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5.事情があるんです
事情があるんです②
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担当だったという池森はたまたま社内にいて、話を聞かせてくれるというので呼んで話を聞くことにした。
槙野も社員全員を把握しているわけではないから、池森を知らなかったのだが、スマートなスーツ姿に塩顔というのかイマドキのすっきりした顔立ちのさわやかな好青年だった。
槙野に対して物怖じしないところもいい。
デスクの前にある応接セットに座らせると最初は物珍しげにきょろきょろしていたけれど、槙野が問い合わせした件で尋ねると、よく覚えているのか、池森は頷いた。
「ああ、エス・ケイ・アールですね」
「エス・ケイ・アール……」
「もともと新規のアパレル企業でしたけど、アグレッシブに経営したいと言うので、ファストファッションのブランドを店舗展開した会社です」
手元の資料を見ると、この『ミルヴェイユ』という会社とは経営方針も何もかも全く違う気がする。
槙野は手元の資料を池森に見せてみることにした。
「『ミルヴェイユ』知らないなぁ。うわ、これはまたエス・ケイ・アールとは全く違う会社ですねぇ」
「なるほど……」
「僕もアパレルを初めて担当したんですけど、いろいろ奥深くて面白い世界なんですよ。例えば男性もので言ったらワイシャツとかですね。槙野さんはオーダーですか?」
「俺はイージーオーダーというのを利用しているな」
「僕はパターンオーダーです。フルオーダーのシャツがいくらするかご存じですか?」
槙野は自分のシャツを比較して概算する。
「3~4万じゃないか?」
「はい。もちろんそのくらいのものが一番多いんでしょうけど、僕が知ってる最高値は12万円です」
槙野からしたら3~4万でも高いと思う。
「思ったより高い」
「分かります。僕もそう思いました。でも工程を聞くと納得なんです。裁断する前に布を水に浸して乾かしたものをカットしたり、業務内容に合わせて裁断するそうです」
「水に浸す理由はなんだ?」
「洗うことを想定しているからです。出来立ての生地を水にぬらすと必ず変形するので、それを想定してあらかじめ濡らして乾かしたものをカットする。顧客の業務内容に合わせてカッティングを工夫する。オーダーでなくてはできない世界ですね」
槙野はこのような仕事をしているせいかすぐに費用対効果というものを考えてしまう。
「それだけの価値があるということか?」
「あるんでしょうね。あこがれだし、いつかそういうものが頼めるような身分になりたいなあと思います」
なるほど、確かにそんな話を聞くと面白い世界だと感じる。
「もしアパレル関連の仕事があるなら、エス・ケイ・アールの社長に連絡しますよ。ただ……」
「ただ……?」
「アグレッシブな社長です。いろいろ。でも槙野さんなら大丈夫かと思いますので」
意味深なことを言ってへらりと笑った池森は曖昧に言葉をにごしていた。
「おい、何かあるなら言っておいてくれないか?」
「えーと、業務上は問題ないです」
「業務上は問題ないんだな?」
そこはしっかり確認をしておかなくてはいけない。大事なことだ。槙野に正面から見られて「絶対大丈夫です!」と返す池森である。
槙野も社員全員を把握しているわけではないから、池森を知らなかったのだが、スマートなスーツ姿に塩顔というのかイマドキのすっきりした顔立ちのさわやかな好青年だった。
槙野に対して物怖じしないところもいい。
デスクの前にある応接セットに座らせると最初は物珍しげにきょろきょろしていたけれど、槙野が問い合わせした件で尋ねると、よく覚えているのか、池森は頷いた。
「ああ、エス・ケイ・アールですね」
「エス・ケイ・アール……」
「もともと新規のアパレル企業でしたけど、アグレッシブに経営したいと言うので、ファストファッションのブランドを店舗展開した会社です」
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槙野は手元の資料を池森に見せてみることにした。
「『ミルヴェイユ』知らないなぁ。うわ、これはまたエス・ケイ・アールとは全く違う会社ですねぇ」
「なるほど……」
「僕もアパレルを初めて担当したんですけど、いろいろ奥深くて面白い世界なんですよ。例えば男性もので言ったらワイシャツとかですね。槙野さんはオーダーですか?」
「俺はイージーオーダーというのを利用しているな」
「僕はパターンオーダーです。フルオーダーのシャツがいくらするかご存じですか?」
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「3~4万じゃないか?」
「はい。もちろんそのくらいのものが一番多いんでしょうけど、僕が知ってる最高値は12万円です」
槙野からしたら3~4万でも高いと思う。
「思ったより高い」
「分かります。僕もそう思いました。でも工程を聞くと納得なんです。裁断する前に布を水に浸して乾かしたものをカットしたり、業務内容に合わせて裁断するそうです」
「水に浸す理由はなんだ?」
「洗うことを想定しているからです。出来立ての生地を水にぬらすと必ず変形するので、それを想定してあらかじめ濡らして乾かしたものをカットする。顧客の業務内容に合わせてカッティングを工夫する。オーダーでなくてはできない世界ですね」
槙野はこのような仕事をしているせいかすぐに費用対効果というものを考えてしまう。
「それだけの価値があるということか?」
「あるんでしょうね。あこがれだし、いつかそういうものが頼めるような身分になりたいなあと思います」
なるほど、確かにそんな話を聞くと面白い世界だと感じる。
「もしアパレル関連の仕事があるなら、エス・ケイ・アールの社長に連絡しますよ。ただ……」
「ただ……?」
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意味深なことを言ってへらりと笑った池森は曖昧に言葉をにごしていた。
「おい、何かあるなら言っておいてくれないか?」
「えーと、業務上は問題ないです」
「業務上は問題ないんだな?」
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