22 / 109
6.手順もあるんです
手順もあるんです①
しおりを挟む
「そ……それ、言わなきゃダメですか?」
ミルヴェイユの椿美冬から『事情』を聞いた時、槙野は笑ってしまった。
創業者である祖父に業績か結婚か迫られていて、どちらかを実施しないと社長を降ろされるんです……と項垂れていた。美冬は表情が活き活きとしていて、思っていることが全部顔に出てしまうような女性だ。
元気が良くて、正直で、そして仕事のことばかり考えている。
そうしてふと、槙野は思った。
これはもしや、お互いに条件に合うのでは?
気持ちがあってもなくても、お互いにパートナーを必要としている状況。
「槙野さん助けてくれますか?」
そう言った時の美冬は……なんというか瞳の揺れる感じすら女性だと感じた。守りたいと一瞬思ってしまったのだ。
最初は甘やかされて社長になったお嬢様なのかと思っていた。けれど、美冬はいつも一生懸命で、真剣な顔をしたり瞳をキラキラを輝かせたりする。
けれど、美冬が槙野を苦手に感じていることも槙野は分かっている。
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
そんなことを言ったって、絶対に了承なんかしないだろう。
美冬は槙野に対して最初から怖くて怯えていたのは分かっていたし、槙野の場合、こちらが怒っていなくても、場合によっては相手を怖がらせてしまうことがあることは過去にも経験済みだ。
だから断られる前に書類を手にして立ち上がって背を向けた。
こちらが好意を持っている相手に怖がられることほどつらいことはないからだ。
ガシッとスーツの腕を掴まれた時は何が起きたか分からなかった。
振り返ると、低い位置にある美冬の整った顔がこちらを必死な表情で見ている。
童顔だけれど、お人形のように整っている顔。
好みで言えば外れている。
槙野は仕事で成功してからは取り憑かれたように派手な女性たちと付き合った。中には良い子もいたけれど、そんな時自分の方が本気になれなかったりして縁はできなかった。
最近良いなと思う女性が、おとなしそうでたおやかな人に目が行くのは、親友の結婚の影響もあるのかもしれない。
こんなに破天荒で元気な女の子!といった感じの美冬は槙野の現在の好みからも外れる。
なのに必死な美冬はやけに綺麗で。
「なんだ?」
顔なんて見れなかった。
だからぎゅっとスーツを握った美冬の手元を見ていたのだ。
そこへ小さく聞こえた声。
「……待って……」
「なに?」
緩く髪をかきあげた槙野は美冬を見る。
すると、美冬はキッと顔を上げた。
「するわ……」
「は?」
(するって、何を?)
「するわって言ったのよ。契約婚、する」
「お前……なに考えて……っ」
気持ちなんてないくせに。
槙野のことが苦手で怖いくせに。
「自分が言ったのよ! 責任とってもらうから」
槙野はチッと舌打ちをするのを止められなかったのだけれど、華奢な美冬を思う存分抱きしめるのを止めることもできなかった。
大人しく腕の中に納まる美冬はいざ抱きしめてしまうと、もっと欲しくなった。
「全くお前は……。覚えてろよ」
だから思うさま唇を重ねて、奪うようにキスをした。もう二度とこんな機会はないかもしれないと思ったら、なおさら自分の衝動を止める事なんてできなかった。
思ったよりも甘くて柔らかい唇だった。ふんわりとして柔らかい身体は抱きしめるときゅっと自分の中に納まる。
無理に奪っているはずなのに、求めているかのように美冬が身体を預けてくるから。
ミルヴェイユの椿美冬から『事情』を聞いた時、槙野は笑ってしまった。
創業者である祖父に業績か結婚か迫られていて、どちらかを実施しないと社長を降ろされるんです……と項垂れていた。美冬は表情が活き活きとしていて、思っていることが全部顔に出てしまうような女性だ。
元気が良くて、正直で、そして仕事のことばかり考えている。
そうしてふと、槙野は思った。
これはもしや、お互いに条件に合うのでは?
気持ちがあってもなくても、お互いにパートナーを必要としている状況。
「槙野さん助けてくれますか?」
そう言った時の美冬は……なんというか瞳の揺れる感じすら女性だと感じた。守りたいと一瞬思ってしまったのだ。
最初は甘やかされて社長になったお嬢様なのかと思っていた。けれど、美冬はいつも一生懸命で、真剣な顔をしたり瞳をキラキラを輝かせたりする。
けれど、美冬が槙野を苦手に感じていることも槙野は分かっている。
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
そんなことを言ったって、絶対に了承なんかしないだろう。
美冬は槙野に対して最初から怖くて怯えていたのは分かっていたし、槙野の場合、こちらが怒っていなくても、場合によっては相手を怖がらせてしまうことがあることは過去にも経験済みだ。
だから断られる前に書類を手にして立ち上がって背を向けた。
こちらが好意を持っている相手に怖がられることほどつらいことはないからだ。
ガシッとスーツの腕を掴まれた時は何が起きたか分からなかった。
振り返ると、低い位置にある美冬の整った顔がこちらを必死な表情で見ている。
童顔だけれど、お人形のように整っている顔。
好みで言えば外れている。
槙野は仕事で成功してからは取り憑かれたように派手な女性たちと付き合った。中には良い子もいたけれど、そんな時自分の方が本気になれなかったりして縁はできなかった。
最近良いなと思う女性が、おとなしそうでたおやかな人に目が行くのは、親友の結婚の影響もあるのかもしれない。
こんなに破天荒で元気な女の子!といった感じの美冬は槙野の現在の好みからも外れる。
なのに必死な美冬はやけに綺麗で。
「なんだ?」
顔なんて見れなかった。
だからぎゅっとスーツを握った美冬の手元を見ていたのだ。
そこへ小さく聞こえた声。
「……待って……」
「なに?」
緩く髪をかきあげた槙野は美冬を見る。
すると、美冬はキッと顔を上げた。
「するわ……」
「は?」
(するって、何を?)
「するわって言ったのよ。契約婚、する」
「お前……なに考えて……っ」
気持ちなんてないくせに。
槙野のことが苦手で怖いくせに。
「自分が言ったのよ! 責任とってもらうから」
槙野はチッと舌打ちをするのを止められなかったのだけれど、華奢な美冬を思う存分抱きしめるのを止めることもできなかった。
大人しく腕の中に納まる美冬はいざ抱きしめてしまうと、もっと欲しくなった。
「全くお前は……。覚えてろよ」
だから思うさま唇を重ねて、奪うようにキスをした。もう二度とこんな機会はないかもしれないと思ったら、なおさら自分の衝動を止める事なんてできなかった。
思ったよりも甘くて柔らかい唇だった。ふんわりとして柔らかい身体は抱きしめるときゅっと自分の中に納まる。
無理に奪っているはずなのに、求めているかのように美冬が身体を預けてくるから。
1
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
シングルマザーになったら執着されています。
金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。
同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。
初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。
幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。
彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。
新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。
しかし彼は、諦めてはいなかった。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる