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花を手折るまで後、3日【2】
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僕が何をしたんだと、恨みがましく、いるのかいないのか分からない神様に文句を言う。
案内された席に向かい、隣を見れば何故かアリンダ様が席に着いていた。こういう晩餐会の場合、普通はシセルが隣に座るものと思っていた。しかし、僕の予想は外れ、想像していた中で最悪の展開になっていた。
慌てて周囲を見渡すが、肝心のシセルの姿が見当たらない。
もしかしたらまだ怪我の具合が悪く、部屋で休んでいるのかもしれない。
「こんばんは……」
避けては通れない挨拶をして、僕も席に着く。四角く長いテーブルの真ん中にいるにも関わらず、なぜか隔離されたような気分になってくる。
アリンダ様は少しだけ僕の方を見ると、聞こえるか聞こえないかの小さな声で返事をした。
いつも元気で遠くからでも聞こえるような声を出している人とは思えない。昨日の事件がそれほどショックだったのだろうかと思うと、少し同情してしまう。
会話をするような雰囲気ではなく、とにかく間を持たせる目的で出された料理をもくもくと食べる。
お腹に余裕を持たせてくれたメイド長に再度感謝しながら豆の煮込み料理を味わう。
豆は比較的庶民が食べるもの、という雰囲気があるせいか、王宮、しかも公式の晩餐会で振舞われることは稀だったが、僕がこの料理を好きなことを料理長が知っていたので、おそらく配慮してくれたのだろう。
いつもと変わらない美味しい料理に感謝し、緊張も解れてきた頃、不意に隣から話しかけられた。
突然の出来事に小さく咽る。
「シセルは怪我で休んでいるわ。本当はここに座るはずだったのだけど、わたくしが無理を言って変えてもらったのよ」
僕の予想は当たっていた。しかしまたしてもアリンダ様の予想だにしない行動にかき乱されていた。
そこまでして、僕に言いたいことがあるのかと構える。
「今朝のことですが……深く感謝いたします」
「え」
思いがけない言葉に思わず間抜けな声を出す。
感謝? アリンダ様が? 僕に?
感謝される心当たりがなく混乱する。
「リシュ様は身を挺してわたくしを助けてくださいました。それにシセルのことも」
「あ、あぁ……」
「わたくしは強さの意味を履き違えておりました。本当に恥ずかしいです」
「はぁ……」
思い返せば確かに助けに入ったような気もする。無我夢中でそれどころではなかった僕はすっかり忘れていた。
ともあれ、頼りない人間だという宣言についての言及は免れたようでほっとする。
「アリンダ様にお怪我がなくてよかったです」
シセルの姉だということを抜きにしても、本当に無事で良かったと思う。
「ところで、リシュ様はなぜあの泥沼に植物の根が生えているとご存知でしたの?」
「あ、えーと、それは」
エステラ姉さんに散々バカにされた話題だ。話すのに少しためらいがある。
ただ嘘をつく気にもなれず、正直に口を開いた。
「その、薬学の勉強が好きなんです……」
「すばらしいですわ!」
またもや思いもよらない返答に僕は俯きがちに喋っていた顔を上げた。
「分かってもらえますか!?」
「もちろんですわ。非常事態下における迅速な判断、そして適切な処置。リシュ様はこれほどすばらしい学問を究めていらっしゃったのですね!」
全肯定されて思わず声が大きくなる。と、少し離れた席で伯爵、もといシセルとアリンダ様のお父上と談笑していた父上が咳払いをした。
僕は声を落とすと、アリンダ様に薬学の素晴らしさを語った。
僕のこの趣味を理解してくれる人は少ない。シセルでさえ、僕が語り始めるとまたか、と嫌な顔をする。
アリンダ様が興味を示してくれたことによって僕の中でのアリンダ様の株が急上昇した。我ながら現金だとは思うけれど。
アリンダ様はいくら語っても嫌な顔一つせず、興味深そうに相槌をうってくれた。
こんなに楽しい時間は久しぶりだ。
会話が弾むとお酒が進むのは仕方がないことで。
僕はあまり強い方ではない自覚があったが、アリンダ様が全く酔っていない姿を見ていると、自分も強くなったような気がしてきた。
…………だから、やめ際を間違えてしまった。
僕が何をしたんだと、恨みがましく、いるのかいないのか分からない神様に文句を言う。
案内された席に向かい、隣を見れば何故かアリンダ様が席に着いていた。こういう晩餐会の場合、普通はシセルが隣に座るものと思っていた。しかし、僕の予想は外れ、想像していた中で最悪の展開になっていた。
慌てて周囲を見渡すが、肝心のシセルの姿が見当たらない。
もしかしたらまだ怪我の具合が悪く、部屋で休んでいるのかもしれない。
「こんばんは……」
避けては通れない挨拶をして、僕も席に着く。四角く長いテーブルの真ん中にいるにも関わらず、なぜか隔離されたような気分になってくる。
アリンダ様は少しだけ僕の方を見ると、聞こえるか聞こえないかの小さな声で返事をした。
いつも元気で遠くからでも聞こえるような声を出している人とは思えない。昨日の事件がそれほどショックだったのだろうかと思うと、少し同情してしまう。
会話をするような雰囲気ではなく、とにかく間を持たせる目的で出された料理をもくもくと食べる。
お腹に余裕を持たせてくれたメイド長に再度感謝しながら豆の煮込み料理を味わう。
豆は比較的庶民が食べるもの、という雰囲気があるせいか、王宮、しかも公式の晩餐会で振舞われることは稀だったが、僕がこの料理を好きなことを料理長が知っていたので、おそらく配慮してくれたのだろう。
いつもと変わらない美味しい料理に感謝し、緊張も解れてきた頃、不意に隣から話しかけられた。
突然の出来事に小さく咽る。
「シセルは怪我で休んでいるわ。本当はここに座るはずだったのだけど、わたくしが無理を言って変えてもらったのよ」
僕の予想は当たっていた。しかしまたしてもアリンダ様の予想だにしない行動にかき乱されていた。
そこまでして、僕に言いたいことがあるのかと構える。
「今朝のことですが……深く感謝いたします」
「え」
思いがけない言葉に思わず間抜けな声を出す。
感謝? アリンダ様が? 僕に?
感謝される心当たりがなく混乱する。
「リシュ様は身を挺してわたくしを助けてくださいました。それにシセルのことも」
「あ、あぁ……」
「わたくしは強さの意味を履き違えておりました。本当に恥ずかしいです」
「はぁ……」
思い返せば確かに助けに入ったような気もする。無我夢中でそれどころではなかった僕はすっかり忘れていた。
ともあれ、頼りない人間だという宣言についての言及は免れたようでほっとする。
「アリンダ様にお怪我がなくてよかったです」
シセルの姉だということを抜きにしても、本当に無事で良かったと思う。
「ところで、リシュ様はなぜあの泥沼に植物の根が生えているとご存知でしたの?」
「あ、えーと、それは」
エステラ姉さんに散々バカにされた話題だ。話すのに少しためらいがある。
ただ嘘をつく気にもなれず、正直に口を開いた。
「その、薬学の勉強が好きなんです……」
「すばらしいですわ!」
またもや思いもよらない返答に僕は俯きがちに喋っていた顔を上げた。
「分かってもらえますか!?」
「もちろんですわ。非常事態下における迅速な判断、そして適切な処置。リシュ様はこれほどすばらしい学問を究めていらっしゃったのですね!」
全肯定されて思わず声が大きくなる。と、少し離れた席で伯爵、もといシセルとアリンダ様のお父上と談笑していた父上が咳払いをした。
僕は声を落とすと、アリンダ様に薬学の素晴らしさを語った。
僕のこの趣味を理解してくれる人は少ない。シセルでさえ、僕が語り始めるとまたか、と嫌な顔をする。
アリンダ様が興味を示してくれたことによって僕の中でのアリンダ様の株が急上昇した。我ながら現金だとは思うけれど。
アリンダ様はいくら語っても嫌な顔一つせず、興味深そうに相槌をうってくれた。
こんなに楽しい時間は久しぶりだ。
会話が弾むとお酒が進むのは仕方がないことで。
僕はあまり強い方ではない自覚があったが、アリンダ様が全く酔っていない姿を見ていると、自分も強くなったような気がしてきた。
…………だから、やめ際を間違えてしまった。
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