黒王子の溺愛

如月 そら

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黒澤颯樹

黒澤颯樹③

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すうすうと寝込んでいる彼女は、エプロンをつけたままで、艶やかな長い髪が、さらりと身体にかかっている可愛らしい人だ。

「白雪姫みたいだな」

色白の透けるような肌と、柔らかそうでピンク色の頬。閉じている目元のまつ毛は長く、お人形さんのようだ。
手足はほっそりとしていて、けれど多分スタイルは良さそう。

颯樹はその姿を見て、笑みが浮かぶ。
「かーわいい。白雪姫、君はどこの誰?」

そのあまりに可愛らしい寝姿を堪能しているうち、自分もソファで肘をついて、寝てしまう颯樹だ。

「ん……」
──やだ……私、寝ちゃって……。

ふと、目が覚めて、足元に絡まる男の人を見つけて、驚く美桜である。

「んー、ふわー……ヤバ、俺まで寝ちゃった。おはよ」
大きく伸びをしたその男性は、にっこり笑って美桜に挨拶する。

柾樹よりも若くて、パーカーにラフなジャケット姿の人だ。
顔立ちは整っているが、愛嬌が勝っている感じの人。

しかし、一体どこから湧いてきたのだろうか。
このマンションはセレブも多く、セキュリティという意味ではかなり高いはずで、誰でも気軽に入ってこれるものではない。
ましてや、部屋の中へなど。

「お、はようございます……」
挨拶を返すことしか出来ない美桜だ。
──誰……?

「君、誰?」
にこにことしながら、彼に先に聞かれてしまった。

「あ……藤堂美桜です。」
「美桜ちゃん! 可愛い名前! 俺はね、黒澤颯樹くろさわたつき

「颯樹……さん? 柾樹さんとは?」
「柾樹は、俺のお兄ちゃん。俺は弟だよ。君は? どうしてこんなところで寝てるの?」

弟ならば、ここにいる権利は、充分にある人だろう。
むしろ彼からすれば、美桜こそ、どこの誰なんだと思うかもしれない。

「あ、柾樹さんの……婚約者、なんですけど……。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
そう言って、美桜はぺこりと颯樹に向かって頭を下げた。

美桜との婚約が嫌すぎて、家族にも婚約したことを言っていないのだろうか……そう思うと、美桜はさらに落ち込みそうになる。

「あー、その件だったのかあ……ごめんね。兄さんから数日前に連絡はもらってたんだけど、仕事が立て込んでいて俺が全然出られなくて。今日もシャワー借りに来たんだよね」

そうして颯樹は鼻をくんくんさせた。

「あー、コーヒーの香りする。柾兄まさにい、朝は食べないんじゃないの?」

「あ、はいっ!」
「でしょー? あの人、朝は壊滅的に弱いからなあ」

あははー、と颯樹は笑っていた。
家族には笑い事のようだ。

「私、知らなくて……」
「ん? 婚約者でしょ? あー、お見合いかな? そうだよなあ……。婚約なんて急な話だし。柾兄、最近別れたって言ってたからなー。それからは、女はいないと思っていたからねー」

──そうなんだ……。彼女、最近までいたのね。
柾樹はとても綺麗な人なのだし、魅力的な人だ。そうよね……と美桜は納得するが。

もしかしたら、お見合いをするにあたって、別れたのかもしれないと、急に美桜は思い当たった。

本当は別れる気などなかったのに、美桜が現れたから、別れることになったのだとしたら……。
それはもう、本当に嫌われてもしようがないとまで思ってしまう。

そう思うとしょぼん、としてしまう美桜だ。

「ん? 美桜ちゃん?」
急に黙り込んだ美桜の顔を、颯樹が覗き込んでいた。

「あ、いえ……あの、そんな訳なので朝食があるんですけど、よろしければ、おあがりになりませんか?」

そんな訳ってどんな訳? という突っ込みもなく、素直に颯樹は喜んだ。

「わー、マジで!? スッゲー助かる! この後カフェでも入って食べようと思ってたんだよ」

その前にとりあえず、シャワーを浴びさせて……と颯樹はバスルームに消えていった。

颯樹は着替えも、きちんと持ってきていたようだ。さっぱりした顔をした様子の颯樹は先ほどとは、違う服でダイニングに現れる。
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