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第10章 神の使者、魔界に降臨

第87の宴 ミミの涙

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「モーリス、お前も魔王を・・・!?」
「そうだ。俺が次期魔王になる!!
まあ、そんなことより・・長旅で疲れているだろう?
中に入れよ。」

俺達はモーリスに連れられ、集会場のような建物に入る。

「しかし、人間界にいたとはな・・・。
ずっと探してたんだぞ・・・!」
「済まない・・・。」
「お前、そろそろその口調止めたらどうだ?」
「え?」
「サミュエルさんの真似してるんだろ?
お前には似合わないぞ?」
「う、煩い!
妾は魔王になるのだぞ!」
「だから、魔王になるのは俺だ。
俺が魔王になったらソフィアを部下にしてやるよ!
もしくは・・・」

急に顔を赤くするモーリス。
はは~ん。
さてはこいつソフィアに惚れてるな?

「はぁ!?お前の部下になんてなるか!!
それに妾が必ず魔王になる!
何故ならば、妾にはこの旦那さまがいるんだからな!!」

ソフィアはハルトにくっつく!

「だ、旦那様!?その人間が・・・!?」
まるで世界の終わりのような顔をするモーリス!
凄いウケる!!
そうだ、運転の憂さ晴らしをこいつでしようかな・・・。

「そ、そいつは人間だろ!?
ソフィアは魔族なんだから魔族と結婚しなきゃ駄目だろ!!
子供だって生まれないぞ!!」
「別に構わない!
妾は旦那様と入れればそれでいい!!
子供なんていらない!!」

「ちょっと待ちなさいよ!!
ご主人様は私の夫なのよ!!
貴方はそこの弱そうなのと付き合えばいいじゃない!!」
「そうだよ!!
私の夫よりそっちの弱そうな魔族の方がお似合いだよ!!」
「弱い者同士くっつけばいいですぅ!!
ミーナの旦那を取らないでですぅ!!」
「そうにゃん!!
みゃーのタニャトスは誰にも渡さにゃいにゃん!!」

「はぁぁぁ!?
なんで私がモーリスと付き合わなきゃいけないのよ!!
これはただの幼なじみでしょ!!
冗談は止して頂戴!!」

もうやめろ・・・。
色々ショックを受けて、モーリスのHPはもう0に近いぞ・・・。
面白いけど・・・。

「うう・・・てめえ!!
何者だ!!こんなに美女沢山連れやがって!!」

「我は神の使者・タナトス・・・
この魔界の抗争に終焉を与える者だ・・・。」
「タナトス・・・!
カッコいい鎧着やがって!!
勝負だ!!
俺が勝ったらソフィアは渡して貰うぞ!!」

モーリスはハルトに剣を向ける。

「その前に・・・何故貴様は魔王になるのだ・・・?」
「なんだと!?」
「理由によっては今すぐ貴様を冥界に誘わなければならない・・・。」
「決まってんだろ!!
サミュエルさんを殺したあの二人を殺して、俺がサミュエルさんの跡を継いで昔の魔界を取り戻すんだよ!!」

「モーリス・・・!!」

「俺はサミュエルさんを誰よりも尊敬してたんだ・・・!
なのに、あの野郎ども・・・!!」
「そうか・・・じゃあ、我が戦う理由はない。」
「はあ?お前になくても俺にはあるんだよ!!」
「やめないか!!
お前じゃ、タナトスには勝てないぞ!!」
「なんだと・・・?」 
「ソフィアの言うことは聞いておいたほうがいいぞ・・・?
貴様如きが我に勝てるわけないだろう・・・?
魔王決定戦に出たいならば、我に歯向かうのはよした方が身の為だ・・・。」

その時、ミミがモーリスに話しかけた。

「モーリスお兄ちゃん!」
「あ?なんだ?このウサ公は?」
「ウサ公とはなんだ!
その子はミミという名前がある!」
「ああ?なんだ?このライオンは?」
「そいつはレオン。元獣王だ。」
「元獣王だと・・・!?」
「今はそのタナトスが獣王だ。
俺はタナトスに負けた・・・。
戦った経験者として言わせて貰う・・・

絶対に手を出すな・・・。

お前が手を出していい相手ではない。
手を出したら、お前の腕と足はなくなると思え・・・。
俺は両手、両足切断された・・・。」
「はっ!何いってんだ!
手も足もあるじゃねえか!」
「これはタナトスに生やしてもらったんだ。
タナトスのスキルが無ければ俺は今頃、生きる屍だ・・・。」
「スキルで・・・?
お、お前・・・無くなった手が生やせるのか・・・!?」
「勿論、神の使者に不可能は無い・・・。」
それを聞いてモーリスは部下に何かを指示した!

「もし、それが本当なら・・・
頼む!
俺の妹の手を生やしてくれ!!」
さっきとは打って変わって土下座をするモーリス。

「は?」

「待って・・・妹って・・・メリッサか・・・!?」

「・・・ああ。
ヘルライザーの部下にやられた・・・。
傷は回復させたが・・・切られた腕は・・・」

そのとき、集会場にミミ位の女の子が入ってくる・・・。

「何・・・。」
「メリッサ!
お前の腕・・・治るかもしれないぞ!」

「は・・・?切断された腕が治るわけないじゃない・・・。
気休めはやめて・・・。」

腕を切られて自暴自棄になっているのか、メリッサの表情はとても暗い。

「気休めじゃないよ?
お兄ちゃんはホントにメリッサの腕を治せるよ!」
「誰よ!あんた!嘘つき!」
メリッサは近くに寄ってきたミミは突き飛ばす。
「きゃっ!」
「ミミ!」
レオンが飛ばされたミミを受け止める!

「同情ならお断りよ!!
どうせ、腕のない私をみて蔑んでるんでしょ!」
「・・・そんなことしないよ。
お兄ちゃんは治せるんだもん!
お兄ちゃんは神の使者だもん!」
「神の使者・・・何よそれ!
本当に神の使者なら治してみなさいよ!!」

「いいだろう・・・。」

「へっ・・・?」
「但し、条件がある・・・。」
「条件・・・?」
「・・・治ったらミミに謝れ。」

「!!」

「ミミは同情で気休めを言う奴ではない。
本気でお前のことを心配してるんだ。
そんなミミをお前は嘘つき呼ばわりして突き飛ばした・・・。
謝るのは当たり前だろ・・・?」
「お兄ちゃん!
私のことはいいからメリッサの腕を・・・!」

「ミミ!」

ビクッとするミミ。
「これはケジメだ。
悪いことをしたら謝る。
こんな当たり前のことが出来ない奴の腕を生やす必要ない・・・。
一生不貞腐れて生きればいい。」
「・・・謝るわよ・・・。
本当に腕が生えるなら謝るわよ!!
でも、そんな奇跡なんて起こるわけ・・・」

《冥界からの復活!!》
ハルトがスキルを発動させるとメリッサの切れた腕が光り出し、どんどん腕が生え始める!!

『!!!!』
周りの魔族も驚愕する!!
「嘘・・・!」
「め!メリッサの腕が・・・!!」
「わ、私の腕が・・・!
うう・・・うわァァァァァァん!!」

腕が生えて号泣するメリッサ!

「良かった・・・! 
メリッサの腕・・・治った!!
良かったよ~うわァァァァん!!」

メリッサの号泣する姿を見てもらい泣きするミミ。

「言ったであろう・・・。
我に不可能はないと・・・。」
「ありがとう・・・!
お陰で妹は・・・!
なんてお礼を言ったらいいか・・・!」

涙を流し、俺にお礼を言うモーリス。
さっきの態度と180度変わったな。

「我は神の使者・・・
困っている者に救いの手を差し伸べるのは当たり前のことだ・・・。」
「!!!!
こんな奴がこの世にいるなんて・・・!
あんたみたいなのが王であったら世界は平和になるのかな・・・。」
「ふん、我は王などと低い身分には興味はない。
我は神の使者として我の使命を果たすだけだ。」

『超かっこいい・・・♡』

ハルトガールズが目をハートにさせる。

そんなやり取りをしているとメリッサがミミに向かって歩き出す。
「さっきは・・・ごめんなさい!!
貴女は嘘つきじゃなかった・・・!

私の為に泣いてくれて・・・ありがとう!!」

ミミはメリッサに謝罪されると、メリッサを抱きしめた!
「うわァァァん!良かったね!!
腕治って!!私も嬉しいよ!!」
「あり・・・がとう・・・!!
うわァァァァん!!」

それを見ていた周りの者も目頭が熱くなっていた・・・。

「泣いてるところ悪いが、メリッサ、お前は誰に腕を切られたんだ?」

『え!?』

「出たァァァァァ!!
なんとなく来る予感はしたけど、やっぱりここでムードクラッシャー!!」
「ご主人様!!流石にここは空気読もうよ!!」
「酷いですぅ!!
今聞くことじゃないですぅ!!鬼畜ですぅ!!」
「あんた、この感動のシーンでよく涙一つ流さないで空気壊せるわね!!」
「酷いにゃん!!
正にタニャトスこそが大魔王にゃん!!」
「俺ですら涙が溢れそうになったのに・・・。」

くっ!人を血も涙もない極悪人扱いしやがって!!

「お前らなぁ!
メリッサの腕を切ったやつに報復したいだろう!?
こんな幼い子の未来を壊そうとしたんだぞ?
・・・勿論・・・同じ目にあわさないとなぁぁぁぁぁ!!!」

ハルトから邪悪なオーラが溢れ出る・・・!
「あ、この人マジでヤバい人だ・・・!
手を出しちゃいけないとはこう言うことか・・・!?」
「・・・少し違うが・・・まあ、その部下は永遠の地獄を確定されたな・・・。」
「ヒィィィィィィィィ!」

この人にマジで喧嘩を売らなくて良かった・・・と心の底から思うモーリスであった・・・。

「そうだ!メリッサのお兄ちゃん!」
「ん?なんだ・・・?」
「私、メリッサのお兄ちゃんのことも応援するね!
メリッサのお兄ちゃんもソフィアお姉ちゃんと同じだったから、どっちが勝っても魔界は平和になるね!」

「!!!
お前はさっきそれを言おうとしたのか・・・?」
「うん!」
「そうか・・・ありがとう・・・。
それと、妹の為に泣いてくれてありがとな。」

モーリスはミミの頭を優しく撫でる。

「うん!」
撫でられたミミは笑顔で返事を返す。

「タナトス・・・先程は本当に済まなかった・・・。
だけど、ソフィアのことはまだ諦めてないからな!
俺が魔王になってソフィアを嫁にもらう!!」

「!!!
な、何言ってんのよ!!
あ、あんたのことなんて何とも思ってないんだからね!!」
「そ、そんな!!」
膝から崩れ落ちるモーリス。

これは脈アリなのか・・・?
だってソフィアから中途半端なツンデレが・・・。


うーん・・・ソフィアを手放すのは寂しいが・・・
その時は仕方ないのか・・・。
もしかしたら、そのほうがソフィアも幸せになれるのかもな・・・。


「いいだろう・・・!
奪えるものなら奪ってみろ!!
我は逃げも隠れもしない!!
我からソフィアを奪ってみよ!!」
「ちょ、ちょっと・・・!」
「俺は負けねぇ!!」

ハルトに対抗心むき出しのモーリス。


果たして、結末は・・・?





続く・・・。
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