一途な猫は夢に溺れる

ことわ子

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一途な猫は夢に溺れる

知りたくなかったこと

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 僕の名前はマオ。それ以上でもそれ以下でもないただの「マオ」。それがお師匠さんがくれた僕の全部。他人からどう思われようと気にしない。これが幸せということなんだと思う。お師匠さんといつまでも一緒に居られることが僕の夢で幸せだ。
 ずっと、そう、思っていた。

 僕は物心ついたころにはもうお師匠さんと暮らしていた。お師匠さんが言うには僕は『使い魔』と言うものらしい。高名な魔法使いである僕のお師匠さんは使い魔として僕を呼び出した。魔法使いの使い魔と言ったら黒猫だよね、と無邪気に笑いながら東洋の国の言葉で猫を意味する名前を僕につけてくれた。
 でも僕には耳も無ければふわふわのしっぽも無かった。それがすごくもどかしかった。
 お師匠さんに読んでもらった沢山の絵本では優秀な使い魔たちがいっぱい活躍していた。それに比べて、僕には使い魔としての才能も全く無くて、猫のように可愛い仕草でお師匠さんを癒してあげる事も出来なければ、使い魔としてお仕事を手伝ってあげる事も出来なかった。お師匠さんを助けるために呼び出されたのに、役に立つどころか、いつも空回って失敗ばかりしていた。
それでもお師匠さんはいつも笑顔で僕を見守り、寄り添い続けてくれた。
 そんなある日。僕はお師匠さんの言いつけを守らず、僕たちが住んでいる森を抜けて村の方へと出てしまった。魔法使いは人間から恐れられているから、お互いの平穏を保つためにも関わらないこと。平和が一番だからね、とお師匠さんは冗談めかして笑っていた。それなのにどうしても確かめたいことができてしまった僕は初めてお師匠さんの言いつけを破った。
 僕はなるべく目立たないようにフードを深く被り、村の入り口に立っていた人間に近づいた。一歩一歩近づく度に、どん、どん、と胸のあたりに衝撃が走った。どくどくと体の中を駆け巡る何かが僕の疑問を徐々に晴らしていっているようでなぜだかとても緊張した。
 僕は最大限の用心をしながら人間に近づくと、盗み見るように僅かに顔を上げた。
 そこには“僕と同じ”人間の子どもたちがいた。

 使い魔に心臓は無い。
 お師匠さんの本棚を整理していて偶然落としてしまった本にこう書かれていた。そうなんだ、と思った瞬間、自分の胸の中で何かが大きく跳ねた。何かが動いて場所に手を当ててみる。いつも疑問に思ったことなんか無かったのに、急に不安になり、僕は大急ぎでお師匠さんの本棚を片っ端から漁り始めた。医学にも精通するお師匠さんの本棚だ。僕が求めている答えがここにあるに違いない。
 数十冊の本と格闘の末、僕は答えに辿りついた。辿りついてしまった。
 普段は何をやっても駄目なのに、どうしてこう、こんな時だけ勘が冴えるのか。僕は震える手で用心深く本を元あった場所に戻すと、そのまま家を出た。もしかしたら何かの間違いかもしれない。そんな希望を胸に僕は無我夢中で駆け出した。
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