黒王子の溺愛

如月 そら

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思い出の髪飾り

思い出の髪飾り②

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そういえば、美桜は柾樹の寝室に入るのは初めてなのだった。
柾樹は美桜をベットに降ろし、冷えないようにバスローブを着せ掛けてくれた。
(じろじろ見るのは失礼だわ)
そうは思ったものの、好きな人の部屋なのである。

部屋の中は無駄なものが何一つなくシンプルであり、モノトーンで統一してあるのが柾樹らしかった。
その時、棚のところに置いてある綺麗な造り物の花が美桜の目に止まる。モノトーンの部屋の中でその花は存在感を放っていた。

「柾樹さん、あれ……」
「ん? ああ……」
柾樹は美桜の目線を追って、棚に近づく。美桜はおぼろげな記憶を辿る。見覚えがあるような気がするのだ。
子供の頃、美桜が池の中に落としたあの髪飾り……。

「君のだ」

さらりと言った柾樹に美桜は動きが止まってしまう。
その髪飾りから、目が離せなかった。

柾樹はその髪飾りを棚から取って美桜に渡す。
そして美桜の横に座った。

髪飾りを柾樹から受け取った美桜は呆然と手元の髪飾りを見つめる。
それはとても綺麗な状態で、大事にしてもらっていたことが分かるからだ。

あの出来事は、ずっと夢なのだと美桜は思っていた。

あれが現実にあったことだったとは。
なぜ、これがここにあるのだろうか……。

「あの時、すぐに取ってやれなくて悪かったな。」
「どうして……ここに?」
そんなの理由はたった一つなのに。

「君が帰ってから大変に怒られたよ。理由を話して、おじい様に池の水を抜いてもらった」

そう、あのホテルは確かに黒澤家の持ち物だったのだ。

「あったんですね」
「ああ。綺麗にして持っていた。いつか、渡したいと思っていたよ」

隣に座っている柾樹はとびきり優しい顔で美桜を見つめていた。

手の平の中の花を見て美桜は、とても幸せな気持ちになる。

まさか自分の手元に戻ってくるとは思わなかったのだ。
夢かと思っていた。
あの時の男の子は美桜の曖昧な記憶が見せた夢なのだと。

それが、大好きな柾樹だったなんて。
しかも柾樹は、それを大事に大事に今まで持っていてくれていたのである。

そんなことは、美桜には思いもよらなくて。



その時、部屋に柾樹の低い声が響いた。

「散々君に無礼なことをしてきた。本当に申し訳ない。……婚約は解消しよう」

「なん、ですって……?」
その声に美桜は耳を疑い、顔を上げた。

「お父様のことはきちんとする。だから安心してくれ」
柾樹は目を伏せて、神妙な顔をしていた。

美桜が柾樹を見つめても、目も合わせてくれない。

──気持ちが通じた、と思ったのに……。

美桜はきゅっと唇を噛んで、その後口を開く。

「私と結婚するの、本当はイヤなんですね。だからあんなことを……」
美桜の泣きそうな震える声。

柾樹は目を見開いた。
「待ってくれ。君は渋々、政略結婚に承諾したんだろう」
「え? 違います」
きょとんとして、美桜は返す。

「最初に父からお話があった時は、断ろうと思っていました。けれど、それがあなただと聞いたから私は了承したんです。あのパーティの時、私はあなたに一目惚れしたって思ってました。だから……」

言葉を繋ごうとした美桜の手を柾樹が握る。
「俺は、今まで君を忘れたことはなかった。お父様にあんなことを言われて、他の奴に取られるくらいならと名乗りを上げたんだ。あのパーティーの時、一目惚れした? と思っていた……とは?」

「あの……それは確かにあの時一目惚れなのは間違いないんですけど、正確には……あの……」

「美桜?」
美桜は赤くなって、涙ぐんでいる。

「初恋だったんです。あの時、池に入って、髪飾りを探してくれた男の子が……」
「それは……?」
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