顔はオレのタイプでタワマンに住んでる金持ち。何でも買ってくれていつも優しい。オレの良い場所もよく分かっていて、甘えたいだけ甘えさせてくれる。何度も何度も好きだと言葉をくれて、オレもそれに応える。
何度も夢見た最高のシチュエーションのはずなのに、全く気分が乗らない。
自分で触っていても虚しさだけが膨らんでいく。
オレは諦めて蹲りながら熱が収まるのを待つことにした。
徐々に末端から冷えていく身体はやがて心まで到達し、オレはなんとか、いつも通りに見えるオレを取り戻した。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
お前はオレの好みじゃない!
河合青
BL
三本恭一(みもときょういち)は、ある日行きつけのゲイバーで職場近くの定食屋でバイトしている大学生の高瀬陽(たかせはる)と遭遇する。
ゲイであることを隠していた恭一は陽にバレてしまったことで焦るが、好奇心旺盛で貞操観念の緩い陽はノンケだが男同士のセックスに興味を持ち、恭一になら抱かれたい!と迫るようになってしまう。
しかし、恭一は派手な見た目から誤解されがちだがネコで、しかも好みのタイプはリードしてくれる年上。
その辺りの知識は全く無い陽に振り回され、しかし次第に絆されていき……。
【攻め】高瀬陽。大学生。好奇心旺盛でコミュ強。見た目は真面目で誠実そうだが特定の彼女は作らない。ゲイへの知識がないなりに恭一のことを理解しようとしていく。
【受け】三本恭一。社会人。派手な見た目と整った顔立ちからタチと勘違いされがちなネコ。陽は好みのタイプではないが、顔だけならかなり好みの部類。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
この腐男子とドS男子の恋は漫画とは違う恋になりそうです
桜庭はな
BL
BL漫画のシチュエーションに憧れている限界腐男子、二見 伊吹はとある事をきっかけに隣の高校の同学年、有馬 遥と知り合う。
BL漫画に出てくるようなドSでイケメン男子である遥に一目惚れし、遥とよく読むBL漫画のようなキュンキュンした甘い恋愛をする事を夢見て、恋愛を頑張る伊吹…!
平凡男子×ドS俺様系男子のボーイズラブストーリー!!
Hなシーンを含む場面があります。
表紙は仮です!
平凡でツンデレな俺がイケメンで絶倫巨根のドS年下に堕ちたりにゃんか絶対しにゃい…♡
うめときんどう
BL
わたしの性癖全て詰め込んでます…♡
ツンデレだけど友達もそこそこいる平凡男子高校生!
顔も可愛いし女の子に間違われたことも多々…
自分は可愛い可愛い言われるがかっこいいと言われたいので言われる度キレている。
ツンデレだけど中身は優しく男女共々に好かれやすい性格…のはずなのに何故か彼女がいた事がない童貞
と
高校デビューして早々ハーレム生活を送っている高校1年生
中学生のころ何人もの女子に告白しまくられその度に付き合っているが1ヶ月も続いたことがないらしい…
だが高校に入ってから誰とも付き合ってないとか…?
束縛が激しくて性癖がエグい絶倫巨根!!
の
2人のお話です♡
小説は初めて書くのでおかしい所が沢山あると思いますが、良ければ見てってください( .. )
私の性癖が沢山詰まっているのでストーリーになっているかは微妙なのですが、喘ぎ♡アヘアヘ♡イキイキ♡の小説をお楽しみください/////
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ゆるゆる王様生活〜双子の溺愛でおかしくなりそう〜
琴音
BL
幼なじみのヨハンと成人後、冒険者に人気の食堂を切り盛りして楽しく過ごしていた。ある日、胸が潰れそうな痛みに苦しんだ後、猫族の僕は人族に変体していた。僕等の国では15の成人までには変体するのが普通。なのに僕は18歳で今年19歳……変体とは無縁と生きてきたのに!!聞いた事ない事態だけど……なった事は仕方ない。戻れはしないのだから諦めてイアサント王国へ!
着いてみればエロい双子に溺愛される未来が待っていた。魂が求めるような愛情が湧いて、二人がいなければ僕はもう生きては行けないと思うほど大好き。僕は大切にされるのが当たり前になり、それに溺れ周りを見てるようで見ていなかったり。わりとゆるく考えていたために追い詰められて壊れたりもした。他にはない特殊能力あったけど、地味でみんなスルー、本人すらスルー……
注意:
3P見たいな場面もありますが双子は二人で一人のような存在なので3Pのつもりはなく、たたの夫婦の営みのつもりで書いてます。
この世界は中世の時代をイメージしてます。薬、医療は当然なく人が死にやすい。ケガはポーションとかなんとかなるが、病が体力次第。なので人口を増やすもテーマになってます。
章の最後にあらすじがあります。参考に読んでいただけると嬉しいです。
〜章ごとにゆるい解説〜
プロローグ 事の始まり
一章 城に行き双子との出会いから戴冠式まで。
二章 半年過ぎて番としての衝動、王になる為の努力以外の心の繋がりや二人の背景とルチアーノの心の変化
三章 他国に訪問。戦の気配
四章 敵を迎え撃ち撃破。そして攻撃に転ずる 子の成長により翻弄される
五章 世界が落ち着きルチアーノはやり残した事を始め、そして………
ドMな二階堂先生は踏まれたい
朝陽ヨル
BL
ドS生徒会副会長×ドM教育実習生
R18/鬼畜/年下攻め/敬語攻め/ドM受け/モロ語/愛ある暴力/イラマ/失禁 等 ※エロ重視でほぼ物語性は無いです
ゲイでドMな二階堂は教育実習先で、生徒会副会長の吾妻という理想の塊を発見した。ある日その吾妻に呼ばれて生徒会室へ赴くとーー。
理想のご主人様とドキドキぞくぞくスクールライフ!
『99%興味』のスピンオフ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる