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花を手折るまで後、3日【3】
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***
ふわふわとした足取りで廊下を歩く。晩餐会はとても楽しかった。こんなに楽しいならシセルも来れたら良かったのにと思う。
「シセル……」
そういえばシセルは怪我で欠席していたんだった。自分の『花』のことを一時でも忘れるなんて僕は伴侶失格だ。
そう思うと、楽しかった気分は急降下して罪悪感が膨れ上がっていく。
ふわふわした頭でシセルのことを考える。
どうしようもなくシセルに会いたい。
僕は自分の部屋の方に歩いていた足をシセルの部屋の方へ向けた。
いてもたってもいられず、全速力で走り出す。走れば走るほど血液に炎を混ぜられたかのように熱が全身を駆け巡り始める。
息が上がる。それでも早く会いたくて急ぐ足を休めない。
ぼやける視界の中、シセルの部屋までたどり着く。ぐにゃぐにゃと歪むこの扉の向こうでシセルは寝ている。
「シセル!」
僕は大声でシセルの名前を呼ぶとドアを力任せに開け放った。
深夜の静まり返った廊下に大音量のドアを開ける音が響いて伝わる。
勿論、部屋の中で寝ていたのであろうシセルは飛び起き、臨戦態勢をとった。
僕は構わずシセルに飛びつく。
「は? リシュ!?」
「僕だよぉー」
「何しにきた……っていうか酒臭い!」
「臭くないよ。ほら!」
僕はシセルに抱きつくと、襟ぐりを大きく広げて自身の匂いを嗅がせた。
臭いだなんて失礼な。
シセルは焦ったように僕を引き離そうとするが、僕は意地でも離れなかった。
と、開けっ放しのドアからばたばたと慌てる人の足音が聞こえてきた。
「まずい!」
なにがまずいのか。
僕が首を傾げていると急にベッドの中に押し込まれた。息苦しい、と抗議しようとすると手の平で口を押さえられた。
「シセル様!? どうかしましたか!?」
シセルの部下の騎士団の人の声がする。僕は出て行って挨拶をしようとしたが更に強い力で押し込まれた。
「大丈夫だ、下がっていい。あ、ドアは閉めていってくれると助かる」
「は、はい……」
どこか腑に落ちないという声を出したシセルの部下は、戸惑いながらもドアを閉めて去っていった。足音が遠ざかっていく。
完全に足音が聞こえなくなって初めて、シセルは拘束の力を緩めてくれた。
訳も分からず動きを封じられて、息苦しい思いをした僕は、お返しとばかりにシセルをベッドの中に引き込んだ。少しの遠慮もない力で強引に組み敷く。
「ちょっ、リシュ、やめ……」
「今度は僕の番ね」
僕はシセルの首筋を一舐めすると噛み付いた。
すごく美味しそうに見えたからだ。
口を離すと自分の歯形が残っていて嬉しくなる。指でなぞると薄く滲んだ血が指に付いた。全身の血が沸きあがるような感覚が襲ってくる。
「いた、い」
「あ、ごめん、今度は優しくするね」
「今度はって、やめっ」
止めようとしてきた腕を掴み、手首に歯を立てる。痛くないように優しく、何回も。
今度は歯形が残らず、少し不満に感じる。しかし、シセルの緩く揺れる瞳を見て気が変わった。
「リシュ……」
シセルの動きが緩慢になってきた。僕の名前を呼ぶだけでほとんど抵抗しようとしない。
もしかして。
「シセル、気持ちいい?」
言いながらもう一度首を噛んだ。先程とは違う場所をゆっくりと。
「ん、」
シセルの吐息が答えだと思った。
僕は気持ちが高ぶり始めるのを感じた。楽しいだけだった行為に支配欲が混じって強気になる。
「じゃあこれはどう?」
僕はシセルのシャツを無理やり脱がすと、首から下に向かって痕を付けた。一つまた一つと下に進んでいくと小さな突起に触れた。瞬間、シセルが大きく動いた。
「動かないで」
「やめ、」
抵抗をやめていたシセルがまた抵抗し始めた。僕は強めにシセルの両腕を掴み、ベッドに押し付けると、シセルの肌蹴た胸に顔を近づけた。突起を優しく噛むと、堪えるように荒く息をし始めた。舌で舐めとり、また噛み付く。水色の瞳には涙が溜まり、今にも溢れそうだ。
それを見た瞬間、芽生えていた凶暴な気持ちが影を潜めた。
僕はシセルを起こし、そのまま抱きしめた。
「ごめん……」
シセルは何も言わない。
「僕、もう帰るね」
まだ頭の中はくらくらしているが、ここに居続けるわけにはいかないことだけはなんとなく分かった。
シセルに会いたいという理由だけで来るべきではなかった。
反省はここを出てからにしよう。
僕はシセルから離れようとした、が。
シセルに腕を掴まれた。離してもらおうとしたが、シセルの力は強い。
「嫌じゃない」
「え?」
「嫌じゃないから!」
シセルはやけくそのように大きな声を出す。その声が頭の中で響いて鳴り続ける。
シセルは暗闇でも分かるほど顔を赤くして僕を見ている。
しかし僕はそれどころではなくなった。先程ののシセルの大声が引き金となってどんどん具合が悪くなってくる。
「だから……」
シセルが僕の手を取った瞬間、僕は限界を迎えた。
すばやく立ち上がると来たときと同じか、それよりも早いスピードで走り去る。
自身の部屋目掛けて突き進み、ドアを開けて安心したところで僕の記憶は曖昧になった。
***
朝だ、しかも清々しい朝だ。
なぜか椅子に座って寝ていた僕は窓から差し込む光で目を覚ました。時計を見るといつもの起床時間とほぼ変わらない時間だった。連続寝坊記録は今日で打ち切りとなった。
「よかった……」
堕落的な生活に別れを告げようと立ち上がる。縮こまって椅子で寝ていたせいで身体中が痛い。しかしそれ以外に不調は感じない。晩餐会の途中から記憶がないことを除いて。
「昨日は……晩餐会でアリンダ様の隣に座ることになって……薬学のことで盛り上がって……それから……」
それから先が思い出せない。綺麗さっぱりと忘れている。
しかし、部屋の中で寝ていたところを見るに、恐らくそのまま部屋に戻ってきたのだろう。着替えをするまで起きてはいられなかったが、多分問題はないはずだ。
僕は大きくあくびをすると、今日こそは真っ当な生活をしようと背伸びをしながら支度を始めた。
ふわふわとした足取りで廊下を歩く。晩餐会はとても楽しかった。こんなに楽しいならシセルも来れたら良かったのにと思う。
「シセル……」
そういえばシセルは怪我で欠席していたんだった。自分の『花』のことを一時でも忘れるなんて僕は伴侶失格だ。
そう思うと、楽しかった気分は急降下して罪悪感が膨れ上がっていく。
ふわふわした頭でシセルのことを考える。
どうしようもなくシセルに会いたい。
僕は自分の部屋の方に歩いていた足をシセルの部屋の方へ向けた。
いてもたってもいられず、全速力で走り出す。走れば走るほど血液に炎を混ぜられたかのように熱が全身を駆け巡り始める。
息が上がる。それでも早く会いたくて急ぐ足を休めない。
ぼやける視界の中、シセルの部屋までたどり着く。ぐにゃぐにゃと歪むこの扉の向こうでシセルは寝ている。
「シセル!」
僕は大声でシセルの名前を呼ぶとドアを力任せに開け放った。
深夜の静まり返った廊下に大音量のドアを開ける音が響いて伝わる。
勿論、部屋の中で寝ていたのであろうシセルは飛び起き、臨戦態勢をとった。
僕は構わずシセルに飛びつく。
「は? リシュ!?」
「僕だよぉー」
「何しにきた……っていうか酒臭い!」
「臭くないよ。ほら!」
僕はシセルに抱きつくと、襟ぐりを大きく広げて自身の匂いを嗅がせた。
臭いだなんて失礼な。
シセルは焦ったように僕を引き離そうとするが、僕は意地でも離れなかった。
と、開けっ放しのドアからばたばたと慌てる人の足音が聞こえてきた。
「まずい!」
なにがまずいのか。
僕が首を傾げていると急にベッドの中に押し込まれた。息苦しい、と抗議しようとすると手の平で口を押さえられた。
「シセル様!? どうかしましたか!?」
シセルの部下の騎士団の人の声がする。僕は出て行って挨拶をしようとしたが更に強い力で押し込まれた。
「大丈夫だ、下がっていい。あ、ドアは閉めていってくれると助かる」
「は、はい……」
どこか腑に落ちないという声を出したシセルの部下は、戸惑いながらもドアを閉めて去っていった。足音が遠ざかっていく。
完全に足音が聞こえなくなって初めて、シセルは拘束の力を緩めてくれた。
訳も分からず動きを封じられて、息苦しい思いをした僕は、お返しとばかりにシセルをベッドの中に引き込んだ。少しの遠慮もない力で強引に組み敷く。
「ちょっ、リシュ、やめ……」
「今度は僕の番ね」
僕はシセルの首筋を一舐めすると噛み付いた。
すごく美味しそうに見えたからだ。
口を離すと自分の歯形が残っていて嬉しくなる。指でなぞると薄く滲んだ血が指に付いた。全身の血が沸きあがるような感覚が襲ってくる。
「いた、い」
「あ、ごめん、今度は優しくするね」
「今度はって、やめっ」
止めようとしてきた腕を掴み、手首に歯を立てる。痛くないように優しく、何回も。
今度は歯形が残らず、少し不満に感じる。しかし、シセルの緩く揺れる瞳を見て気が変わった。
「リシュ……」
シセルの動きが緩慢になってきた。僕の名前を呼ぶだけでほとんど抵抗しようとしない。
もしかして。
「シセル、気持ちいい?」
言いながらもう一度首を噛んだ。先程とは違う場所をゆっくりと。
「ん、」
シセルの吐息が答えだと思った。
僕は気持ちが高ぶり始めるのを感じた。楽しいだけだった行為に支配欲が混じって強気になる。
「じゃあこれはどう?」
僕はシセルのシャツを無理やり脱がすと、首から下に向かって痕を付けた。一つまた一つと下に進んでいくと小さな突起に触れた。瞬間、シセルが大きく動いた。
「動かないで」
「やめ、」
抵抗をやめていたシセルがまた抵抗し始めた。僕は強めにシセルの両腕を掴み、ベッドに押し付けると、シセルの肌蹴た胸に顔を近づけた。突起を優しく噛むと、堪えるように荒く息をし始めた。舌で舐めとり、また噛み付く。水色の瞳には涙が溜まり、今にも溢れそうだ。
それを見た瞬間、芽生えていた凶暴な気持ちが影を潜めた。
僕はシセルを起こし、そのまま抱きしめた。
「ごめん……」
シセルは何も言わない。
「僕、もう帰るね」
まだ頭の中はくらくらしているが、ここに居続けるわけにはいかないことだけはなんとなく分かった。
シセルに会いたいという理由だけで来るべきではなかった。
反省はここを出てからにしよう。
僕はシセルから離れようとした、が。
シセルに腕を掴まれた。離してもらおうとしたが、シセルの力は強い。
「嫌じゃない」
「え?」
「嫌じゃないから!」
シセルはやけくそのように大きな声を出す。その声が頭の中で響いて鳴り続ける。
シセルは暗闇でも分かるほど顔を赤くして僕を見ている。
しかし僕はそれどころではなくなった。先程ののシセルの大声が引き金となってどんどん具合が悪くなってくる。
「だから……」
シセルが僕の手を取った瞬間、僕は限界を迎えた。
すばやく立ち上がると来たときと同じか、それよりも早いスピードで走り去る。
自身の部屋目掛けて突き進み、ドアを開けて安心したところで僕の記憶は曖昧になった。
***
朝だ、しかも清々しい朝だ。
なぜか椅子に座って寝ていた僕は窓から差し込む光で目を覚ました。時計を見るといつもの起床時間とほぼ変わらない時間だった。連続寝坊記録は今日で打ち切りとなった。
「よかった……」
堕落的な生活に別れを告げようと立ち上がる。縮こまって椅子で寝ていたせいで身体中が痛い。しかしそれ以外に不調は感じない。晩餐会の途中から記憶がないことを除いて。
「昨日は……晩餐会でアリンダ様の隣に座ることになって……薬学のことで盛り上がって……それから……」
それから先が思い出せない。綺麗さっぱりと忘れている。
しかし、部屋の中で寝ていたところを見るに、恐らくそのまま部屋に戻ってきたのだろう。着替えをするまで起きてはいられなかったが、多分問題はないはずだ。
僕は大きくあくびをすると、今日こそは真っ当な生活をしようと背伸びをしながら支度を始めた。
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