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黒澤颯樹
黒澤颯樹⑤
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「二人分も三人分も変わりませんもの」
「うっわー、じゃいい肉買おう。俺奢るから」
喜ぶ颯樹を見て、美桜も笑顔になった。
2人で買い物をして、マンションに帰る。
いつも、笑顔でにこにこしていて明るい颯樹と一緒に過ごして、少しづつ気持ちが晴れてきた美桜だ。
買い物した荷物を持って部屋まで入れてくれた颯樹は、玄関で自分の荷物を持った。
「俺、このまま会社に行くけど、大丈夫?」
──時間のない中、付き合ってくれたんだ。
そう思って美桜は、頭を下げる。
「ありがとうございました。大丈夫です。えっと、シチュー……どうしますか?」
「明日、今日くらいの時間に寄ります。柾兄によろしく言っといて」
「はい。行ってらっしゃいませ」
颯樹は一瞬、目を見開く。
くすっと笑って、
「はい。行ってきます」と笑顔になった。
『柾兄? おれおれ!』
柾樹はふーっと聞こえるようにため息をつく。
「なんだその詐欺みたいな電話は」
『美桜ちゃん! むちゃくちゃ可愛いじゃん! だから実家に来いって言っていたわけ?』
弟の颯樹のはしゃいだような声に、つい眉をひそめてしまう柾樹である。
「マンションに行ったのか?」
『今までも行っていたでしょ』
それは確かにその通りだ。
会社に近いし、身内の気軽さでたまに仕事のことで無理を頼んでしまうことがあるから、だったらたまに部屋を借りるから! と颯樹にねだられたときは、ラブホ替わりにしないことを条件に鍵を渡した。
それについても、近日中にはきちんとさせないといけない。
『お姫様みたいだし、すごく可愛いし、献身的だよねー。いいなー。お見合いでもあんなお嫁さんがいい』
エプロンが似合ってさーとか、電話の向こうで大絶賛である。
「言っておくが、俺のだ」
イライラする。
綺麗? 可愛い? そんなことは分かっている。経済界の華とまで呼ばれている人なのだ。
誰もが憧れて、誰もがきっと欲しいと思う。
それでも美桜は自分のものだ。
自分の感情が冷静でいられない理由も分かっている。
颯樹と美桜が自分のいない所で顔を合わせてしまったことだ。
怜悧な印象が強すぎて、人からは敬遠されることの多い柾樹と違って、華やかな笑顔の持ち主で底なしに明るい颯樹は誰にでも好かれる。
『俺の……ねえ。お美味しいオムレツ頂いたよ。一緒に買い物も行ってきた。あの辺のお店とか全然知らないんだって』
咎められている訳ではない。それは分かっている。
けれども、後ろめたいような気持ちがするのは何なのだろうか。
一緒に買い物? そんな夫婦みたいなことを、なぜ颯樹がしているのだ⁉︎
「美桜の面倒を見てくれて感謝するよ」
はらわたが煮えくり返りそうでも、そう言って笑って余裕を見せることしか出来ない。
『大事にしなよ』
一体何なのだ昨日から。倉田にしても、颯樹にしても! 大事になんて思ってる。
『柾兄、大事だなーって思っているだけじゃダメだよ』
「大事になんてしている。何もしなくていいと言っているし、無理はするなと散々言ってるんだ」
『はぁ!? 美桜ちゃんにそんなこと言ってんの?』
はー……と深いため息が受話器から漏れてきて、柾樹は「切るぞ」と電話を切ろうとした。
『待って! 待って!!』
「なんだ?」
『今日はまっすぐ帰ってあげてよ。美桜ちゃん、柾兄のために朝食とか準備してたんじゃないの? 今日もお昼過ぎから煮込み料理作ってるよ。あんなに尽くしてくれる人、いないよ?』
「忙しい。切る」
柾樹は通話を完了させた。
美桜は接するもの接するものを魅了しないと気が済まないのか。
こんなに落ち着かない気持ちになったことは、柾樹はなかったのだ。
「うっわー、じゃいい肉買おう。俺奢るから」
喜ぶ颯樹を見て、美桜も笑顔になった。
2人で買い物をして、マンションに帰る。
いつも、笑顔でにこにこしていて明るい颯樹と一緒に過ごして、少しづつ気持ちが晴れてきた美桜だ。
買い物した荷物を持って部屋まで入れてくれた颯樹は、玄関で自分の荷物を持った。
「俺、このまま会社に行くけど、大丈夫?」
──時間のない中、付き合ってくれたんだ。
そう思って美桜は、頭を下げる。
「ありがとうございました。大丈夫です。えっと、シチュー……どうしますか?」
「明日、今日くらいの時間に寄ります。柾兄によろしく言っといて」
「はい。行ってらっしゃいませ」
颯樹は一瞬、目を見開く。
くすっと笑って、
「はい。行ってきます」と笑顔になった。
『柾兄? おれおれ!』
柾樹はふーっと聞こえるようにため息をつく。
「なんだその詐欺みたいな電話は」
『美桜ちゃん! むちゃくちゃ可愛いじゃん! だから実家に来いって言っていたわけ?』
弟の颯樹のはしゃいだような声に、つい眉をひそめてしまう柾樹である。
「マンションに行ったのか?」
『今までも行っていたでしょ』
それは確かにその通りだ。
会社に近いし、身内の気軽さでたまに仕事のことで無理を頼んでしまうことがあるから、だったらたまに部屋を借りるから! と颯樹にねだられたときは、ラブホ替わりにしないことを条件に鍵を渡した。
それについても、近日中にはきちんとさせないといけない。
『お姫様みたいだし、すごく可愛いし、献身的だよねー。いいなー。お見合いでもあんなお嫁さんがいい』
エプロンが似合ってさーとか、電話の向こうで大絶賛である。
「言っておくが、俺のだ」
イライラする。
綺麗? 可愛い? そんなことは分かっている。経済界の華とまで呼ばれている人なのだ。
誰もが憧れて、誰もがきっと欲しいと思う。
それでも美桜は自分のものだ。
自分の感情が冷静でいられない理由も分かっている。
颯樹と美桜が自分のいない所で顔を合わせてしまったことだ。
怜悧な印象が強すぎて、人からは敬遠されることの多い柾樹と違って、華やかな笑顔の持ち主で底なしに明るい颯樹は誰にでも好かれる。
『俺の……ねえ。お美味しいオムレツ頂いたよ。一緒に買い物も行ってきた。あの辺のお店とか全然知らないんだって』
咎められている訳ではない。それは分かっている。
けれども、後ろめたいような気持ちがするのは何なのだろうか。
一緒に買い物? そんな夫婦みたいなことを、なぜ颯樹がしているのだ⁉︎
「美桜の面倒を見てくれて感謝するよ」
はらわたが煮えくり返りそうでも、そう言って笑って余裕を見せることしか出来ない。
『大事にしなよ』
一体何なのだ昨日から。倉田にしても、颯樹にしても! 大事になんて思ってる。
『柾兄、大事だなーって思っているだけじゃダメだよ』
「大事になんてしている。何もしなくていいと言っているし、無理はするなと散々言ってるんだ」
『はぁ!? 美桜ちゃんにそんなこと言ってんの?』
はー……と深いため息が受話器から漏れてきて、柾樹は「切るぞ」と電話を切ろうとした。
『待って! 待って!!』
「なんだ?」
『今日はまっすぐ帰ってあげてよ。美桜ちゃん、柾兄のために朝食とか準備してたんじゃないの? 今日もお昼過ぎから煮込み料理作ってるよ。あんなに尽くしてくれる人、いないよ?』
「忙しい。切る」
柾樹は通話を完了させた。
美桜は接するもの接するものを魅了しないと気が済まないのか。
こんなに落ち着かない気持ちになったことは、柾樹はなかったのだ。
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