31 / 109
7.狼さんとうさぎさん
狼さんとうさぎさん⑤
しおりを挟む
「お前さぁ、俺に襲われてパクって食われちゃったらどうすんの?」
美冬の寝ているベッドに腰掛けて、すやすやと眠る彼女の唇をふにふにと指でつつく。
その時美冬の口から声が漏れたのだ。
「それは食べちゃダメ~……私のだって……」
槙野は笑ってしまった。
「どーゆー夢みてんだよ、お前は」
こんなに可愛くて愛おしい存在になるなんて思わなかった。
「そうだな、もしお前を食べるとしたらこんな状態じゃなくて、しっかり意識もあって、絶対に忘れられない状況でさせろよな」
そう言って槙野が美冬の頬を撫でたら、なんだか迷惑そうに眉間にシワを寄せているので、もう本当に槙野は笑ってしまった。
今日は美冬の祖父に挨拶に行き、そのまま食事に行って帰ってきてしまった槙野だ。まだ仕事が残っていたから、槙野はそれを自宅の作業スペースで確認していく。
少し経つと「槙野さん……」と美冬が起きてきた。
寝起きの美冬もぽやんとしていて、愛らしい。
抱き上げて連れてきたことを気にしているから、重かったとからかったら、ささっと早足で寄ってきて、真っ赤な顔でぺんっと肩を叩かれた。
その恥ずかしそうな顔も可愛い。
それにそんなものは叩くうちには入らなくて、むしろスキンシップに近い。
こういうの、他ではやらせないようにしないといけないなと思う。
相手が男なら誤解してもおかしくない。
泊まっていくだろう?と聞いたら、美冬はとても戸惑っていた。
けれど、当然のようにリードしたら、美冬は素直にありがとうと言ってバスルームに入ってゆく。
今日、何度か美冬の口からありがとうという言葉を聞いた。
美冬はそれをとても素直に口にする。
そんなところもとても良いと槙野は思うのだ。
しゃーっとシャワーの水音が聞こえてきて、シャンプーの香りがする。
いつも自分が使っているもののはずなのに、美冬が使っているかと思うと、槙野は妙に鼓動が大きくなるのを抑えられない。
それにバスルームから漂ってくる香りがいつもより良い香りのような気がするのだ。
本当にいつもならこんなことはないのだが。
それでもそんなことは一切出さずに、槙野は美冬の着替えを準備した。
そしてバスルームをノックする。
「着替え、ここ置いとくから。しっかり温まって出てこいよ」
そう言ったら、またありがとうと言われた。
落ち着かない気持ちのまま、リビングのソファに座っていると、ふわん、と風呂上がりの温かさとボディソープの良い香りがする。
「お先でした」
「おう」
そう言ってリビングの入口に槙野は目をやる。
──マジか……。ヤバすぎ。
小柄な美冬では槙野の着替えは大きすぎて、意図的ではなかったはずなのに、その彼パジャマな状態が思いのほか可愛すぎたのだ。
契約……。この関係は契約だ。
だが、もう取り消すことはお互いにしない契約だ。
そう槙野は心に強く言い聞かせる。
はーっと槙野は大きく息を吐いた。
「槙野さん? どうしたの?」
そう言ってリビングのソファに座っていた槙野の横に、美冬はちょんと座って首を傾げる。
萌え袖をなんとかしろ。そして両手を膝の間に置いてこっちに身体を倒すな。谷間が丸見えなんだよ。
いい匂いをさせて近づくんじゃないっ。
美冬の寝ているベッドに腰掛けて、すやすやと眠る彼女の唇をふにふにと指でつつく。
その時美冬の口から声が漏れたのだ。
「それは食べちゃダメ~……私のだって……」
槙野は笑ってしまった。
「どーゆー夢みてんだよ、お前は」
こんなに可愛くて愛おしい存在になるなんて思わなかった。
「そうだな、もしお前を食べるとしたらこんな状態じゃなくて、しっかり意識もあって、絶対に忘れられない状況でさせろよな」
そう言って槙野が美冬の頬を撫でたら、なんだか迷惑そうに眉間にシワを寄せているので、もう本当に槙野は笑ってしまった。
今日は美冬の祖父に挨拶に行き、そのまま食事に行って帰ってきてしまった槙野だ。まだ仕事が残っていたから、槙野はそれを自宅の作業スペースで確認していく。
少し経つと「槙野さん……」と美冬が起きてきた。
寝起きの美冬もぽやんとしていて、愛らしい。
抱き上げて連れてきたことを気にしているから、重かったとからかったら、ささっと早足で寄ってきて、真っ赤な顔でぺんっと肩を叩かれた。
その恥ずかしそうな顔も可愛い。
それにそんなものは叩くうちには入らなくて、むしろスキンシップに近い。
こういうの、他ではやらせないようにしないといけないなと思う。
相手が男なら誤解してもおかしくない。
泊まっていくだろう?と聞いたら、美冬はとても戸惑っていた。
けれど、当然のようにリードしたら、美冬は素直にありがとうと言ってバスルームに入ってゆく。
今日、何度か美冬の口からありがとうという言葉を聞いた。
美冬はそれをとても素直に口にする。
そんなところもとても良いと槙野は思うのだ。
しゃーっとシャワーの水音が聞こえてきて、シャンプーの香りがする。
いつも自分が使っているもののはずなのに、美冬が使っているかと思うと、槙野は妙に鼓動が大きくなるのを抑えられない。
それにバスルームから漂ってくる香りがいつもより良い香りのような気がするのだ。
本当にいつもならこんなことはないのだが。
それでもそんなことは一切出さずに、槙野は美冬の着替えを準備した。
そしてバスルームをノックする。
「着替え、ここ置いとくから。しっかり温まって出てこいよ」
そう言ったら、またありがとうと言われた。
落ち着かない気持ちのまま、リビングのソファに座っていると、ふわん、と風呂上がりの温かさとボディソープの良い香りがする。
「お先でした」
「おう」
そう言ってリビングの入口に槙野は目をやる。
──マジか……。ヤバすぎ。
小柄な美冬では槙野の着替えは大きすぎて、意図的ではなかったはずなのに、その彼パジャマな状態が思いのほか可愛すぎたのだ。
契約……。この関係は契約だ。
だが、もう取り消すことはお互いにしない契約だ。
そう槙野は心に強く言い聞かせる。
はーっと槙野は大きく息を吐いた。
「槙野さん? どうしたの?」
そう言ってリビングのソファに座っていた槙野の横に、美冬はちょんと座って首を傾げる。
萌え袖をなんとかしろ。そして両手を膝の間に置いてこっちに身体を倒すな。谷間が丸見えなんだよ。
いい匂いをさせて近づくんじゃないっ。
7
お気に入りに追加
385
あなたにおすすめの小説
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★
☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆
※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。
お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。
駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛
玖羽 望月
恋愛
雪代 恵舞(ゆきしろ えま)28歳は、ある日祖父から婚約者候補を紹介される。
アメリカの企業で部長職に就いているという彼は、竹篠 依澄(たけしの いずみ)32歳だった。
恵舞は依澄の顔を見て驚く。10年以上前に別れたきりの、初恋の人にそっくりだったからだ。けれど名前すら違う別人。
戸惑いながらも、祖父の顔を立てるためお試し交際からスタートという条件で受け入れる恵舞。結婚願望などなく、そのうち断るつもりだった。
一方依澄は、早く婚約者として受け入れてもらいたいと、まずお互いを知るために簡単なゲームをしようと言い出す。
「俺が勝ったら唇をもらおうか」
――この駆け引きの勝者はどちら?
*付きはR描写ありです。
エブリスタにも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる