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12.ナニしに来たの?
ナニしに来たの?③
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淡いグレーの絨毯に置いてある応接セットは低すぎないガラステーブルとソファは箱型のコルビジェデザインの黒い一人掛けを4つ置いてある。なかなかにモダンなデザインで美冬は気に入っていた。
美冬が今睨んでいる画面は、グローバル・キャピタル・パートナーズから来ている丁寧なメールである。
端的に言うと、
『ご相談があるので再度ご来訪いただく事は可能か』というものだ。
槙野には以前に美冬の案件は預かる、と言われていた。
結婚のこともあり、美冬が社長として継続できることはおそらく間違いはない。そうであればなおさら、会社のことを今後考えていかなくてはいけない。
そんな中で例のコンペが上手くいくのなら言うことはないけれど、以前に槙野には辛辣に言われていたし、コンペの意図とは外れている、と明確に言われた。
だから、美冬はそれについては可能性はないと考えている。
「美冬さん、パソコンの画面に穴が空きますよ」
各支店からの売上を報告に来ていた杉村が、大きな瞳でじいーっと画面を見ている美冬にそんな風に話しかける。
「空くわけないでしょ」
「そんな大きな瞳で見つめていたら、空きますよ。多分……」
「真剣に考え事してるのに」
膨れた美冬に杉村は柔らかい笑顔を向けた。
「何をそんなに悩んでいるんです?」
「うん、グローバル・キャピタル・パートナーズからのメールね……」
杉村にも同じメールは来ていて確認していたので頷く。
「ご相談ってどういうことなのかしら?」
ゆるりと美冬が首を傾げる。
さすがの杉村も疑問には思っていたところだった。
「まあ、ご相談と言われると気になるところではありますよね。話したい、何らかの意向を確認したい、いろいろあるとは思いますけど」
杉村の発言を聞いて、パソコン画面に映し出されているメールにまた目をやって、美冬は考え込む様子だ。
「考えても仕方ないですよ。ボールは向こうにあるんですから」
「うん」
美冬は若いけれど、経営者としてはよくやっている方だと杉村は思っていた。
会社の舵取りは楽なようでいて意外と難しい。そのバランス感覚はさすがに椿会長の孫だと感心する。
そもそも大手のアパレル会社でさえどんどん倒産していく中、ミルヴェイユは踏ん張っている方なのだ。
アパレルは最先端過ぎても保守的過ぎてもいけない。ミルヴェイユは上手くニーズを拾っている。
一方の美冬の頭の中を占めていたのは『相乗効果』である。以前言われたことについて美冬は考えていた。
ミルヴェイユがグローバル・キャピタル・パートナーズと関わることによってそれぞれが単体で得られる以上の結果を上げるようなことだ。
今まで自社でいかにいいものを作るか、いかにそれをうまく見せるか、そんなことばかり考えてきて相乗効果などは考えたことはなかった。
美冬は今まで祖父の作ってくれたレールの上を歩いていたんだなと実感する。今回は自分で新たに何かをしなくてはいけないということにおそれと奮い立つような気持ちと、不安と暗中模索で手探りで進んでいるような感覚がある。
そんなのは初めてだ。
美冬が今睨んでいる画面は、グローバル・キャピタル・パートナーズから来ている丁寧なメールである。
端的に言うと、
『ご相談があるので再度ご来訪いただく事は可能か』というものだ。
槙野には以前に美冬の案件は預かる、と言われていた。
結婚のこともあり、美冬が社長として継続できることはおそらく間違いはない。そうであればなおさら、会社のことを今後考えていかなくてはいけない。
そんな中で例のコンペが上手くいくのなら言うことはないけれど、以前に槙野には辛辣に言われていたし、コンペの意図とは外れている、と明確に言われた。
だから、美冬はそれについては可能性はないと考えている。
「美冬さん、パソコンの画面に穴が空きますよ」
各支店からの売上を報告に来ていた杉村が、大きな瞳でじいーっと画面を見ている美冬にそんな風に話しかける。
「空くわけないでしょ」
「そんな大きな瞳で見つめていたら、空きますよ。多分……」
「真剣に考え事してるのに」
膨れた美冬に杉村は柔らかい笑顔を向けた。
「何をそんなに悩んでいるんです?」
「うん、グローバル・キャピタル・パートナーズからのメールね……」
杉村にも同じメールは来ていて確認していたので頷く。
「ご相談ってどういうことなのかしら?」
ゆるりと美冬が首を傾げる。
さすがの杉村も疑問には思っていたところだった。
「まあ、ご相談と言われると気になるところではありますよね。話したい、何らかの意向を確認したい、いろいろあるとは思いますけど」
杉村の発言を聞いて、パソコン画面に映し出されているメールにまた目をやって、美冬は考え込む様子だ。
「考えても仕方ないですよ。ボールは向こうにあるんですから」
「うん」
美冬は若いけれど、経営者としてはよくやっている方だと杉村は思っていた。
会社の舵取りは楽なようでいて意外と難しい。そのバランス感覚はさすがに椿会長の孫だと感心する。
そもそも大手のアパレル会社でさえどんどん倒産していく中、ミルヴェイユは踏ん張っている方なのだ。
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一方の美冬の頭の中を占めていたのは『相乗効果』である。以前言われたことについて美冬は考えていた。
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今まで自社でいかにいいものを作るか、いかにそれをうまく見せるか、そんなことばかり考えてきて相乗効果などは考えたことはなかった。
美冬は今まで祖父の作ってくれたレールの上を歩いていたんだなと実感する。今回は自分で新たに何かをしなくてはいけないということにおそれと奮い立つような気持ちと、不安と暗中模索で手探りで進んでいるような感覚がある。
そんなのは初めてだ。
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