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花を手折るまで後、2日【2】
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「その前に! リシュはわたしに言いたいことはない?」
「僕が?」
「そう! ものすごーく重要で、ものすごーく報告したいこと!」
「特には、──あっ」
思い当たった僕は瞬時に顔に血が昇ってくるのを感じた。
「そうそれ!」
僕の反応を楽しむようにパメラが弾んだ声を出す。今まで、しきたりだからと平気で口にしていたが、付き合いの長い婚約者に報告するのは流石に少し恥ずかしい。
「僕の……花、が、シセルに決まった…………よ、」
「おめでとう!」
途切れ途切れの僕の言葉を全部聞いた後、パメラは僕の両手を掴んで飛び跳ねた。パメラはいつも全身で喜びを表現する。今までは体格が同じくらいだったため、いつもパメラの喜びの舞に巻き込まれて転んでいた僕も、パメラを支えられるくらいに成長していた。
「ずっと好きだった人と結ばれるなんて素敵! リシュを題材にして物語が書けそう!」
「それはちょっと……」
パメラは将来小説家になりたいらしく、題材探しに余念がない。そういった目的でしばしば人間観察をしているせいか、人の機微に聡く、何でもすぐにバレてしまう。
まだ僕たちが子供だった頃、僕のシセルへの思いにいち早く気づき、観察対象半分、応援半分といった具合でたまに相談に乗ってくれたりもした。現状、パメラ以外で僕のこの思いを知る人はエステラ姉さん付きのメイドのレイリーくらいだ。
「あの、その……パメラはやっぱり複雑?」
聞いても良いか分からなかった。だけど聞かずにはいられなかった。
ずっと気がかりがった。
「複雑って?」
「だから、一応、婚約者なのに……」
「リシュがわたしに気がないこと?」
「うん…………」
幼い頃はただひらすらに誰にも言えないシセルへの思いを聞いてもらっていた。それが家同士の都合で、本人の意思には関係なく婚約者に決まってしまったパメラにとって残酷な仕打ちかもしれないという考えには、幼さ故至らなかった。
パメラのことは好きだが、それは親愛であり恋慕ではない。そんな人間の元に嫁ぐなんて、普通に考えたら嫌に決まっている。
しかし。
「全然?」
あっけらかんとパメラは言い放った。
僕は思わずパメラの顔を見た。
「むしろリシュの婚約者に選ばれてから人生薔薇色よ! 結婚する気なんてないのに、夜会で男に言い寄られたり、次々と顔も知らない様な貴族の男を紹介されたり、そういう想像するだけでげっそりしちゃう様なことを回避出来るんだって思ったら、本当に感謝しても仕切れないわ!」
「でも」
「第三王子の未来の伴侶の立ち位置がどれだけ素晴らしいか分かる? あれだけ留学に反対していたお父様が婚約者になっただけで、喜んで了承してくれて、面倒な夜会に行っても誰一人男は寄り付かない。更には未来の王族特権で海外の貴重な書物を見せてもらったりしたの!」
「は、はぁ……」
「わたしは王族では無いからって諦めていた夢が叶ったのよ!? スゴいでしょ!?」
パメラは興奮したように捲し立てる。王族であることをただの肩書き程度に思っていた僕には衝撃だった。
「パメラの方が王族に生まれれば良かったね」
それは嫌味ではなく純粋な感想だったが、バッサリと切って捨てられた。
「え、嫌だけど」
「なんで?」
「だってわたし、花の契りなんて絶対にしたくないし」
ガン、と頭を殴られたような気分になった。
「普通、そういうもの……?」
「わたしは世間の普通から外れてる自覚があるから何とも言えないけど、少なくともわたしは気持ちが伴ってない人とそういうことは出来ない。いくら将来が約束されると言われてもね」
気持ちが伴っていない。
僕は頭の中に浮かんだシセルの顔を無理矢理掻き消した。
パメラは僕の顔を覗き込んだ後、言葉を付け足した。
「でも、リシュなら大丈夫」
パメラの大丈夫、はいつだって根拠がない。それなのに何故か本当に大丈夫だと思えてくるような力がある。
「って思ったんだけど……」
パメラは言いながら僕の足元に視線を落とした。何かを凝視している。
「これじゃあちょっと不安かも」
屈みながら何かを手にしたパメラは大きく口を開けて息を吸った。
「僕が?」
「そう! ものすごーく重要で、ものすごーく報告したいこと!」
「特には、──あっ」
思い当たった僕は瞬時に顔に血が昇ってくるのを感じた。
「そうそれ!」
僕の反応を楽しむようにパメラが弾んだ声を出す。今まで、しきたりだからと平気で口にしていたが、付き合いの長い婚約者に報告するのは流石に少し恥ずかしい。
「僕の……花、が、シセルに決まった…………よ、」
「おめでとう!」
途切れ途切れの僕の言葉を全部聞いた後、パメラは僕の両手を掴んで飛び跳ねた。パメラはいつも全身で喜びを表現する。今までは体格が同じくらいだったため、いつもパメラの喜びの舞に巻き込まれて転んでいた僕も、パメラを支えられるくらいに成長していた。
「ずっと好きだった人と結ばれるなんて素敵! リシュを題材にして物語が書けそう!」
「それはちょっと……」
パメラは将来小説家になりたいらしく、題材探しに余念がない。そういった目的でしばしば人間観察をしているせいか、人の機微に聡く、何でもすぐにバレてしまう。
まだ僕たちが子供だった頃、僕のシセルへの思いにいち早く気づき、観察対象半分、応援半分といった具合でたまに相談に乗ってくれたりもした。現状、パメラ以外で僕のこの思いを知る人はエステラ姉さん付きのメイドのレイリーくらいだ。
「あの、その……パメラはやっぱり複雑?」
聞いても良いか分からなかった。だけど聞かずにはいられなかった。
ずっと気がかりがった。
「複雑って?」
「だから、一応、婚約者なのに……」
「リシュがわたしに気がないこと?」
「うん…………」
幼い頃はただひらすらに誰にも言えないシセルへの思いを聞いてもらっていた。それが家同士の都合で、本人の意思には関係なく婚約者に決まってしまったパメラにとって残酷な仕打ちかもしれないという考えには、幼さ故至らなかった。
パメラのことは好きだが、それは親愛であり恋慕ではない。そんな人間の元に嫁ぐなんて、普通に考えたら嫌に決まっている。
しかし。
「全然?」
あっけらかんとパメラは言い放った。
僕は思わずパメラの顔を見た。
「むしろリシュの婚約者に選ばれてから人生薔薇色よ! 結婚する気なんてないのに、夜会で男に言い寄られたり、次々と顔も知らない様な貴族の男を紹介されたり、そういう想像するだけでげっそりしちゃう様なことを回避出来るんだって思ったら、本当に感謝しても仕切れないわ!」
「でも」
「第三王子の未来の伴侶の立ち位置がどれだけ素晴らしいか分かる? あれだけ留学に反対していたお父様が婚約者になっただけで、喜んで了承してくれて、面倒な夜会に行っても誰一人男は寄り付かない。更には未来の王族特権で海外の貴重な書物を見せてもらったりしたの!」
「は、はぁ……」
「わたしは王族では無いからって諦めていた夢が叶ったのよ!? スゴいでしょ!?」
パメラは興奮したように捲し立てる。王族であることをただの肩書き程度に思っていた僕には衝撃だった。
「パメラの方が王族に生まれれば良かったね」
それは嫌味ではなく純粋な感想だったが、バッサリと切って捨てられた。
「え、嫌だけど」
「なんで?」
「だってわたし、花の契りなんて絶対にしたくないし」
ガン、と頭を殴られたような気分になった。
「普通、そういうもの……?」
「わたしは世間の普通から外れてる自覚があるから何とも言えないけど、少なくともわたしは気持ちが伴ってない人とそういうことは出来ない。いくら将来が約束されると言われてもね」
気持ちが伴っていない。
僕は頭の中に浮かんだシセルの顔を無理矢理掻き消した。
パメラは僕の顔を覗き込んだ後、言葉を付け足した。
「でも、リシュなら大丈夫」
パメラの大丈夫、はいつだって根拠がない。それなのに何故か本当に大丈夫だと思えてくるような力がある。
「って思ったんだけど……」
パメラは言いながら僕の足元に視線を落とした。何かを凝視している。
「これじゃあちょっと不安かも」
屈みながら何かを手にしたパメラは大きく口を開けて息を吸った。
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