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婚約者
婚約者①
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その翌朝、柾樹が何時に起きてくるのか分からなかったため、美桜は5時には起きて準備を開始した。
この日のために千穂さんにお料理からお掃除から、家事を仕込んでもらったのだ。
5時半頃、ぼうっと起きてきた柾樹はダイニングの入口で、美桜の姿を見て固まっている。
「おはようございます」
美桜は柾樹に挨拶をした。
昨日、美桜は柾樹に『泣くのではなくて、どうすればいいかを考えろ』と言われのである。
美桜なりに考えて出した結果だ。
──柾樹さんを信じて支えよう。
まずは、自分にできることをする。
だから今日は早めに起きて朝食の用意をしたのだ。
けれど、柾樹は美桜の姿を見て眉間に皺を寄せ、しばらくぼうっとしていた。
サッカー地のグレイのパジャマは柾樹によく似合っていて、ぼうっとしたこんな姿ですら彼の端正な雰囲気を損なうことはない。
少し考えて、
「……あ」
と柾樹は声を出した。
ようやく思い出したようだ。
「そう……か……」
「シャワー、浴びていらっしゃいます? 朝ご飯、ご用意します。何がいいか分からなかったので両方ご用意したんですけれど。パンとご飯、どちらがいいですか?」
「あ、今日はいい。悪いが朝はあまり強くなくて。食事を取る気にならないんだ」
柾樹は美桜と目も合わせてくれない。
「ごめんなさい……。聞いておけば良かったですね」
「いや。あと……無理しなくていい」
にこりともしないで、そう言って、柾樹はバスルームに向かった。
くるりと振り返るその姿を見て、美桜はため息をつきそうになった。昨日から柾樹の背中ばかりしか見ていないのだ。
気にしちゃダメ!
まだ、始まったばかりだもの。
知らなくて当たり前なのよ。
これから、少しずつ覚えていけばいい。
今日だって、一つ分かったではないか。
それに寝惚けている柾樹は、ちょっと呆然としていて、きっと本当に朝が弱いのだ。
シャワーを浴び終えて会社に行くための準備を整えた柾樹は、リビングのテレビを付けタブレットを起動させている。
すでに仕事を始めているようだ。
「柾樹さん、コーヒーはいかがですか?」
「無理しなくていいと言っているのに」
「無理はしていません」
柾樹は、ふう……とため息をついた。
「じゃあ、コーヒーはもらうよ」
「はい」
コーヒーの淹れ方には自信がある。
父にも千穂さんにも、太鼓判をもらっているのだ。
美桜は慎重に粉の量を計り、ドリッパーにお湯を注ぐ。
ふわりと粉がお湯を含んだら、さらに湯を追加して、様子を見ながら淹れるのである。
──ん、よしっ……。
「いい香りだな」
「きゃ……!」
まさか柾樹がキッチンに姿を現すとは思わず、美桜はお湯を指先に零してしまった。
「美桜!」
柾樹が慌てて、美桜の手からポットを奪い取りシンクに置いた。そして蛇口から勢いよく水を出すと、美桜の指先を握って流水にさらす。
「だから、無理をするなと言うのに……」
「……ごめんなさい。驚いたりして」
「いや……」
後ろから抱き込まれるような今のこの姿勢に、美桜は不謹慎だと分かってはいるけれど、どきどきした。
背中に逞しそうな柾樹の胸がぴったりとくっついて、真横にその整った顔があるのだ。
流水に晒すためとはいえ、握られている手も視界に入る。
昨日……この手が、美桜の肌に触れた……。
(……っ! 何考えてるの⁉︎)
つい、美桜は柾樹の手を振り払ってしまう。
「……っご、ごめんなさい! もう大丈夫です」
この日のために千穂さんにお料理からお掃除から、家事を仕込んでもらったのだ。
5時半頃、ぼうっと起きてきた柾樹はダイニングの入口で、美桜の姿を見て固まっている。
「おはようございます」
美桜は柾樹に挨拶をした。
昨日、美桜は柾樹に『泣くのではなくて、どうすればいいかを考えろ』と言われのである。
美桜なりに考えて出した結果だ。
──柾樹さんを信じて支えよう。
まずは、自分にできることをする。
だから今日は早めに起きて朝食の用意をしたのだ。
けれど、柾樹は美桜の姿を見て眉間に皺を寄せ、しばらくぼうっとしていた。
サッカー地のグレイのパジャマは柾樹によく似合っていて、ぼうっとしたこんな姿ですら彼の端正な雰囲気を損なうことはない。
少し考えて、
「……あ」
と柾樹は声を出した。
ようやく思い出したようだ。
「そう……か……」
「シャワー、浴びていらっしゃいます? 朝ご飯、ご用意します。何がいいか分からなかったので両方ご用意したんですけれど。パンとご飯、どちらがいいですか?」
「あ、今日はいい。悪いが朝はあまり強くなくて。食事を取る気にならないんだ」
柾樹は美桜と目も合わせてくれない。
「ごめんなさい……。聞いておけば良かったですね」
「いや。あと……無理しなくていい」
にこりともしないで、そう言って、柾樹はバスルームに向かった。
くるりと振り返るその姿を見て、美桜はため息をつきそうになった。昨日から柾樹の背中ばかりしか見ていないのだ。
気にしちゃダメ!
まだ、始まったばかりだもの。
知らなくて当たり前なのよ。
これから、少しずつ覚えていけばいい。
今日だって、一つ分かったではないか。
それに寝惚けている柾樹は、ちょっと呆然としていて、きっと本当に朝が弱いのだ。
シャワーを浴び終えて会社に行くための準備を整えた柾樹は、リビングのテレビを付けタブレットを起動させている。
すでに仕事を始めているようだ。
「柾樹さん、コーヒーはいかがですか?」
「無理しなくていいと言っているのに」
「無理はしていません」
柾樹は、ふう……とため息をついた。
「じゃあ、コーヒーはもらうよ」
「はい」
コーヒーの淹れ方には自信がある。
父にも千穂さんにも、太鼓判をもらっているのだ。
美桜は慎重に粉の量を計り、ドリッパーにお湯を注ぐ。
ふわりと粉がお湯を含んだら、さらに湯を追加して、様子を見ながら淹れるのである。
──ん、よしっ……。
「いい香りだな」
「きゃ……!」
まさか柾樹がキッチンに姿を現すとは思わず、美桜はお湯を指先に零してしまった。
「美桜!」
柾樹が慌てて、美桜の手からポットを奪い取りシンクに置いた。そして蛇口から勢いよく水を出すと、美桜の指先を握って流水にさらす。
「だから、無理をするなと言うのに……」
「……ごめんなさい。驚いたりして」
「いや……」
後ろから抱き込まれるような今のこの姿勢に、美桜は不謹慎だと分かってはいるけれど、どきどきした。
背中に逞しそうな柾樹の胸がぴったりとくっついて、真横にその整った顔があるのだ。
流水に晒すためとはいえ、握られている手も視界に入る。
昨日……この手が、美桜の肌に触れた……。
(……っ! 何考えてるの⁉︎)
つい、美桜は柾樹の手を振り払ってしまう。
「……っご、ごめんなさい! もう大丈夫です」
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