鳥籠の中で君を愛する

番外：幸せな鳥籠

可愛いワンピース③

にこにことそんなことを言われたら断れないではないか。

「……いただきましょう……か？」
院長からの気配が和らいで、どうやら回答は間違っていなかったらしいと佐々木は察する。

「私、おばあちゃんが入院してからは一人でお食事してたので、こうやってみんなで食べられると、とても嬉しいんです」
そんな風に言って珠月はにこにことしている。本当にこういうところが憎めないし、和むのだ。
「珠月さん……」
「はい！」
院長が珠月を名前で呼ぶと、珠月が嬉しそうに返事をする。

「僕はもう君が圭一郎と結婚することを認めている。そろそろ名前で呼んでいいだろうか？　君にも良かったら、お義父さん、と呼んでほしいな」
「嬉しいです。是非！」
珠月が喜ぶその姿は、佐々木から見ても微笑ましいものだった。

そうして3人でお茶をしながらケーキを食べるという、佐々木としては不思議な時間を過ごしていた最中にドアがノックされ、それとほぼ同じタイミングでドアが開いた。
ドアを開けたのは長身な肢体に端正な顔も麗しい圭一郎だ。ただし、その表情は能面のようだったが。

「何をしているんです？」
という圭一郎の地を這うような声が、その場に響く。

「圭一郎さん！」
嬉しげに珠月が駆け寄った。
圭一郎は照れるでもなく珠月を抱き寄せて、その髪にキスをする。

「珠月、大丈夫か？」
「え？　もう！　圭一郎さんは心配性過ぎます！」

いや心配性ではなく、もはや過保護なのではないかという言葉を佐々木は飲み込んだ。
「佐々木、何か言いたいことがあるのか？」
「いえ……」

そして、圭一郎は院長室の中を振り返る。
「面接……でしたよね」
現場の中は完全にアフタヌーンティーを楽しんでいる風情だ。
さすがの佐々木も一緒にお茶をいただいていた立場として、気まずくはある。

そんな微妙な空気を打ち破ったのが、珠月だった。
「圭一郎さん！　聞いてください。院長先生が……あ、お義父様が『おとうさま』って呼んでいいって言ってくださったんです！」
花が咲いたような珠月の笑顔に、院長室の重かった空気が明るく華やぐ。

「良かったね、珠月」
笑顔の珠月に圭一郎は笑顔を返して、ひんやりとつぶやいた。
「なるほど……それで珠月にお父様と呼ばせてお茶を飲みながら団欒していたということですか」

「圭一郎さんも一緒にいただきましょう」
「面接は終わったのかな？」
「そうでした。私ってば、はしゃいでしまって、ごめんなさい」

「珠月さんは仕事なんてしなくてもいいんだけどね？」
しゅんとしてしまった珠月に院長は優しく首を傾げて尋ねる。

「はい。それは圭一郎さんにも言われたんです。でも、なんと言うか圭一郎さんに甘えっぱなしなのも申し訳なくて……」
「珠月が仕事したいという気持ちまで、俺は邪魔するつもりはないよ」

けど仕事先にはがっつり口出しするんですね？と佐々木は心の中で思ったけれど、口には出さない。

圭一郎も院長も珠月を溺愛していることは分かっているし、なんとなくそれで上手くいっていることも間違いはない事実なのだから。
それに珠月が金銭目当てではないことは、佐々木も十分承知している。

「それについては先日お伝えした通りで、受付が今、一名しかいないので、珠月さんさえよろしければすぐにでもお仕事をお願いしたいくらいです」
「はい！　お願いします！」
珠月が笑顔になり、圭一郎は、その頬を撫でる。
「珠月は優しいし人当たりがいいから。向いているよ」

病院の全体像を珠月につかんでおいてもらうのは、悪くはない。
それに北高会病院の受付の制服は、非常に可愛い。
清潔感と親しみのある、そのパウダーピンクのワンピースは珠月に似合うだろう。