鳥籠の中で君を愛する

如月 そら

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離さない

離さない③

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「聞こえるの?」
「気をつけているよ。それにここはすごく静かだからね。家の中なら聞こえるはずだよ」
「良かったら、シャワーしたら呼ぶけど」
「ダメ。大きな声を出すのも体力を使うから。気にせずそれで呼んで」

圭一郎はそっと布団を避けて、珠月の足元に巻かれていた包帯を解きだす。
その手つきは確かに慣れていて、てきぱきとしたものだった。

「普段は看護師さんにやってもらうからね、俺はあまり上手くないんだけど」
「そうかな。上手だと思うけど……」

「まあ、普通の人よりは、ね」
いつも、こんなに甘やかされていたんだろうか。

「圭さん……」
「んー?」
「ありがとう。あなたがいてくれて良かった」

思わず、といった感じで圭一郎が顔を上げる。
一瞬だけ泣きそうな風にも見えた。

「珠月……」
この人が珠月、と自分のことを呼んでくれる雰囲気は確かに好きだ。

「なんで覚えてないのかしら。早く思い出したい……」
ついそんな本音がぽろっとこぼれてしまう。
二人は一体どんな恋人同士だったのだろうか?
「珠月、大丈夫。きっとすぐに思い出すから。焦らなくていい」

圭一郎は珠月の両手をそっと取った。
とても綺麗な形の唇に、その指先を持っていく。

指先に軽く、唇をつけられた。
珠月はどきん、とする。
珠月を見る圭一郎と目が合った。その妖艶さに、珠月の鼓動はさらに跳ね上がる。

「……っ」
「いや……?」

両手を圭一郎に包まれたまま、そっと聞かれる。

珠月は、ふるふるっと首を横に振った。
いやな訳がない。
きしっとベッドの音を立て、圭一郎が珠月に近づく。

その綺麗な顔に、珠月は釘付けになってしまっていた。
珠月の手から離れた圭一郎の指が、今度は珠月の頬を撫でる。
ふっ……と笑った彼は、珠月の顔を両手で包み額に軽くキスを落とした。

ついきゅうっと目を瞑ってしまっていた珠月の頬をまた軽く撫でて、くすっと笑った気配がする。

「そんなに硬くならないでよ。何もしないよ」
「違うのっ。そうじゃなくて」
「ん?」
「圭さん素敵だから、つい緊張しちゃうんです」

「君がそんなことを言ってくれるなんて」
「本当のことなのに」
「照れるからやめて」
圭一郎は本当に照れくさいようで、真っ赤になって珠月から顔を逸らしている。

最初は珠月が緊張していたはずなのに、その様子に珠月はつい笑ってしまった。
そんな珠月を見て、圭一郎は目を細めた。
「シャワー浴びておいで。ベルで呼んでくれるね?」
「はい」

甘えてもいいんだ。
そう思えて、珠月は今度は素直にそう返事をした。

シャワーを浴びて服を着替え、少し抵抗はあったもののベルを鳴らすと、程なくして圭一郎がドアをノックした。

「珠月、いい?」
「はい」
珠月はベッドの端に腰掛けて、座る。
「痛みはどう?」
そう言って珠月の足に触れる様子は、医師そのものだ。

なのに珠月の足元に膝まづいて確認されると、ドキドキしてしまう。
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