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第12話 初めての依頼1

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「本当に20万でいいの?」
「十分、それでも高いくらいなんだけどね」
「そんなことないわ。私も仕事で霊能力者と会った事あるけど、インチキ臭いし、しかも値段も最低でも100万はするって言ってたから、安いくらいよ」


 マジかよ。ぼったくりもいるのか。
とりあえず、値下げ交渉を行い何とか20万に落ち着いた。
もちろん、成功報酬だ。
いきなり分厚い封筒を渡された時は焦ったね。

「とりあえず、その友達に会ってみたいな。どうすれば会える?」
「多分場所わかります。明菜って、放課後になるといつもどこかに行ってるんです。気になって後を付けたら以前行った廃墟でした」
「もう利奈ってば、霊感あるんだからそういう所は行かない方がいいっていつも言ってるのに」

 俺と利奈の話を聞いている栞は紅茶を飲みながら可愛らしく怒っていた。
というかスマホを見ている。何をしているのだろうか。

「ふーん。とりあえず場所教えて。どこかな」

 スマホを立ち上げ、地図アプリを表示する。
中々便利なアプリだ。これは向こうの世界でも欲しかった。

「案内します!」
「いや、危険かもしれないでしょ。場所だけ教えてくれれば大丈夫さ」

 いや間違いなく危険はない。
あの程度の霊が10000体居ようと1秒以内に消滅させる自信はある。
だが、それは建物ごと破壊していいなら、という話だ。
流石にそういう訳にも行かないので、中に入り地道にサーチ&デストロイするしかないと思う。
それよりちゃんと霊は見えるだろうか。あの時見えたから平気だといいんだが……


「なら、利奈の変わりに私が同行するわ。こう見えて利奈より霊感あるから自分の身は自分で守れるのよ?」
「お姉ちゃん!?」
「大丈夫よ、昨日怖い目にあったんだから、安心して家で待ってて」

 そういうと栞は利奈を優しく抱きしめた。

「ね、分かった?」
「でも、私の友達だから私が――」
「ね、分かった?」
「い、いや。礼土さんとは私が――」
「ね、分かった?」
「いや、でもお姉ちゃん。外は――」
「ね、分かった?」
「……はい」



 本当に優しく抱きしめているよな?
妙な念を感じる。
はッ、これがハント×ハントのオーラって奴か!?


 紆余曲折あったが、栞が同行する事になった。
いや、必要ないって言ったんだが、妙にしつこい。


 山城家を出ると外はもうすぐ夜になりそうだった。
時間は20時。十分遅い時間だ。
とはいえ、夏場のために日が落ちても夜は比較的暖かい。
以前いた世界は年中寒かったので厚着をしていた。
だから熱い気温っていうのはそれだけで新鮮で、今来ている半袖という服も同様だ。

 この世界は夜でも外出する人はそれなりに多く。
理由は一目瞭然。
夜でも明るいのだ。
街灯もそうだが、何よりこの辺りのビルから漏れる明かりや車の光。
そして未だ営業している店の明かりなど、いたるところに明かりがある。
これだけ明るければ外出も比較的しやすいだろう。


「ねぇ礼土さん」
「なんだい?」

 その廃墟へ行く道すがら、栞と話しているのだが、
何故か妙に距離が近い。
っていうか、歩き難いわ!!
少しずつ右にそれればまるで磁石のようにぴったりと付いてくる。
お陰でこれ以上は道路があるため右にいけず、しかし左は抑えられているという状況になってしまった。

「利奈とどういう関係なの?」
「利奈と?」

 どういう意味だ?

「どうって言われてもね、一度ストーカーを追い払うのに彼氏役になったってだけだから」
「え? 利奈ってストーカーの被害にあってたの?」
「ああ。確か同級生に、って言ってたかな。金髪の子なんだけど、付き纏われているみたいだった」

 あの少年はちゃんと改心しただろうか。
……無理かな。

「そう。ちゃんと私に相談してくれればいいのに」
「心配掛けたくなかったんだろう。でも色々疲れてるだろうから、優しくしてやってくれ」


 そう、間違っても抱きしめながら絞め落とそうとしないで欲しい。


「東京には最近来たの?」
「ああ、ずっと北海道の田舎にいてね、ここには最近来たんだ」
「そうなんだ。テレビとか見る?」
「いや、全然だね。実家にはテレビなくて……」

 この世界に来てから欲しいものは多くある。
だが、如何せん家がないからなぁ。


「今どこに住んでるの?」
「ホテルに泊まってるんだ」
「ホテル!? それかなり割高じゃない?」
「まあね。本当はマンションとかアパートとか借りたいけど保証人がいるみたいでさ」
「ご両親は?」
「もう……ね」
「そっか……ねぇだったらさ、提案が――」


 栞がそういいかけたときだ。
目線がこちらに向いていたために気付かなかったんだろう。
誰かと肩がぶつかってしまったようだ。

「ってぇな」
「あッ。ごめんなさい」
「あ? ごめんさいじゃねぇよ。見ろ、飲みもん零しちまっただろうが」

 二人組みの男だ。
一人は髪の短い茶髪。金色のネックレスをしており、背は小さいがガタイはよい。
もう一人は短髪の坊主頭でデカイサングラスをかけている。こちらは、背は高いがあまり筋肉質ではないようだ。
そして、栞はこの小さい方の男とぶつかってしまい、彼が持っている飲み物を零してしまったようだ。よく見ると服に染みが出来ている。

「どうしてくれんだ? あぁ?」
「これクリーニング代だ。十分だろう」

 俺は間に入り、財布から諭吉を一人生贄にした。
多分一万もあれば十分足りるだろう。

「は? 何言ってんだ。この服いくらしたと思って――」
「十分だろう?」
「――ッ」

 彼の肩にゆっくりと手を置く。
この手のやからの対処は実に簡単だ。
今回の場合だとこのネックレスをしているチビの方をターゲットにする。
歩き方や視線なんかを考えると間違いなく戦える方の人間だ。
であれば、分かるだろう。



 俺との力の差って奴が。




「あぁ? てめぇ何調子に乗ってんだ。カズヤさんの服はブランド物で――」
「おい」
「外人だからって舐めてんじゃ――」
「おいッ! やめろ」

 茶髪の方から唸るような声でもう一人の方を制止させた。
それに驚いたもう一人の男は口を空けて驚愕している。

「どうしたんすか、カズヤさん」
「やめろ。どうせスポドリだ。ほっときゃ乾く」
「いいんすか? いつものカズヤさんだったら――」
「いい。悪かったな。ちょっとイライラしててよ」
「いえ。それでは」
「ああ」


 そうして驚いている栞の肩を抱きながらそのまま道を進んだ。





 暗い路地を二人の男が急ぎ足で歩いている。
近くを通る通行人は二人を見ると目を逸らし、道を譲ったり、別の道を行く者もいる。
それほどまでに近寄り難い雰囲気を放っていた。
 この後の予定に間に合わせるため、少し急ぎ足になっている二人だが、
どうしても先ほどのことが気になり、シンジはカズヤに声を掛けた。

「どうしたんすか? いつもならすぐ裏路地連れて行くのに」
「馬鹿野郎。――もう少し相手をみろ、あれ俺よりつえぇよ」
「は? マジっすか? だってカズヤさん総合やってますよね?」
「肩を触られるまで、あいつが動くのが分からなかった。ありゃバケモンだ。シンジも気をつけろ。ありゃただの外人じゃねぇよ」

 そういわれ、シンジはあの二人の方にもう一度視線を投げた。
だが、既にその姿は視界から消えている。

「とりあえず、急ぐぞ。レンの奴が呼んでんだろ?」
「はい」


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