黒王子の溺愛

如月 そら

文字の大きさ
上 下
8 / 46
婚約者

婚約者①

しおりを挟む
その翌朝、柾樹が何時に起きてくるのか分からなかったため、美桜は5時には起きて準備を開始した。

この日のために千穂さんにお料理からお掃除から、家事を仕込んでもらったのだ。
5時半頃、ぼうっと起きてきた柾樹はダイニングの入口で、美桜の姿を見て固まっている。

「おはようございます」
美桜は柾樹に挨拶をした。

昨日、美桜は柾樹に『泣くのではなくて、どうすればいいかを考えろ』と言われのである。

美桜なりに考えて出した結果だ。
──柾樹さんを信じて支えよう。
まずは、自分にできることをする。

だから今日は早めに起きて朝食の用意をしたのだ。

けれど、柾樹は美桜の姿を見て眉間に皺を寄せ、しばらくぼうっとしていた。
サッカー地のグレイのパジャマは柾樹によく似合っていて、ぼうっとしたこんな姿ですら彼の端正な雰囲気を損なうことはない。
少し考えて、
「……あ」
と柾樹は声を出した。

ようやく思い出したようだ。
「そう……か……」

「シャワー、浴びていらっしゃいます? 朝ご飯、ご用意します。何がいいか分からなかったので両方ご用意したんですけれど。パンとご飯、どちらがいいですか?」
「あ、今日はいい。悪いが朝はあまり強くなくて。食事を取る気にならないんだ」
柾樹は美桜と目も合わせてくれない。

「ごめんなさい……。聞いておけば良かったですね」
「いや。あと……無理しなくていい」

にこりともしないで、そう言って、柾樹はバスルームに向かった。
くるりと振り返るその姿を見て、美桜はため息をつきそうになった。昨日から柾樹の背中ばかりしか見ていないのだ。

気にしちゃダメ!
まだ、始まったばかりだもの。
知らなくて当たり前なのよ。

これから、少しずつ覚えていけばいい。
今日だって、一つ分かったではないか。

それに寝惚けている柾樹は、ちょっと呆然としていて、きっと本当に朝が弱いのだ。

シャワーを浴び終えて会社に行くための準備を整えた柾樹は、リビングのテレビを付けタブレットを起動させている。
すでに仕事を始めているようだ。

「柾樹さん、コーヒーはいかがですか?」
「無理しなくていいと言っているのに」
「無理はしていません」
柾樹は、ふう……とため息をついた。

「じゃあ、コーヒーはもらうよ」
「はい」

コーヒーの淹れ方には自信がある。
父にも千穂さんにも、太鼓判をもらっているのだ。

美桜は慎重に粉の量を計り、ドリッパーにお湯を注ぐ。
ふわりと粉がお湯を含んだら、さらに湯を追加して、様子を見ながら淹れるのである。

──ん、よしっ……。

「いい香りだな」
「きゃ……!」

まさか柾樹がキッチンに姿を現すとは思わず、美桜はお湯を指先に零してしまった。

「美桜!」
柾樹が慌てて、美桜の手からポットを奪い取りシンクに置いた。そして蛇口から勢いよく水を出すと、美桜の指先を握って流水にさらす。

「だから、無理をするなと言うのに……」
「……ごめんなさい。驚いたりして」
「いや……」

後ろから抱き込まれるような今のこの姿勢に、美桜は不謹慎だと分かってはいるけれど、どきどきした。
背中に逞しそうな柾樹の胸がぴったりとくっついて、真横にその整った顔があるのだ。

流水に晒すためとはいえ、握られている手も視界に入る。
昨日……この手が、美桜の肌に触れた……。

(……っ! 何考えてるの⁉︎)

つい、美桜は柾樹の手を振り払ってしまう。
「……っご、ごめんなさい! もう大丈夫です」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

御曹司はまだ恋を知らない

椿蛍
恋愛
家政婦紹介所に登録している桑江夏乃子(くわえかのこ)は高辻財閥の高辻家に派遣されることになった。 派遣された当日、高辻グループの御曹司であり、跡取り息子の高辻恭士(たかつじきょうじ)が婚約者らしき女性とキスをしている現場を目撃するが、その場で別れてしまう。 恭士はその冷たい態度と毒のある性格で婚約者が決まっても別れてしまうらしい。 夏乃子には恭士がそんな冷たい人間には思えず、接しているうちに二人は親しくなるが、心配した高辻の両親は恭士に新しい婚約者を探す。 そして、恭士は告げられる。 『愛がなくても高辻に相応しい人間と結婚しろ』と。 ※R-18には『R-18』マークをつけます。 ※とばして読むことも可能です。 ★私の婚約者には好きな人がいる スピンオフ作品。兄の恭士編です。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

黒王子の溺愛は続く

如月 そら
恋愛
晴れて婚約した美桜と柾樹のラブラブ生活とは……? ※こちらの作品は『黒王子の溺愛』の続きとなります。お読みになっていない方は先に『黒王子の溺愛』をお読み頂いた方が、よりお楽しみ頂けるかと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

【R18・完結】蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない〜

花室 芽苳
恋愛
契約結婚しませんか?貴方は確かにそう言ったのに。気付けば貴方の冷たい瞳に炎が宿ってー?ねえ、これは大人の恋なんですか? どこにいても誰といても冷静沈着。 二階堂 柚瑠木《にかいどう ゆるぎ》は二階堂財閥の御曹司 そんな彼が契約結婚の相手として選んだのは 十条コーポレーションのお嬢様 十条 月菜《じゅうじょう つきな》 真面目で努力家の月菜は、そんな柚瑠木の申し出を受ける。 「契約結婚でも、私は柚瑠木さんの妻として頑張ります!」 「余計な事はしなくていい、貴女はお飾りの妻に過ぎないんですから」 しかし、挫けず頑張る月菜の姿に柚瑠木は徐々に心を動かされて――――? 冷徹御曹司 二階堂 柚瑠木 185㎝ 33歳 努力家妻  十条 月菜   150㎝ 24歳

処理中です...