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5.事情があるんです
事情があるんです④
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木崎社長の聞いたことのないような猫撫で声だ。お母さまというからには娘なんだろう。
業務上は問題ないだと!?
池森のあの時の意味深な様子に納得した槙野だ。
──アイツ池森っ!今度会ったら覚えていろ!!意識を失うな!失ったら詰む!
槙野はぎゅううっと自分の太腿をつねりあげた。
意識が覚醒するレベルでだ。もはや気合いである。
「木崎さん、そんな話は聞いていませんよ」
槙野は顔を上げて、キッと木崎を睨んだ。
普通の女性なら怯むところだがさすがに木崎はそんなものでは怯まない。
「あら……でもお付き合いしている方もいらっしゃらないとさっき聞いたわ」
槙野は言葉に詰まる。
先ほど根掘り葉掘りプライベートなことまで色々聞かれたのだ。
槙野はちょっと小さい声でハッキリ言ってみた。
「将来を約束した人がいるんです」
即座に木崎に返される。
「どこに?」
……どこにだろう……?
いや!どこかにだっ!けど、申し訳ないがお宅のお嬢さんでは断じてない!
「今は言えない」
いないとは死んでもな!
「ふぅん……綾奈ちゃん、少し待ちましょう。しばらく経ってもそんな話がなければ、お母様が責任を持ってこのお話を進めてあげる」
「おい! 了承はしていないからな」
ふふっと笑った木崎の声を聞きながら、槙野はよれよれになりつつもバーを後にしたのだ。
槙野はここのところ寝つきが悪い。
寝つきだけではない。よく寝れない。眠りが浅いのだ。疲れているはずなのに真夜中に変な汗をかいて目が覚めることもある。
(やはりあのインパクトは強すぎた……)
そんな折に客先に訪問をして会社に帰ってきたら、受付で見たことのある姿を目にしたのだ。コンペの時の女性社長だ。確か椿美冬といったか。
焦げ茶色のロングヘアと、紺色のピンストライプのスーツにクリーム色のブラウスを合わせているのがよく似合う。
あの時は頼りないような気もしたが、こうして見るとさすがにアパレルの社長だなという気がした。
「あれ? えーっと……」
そんな風に声をかけたら、ぎょっとした顔で彼女は少しだけ後ずさった。
怖い、と顔に書いてある。
まるで街で輩に絡まれた、か弱い女性のようなのだが。
そんな反応するか?
しかし、コンペの際に顔を合わせていて、身分は明らかなのだから、と槙野は受付に近寄っていった。おそらくはあの時片倉に言われた企画書を持って来たのだろうと思ったから。
「企画書? 早いな」
そう話しかけると彼女は零れそうに大きな瞳でじいっと槙野を見てこくこくと頷く。
まるで小動物を追い詰めているような気持ちになるのはなぜだろうか。
「俺が見てやるよ」
せっかく持ってきた企画書である。
槙野がそう言うと、椿美冬は書類をぎゅうっと抱きしめて、毛を逆立てたネコのような表情になった。
あまりにも警戒されてやっと理由が分かった。椿美冬は槙野の正体を知らない。
それにしてもおびえ過ぎじゃないのだろうかと思うが、槙野も自分がそこそこ迫力のある見た目だということは理解はしている。
そんなにおびえられたらこっちがへこむ。
「そんな顔するか……あー、だな。この前はクローズドのコンペだったか」
確か名刺はあるはずだがと胸ポケットの名刺入れを出したら、さっと顔の前に書類をかざしている。
業務上は問題ないだと!?
池森のあの時の意味深な様子に納得した槙野だ。
──アイツ池森っ!今度会ったら覚えていろ!!意識を失うな!失ったら詰む!
槙野はぎゅううっと自分の太腿をつねりあげた。
意識が覚醒するレベルでだ。もはや気合いである。
「木崎さん、そんな話は聞いていませんよ」
槙野は顔を上げて、キッと木崎を睨んだ。
普通の女性なら怯むところだがさすがに木崎はそんなものでは怯まない。
「あら……でもお付き合いしている方もいらっしゃらないとさっき聞いたわ」
槙野は言葉に詰まる。
先ほど根掘り葉掘りプライベートなことまで色々聞かれたのだ。
槙野はちょっと小さい声でハッキリ言ってみた。
「将来を約束した人がいるんです」
即座に木崎に返される。
「どこに?」
……どこにだろう……?
いや!どこかにだっ!けど、申し訳ないがお宅のお嬢さんでは断じてない!
「今は言えない」
いないとは死んでもな!
「ふぅん……綾奈ちゃん、少し待ちましょう。しばらく経ってもそんな話がなければ、お母様が責任を持ってこのお話を進めてあげる」
「おい! 了承はしていないからな」
ふふっと笑った木崎の声を聞きながら、槙野はよれよれになりつつもバーを後にしたのだ。
槙野はここのところ寝つきが悪い。
寝つきだけではない。よく寝れない。眠りが浅いのだ。疲れているはずなのに真夜中に変な汗をかいて目が覚めることもある。
(やはりあのインパクトは強すぎた……)
そんな折に客先に訪問をして会社に帰ってきたら、受付で見たことのある姿を目にしたのだ。コンペの時の女性社長だ。確か椿美冬といったか。
焦げ茶色のロングヘアと、紺色のピンストライプのスーツにクリーム色のブラウスを合わせているのがよく似合う。
あの時は頼りないような気もしたが、こうして見るとさすがにアパレルの社長だなという気がした。
「あれ? えーっと……」
そんな風に声をかけたら、ぎょっとした顔で彼女は少しだけ後ずさった。
怖い、と顔に書いてある。
まるで街で輩に絡まれた、か弱い女性のようなのだが。
そんな反応するか?
しかし、コンペの際に顔を合わせていて、身分は明らかなのだから、と槙野は受付に近寄っていった。おそらくはあの時片倉に言われた企画書を持って来たのだろうと思ったから。
「企画書? 早いな」
そう話しかけると彼女は零れそうに大きな瞳でじいっと槙野を見てこくこくと頷く。
まるで小動物を追い詰めているような気持ちになるのはなぜだろうか。
「俺が見てやるよ」
せっかく持ってきた企画書である。
槙野がそう言うと、椿美冬は書類をぎゅうっと抱きしめて、毛を逆立てたネコのような表情になった。
あまりにも警戒されてやっと理由が分かった。椿美冬は槙野の正体を知らない。
それにしてもおびえ過ぎじゃないのだろうかと思うが、槙野も自分がそこそこ迫力のある見た目だということは理解はしている。
そんなにおびえられたらこっちがへこむ。
「そんな顔するか……あー、だな。この前はクローズドのコンペだったか」
確か名刺はあるはずだがと胸ポケットの名刺入れを出したら、さっと顔の前に書類をかざしている。
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