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あの時のこちら側
あの時のこちら側③
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しかし子供と違うのは、近いですと照れている様子がこちらの劣情を煽るところと、抱き合う程に近い距離だと何だかいい匂いがする事だろう。
いい匂いがすると言っても本人は何もつけていない、とくんくんしているだけだ。
ではシャンプーか柔軟剤か、そのようなものだとは思うが、結衣のいいところはそれだけではない。
今日の服も表情もとても良くて、素直に褒めたら、褒めすぎだと照れてしまう。
でも褒められて嬉しそうだったので、ご褒美下さいと言ってみた。
「なんですか、それ」
結衣がくすくす笑っている。
「耳を貸して?」
少しだけ迷った様子はあったけれど、結衣は素直に首を傾げた。
ちょっと距離を縮めたい。
けれど、それだけではなくて、いちばんは聞いてみたいのだ。
結衣のその声で自分の名前を呼んで欲しい。
「名前で、呼んで?」
結衣の身体がぴくっと揺れる。
蓮根の呼んでほしい、に少なからず官能の匂いを感じ取ったのかもしれない。
声フェチの蓮根に、人の声を聞くプロフェッショナルである結衣。
気付いたかもなとは思ったけれど、無邪気を装って、ん?と結衣に向かって首を傾げて見せる。
とても、とても戸惑っているし、それが越えてもいいラインなのかどうか、非常に慎重に判断している様子だ。
その警戒心は正しい。
けれど、蓮根は結衣が優しいことも知っている。
「涼真って、言って?」
蓮根にとってはそれだけでも前戯のようなものだ。
「涼真さん……」
恥じらいながらのそれは、下半身にくる。
「は……あっ、すごくいい」
つい、熱い息が漏れてしまった。
大好きな人が大好きな声で自分の名前を恥じらい気味に呼ぶ。
良すぎるだろう。
「結衣さん、お願いです。もう1回」
「なんか、やだ」
「お願いします。もう1回だけ!」
そこで蓮根は逃がさない、とばかりに結衣をぎゅうっと抱きしめた。
ふと気付くと、腕の中の結衣が赤くなっている。
蓮根としては特に照れてしまうような要素はなかったと思っていたので、体調が悪いのかと一瞬心配になった。
「変なんです、私。声フェチとかじゃないのに蓮根先生の声にはどきどきします。それにあんなふうにぎゅってしたら、先生こそいい香りなんです!」
おや……?
「結衣さん……僕の声好きなんですか?」
「分かりません。今までそんなこと考えたことないから。でも……どきどきするんです」
何を言っているのか、分かっているのだろうか。
思い当たることがあるとすれば、結衣の感応性の高さだ。
どういう環境で身についたものか分からないが、結衣は相手の言葉や、それ以外のものから相手の状況を察することに長けている。
相手のことを自分の事のように、感じて察する能力が非常に高い。
だからこそ、非常時に対応する保険会社に向いているのだとは思うが。
蓮根が結衣を分析して思うのは、さらに感受性が豊かということだ。
おそらく最初の電話の時、蓮根が結衣の何を聞いていたのか、自然に汲み取っていたのではないかと思う。
『声』を聞いていた蓮根。
その『声』を聞かれているということに反応した結衣。
だから急に蓮根が発する声を聞こうとしている自分が訳分からなくて、こんなことを言い出しているのではないのか。
もちろん蓮根自身は意識的に、結衣を落とすことに全力を傾けている。
発している雰囲気も、声も動きも意識下でも無意識下でも結衣を落とそうとしている。
いい匂いがすると言っても本人は何もつけていない、とくんくんしているだけだ。
ではシャンプーか柔軟剤か、そのようなものだとは思うが、結衣のいいところはそれだけではない。
今日の服も表情もとても良くて、素直に褒めたら、褒めすぎだと照れてしまう。
でも褒められて嬉しそうだったので、ご褒美下さいと言ってみた。
「なんですか、それ」
結衣がくすくす笑っている。
「耳を貸して?」
少しだけ迷った様子はあったけれど、結衣は素直に首を傾げた。
ちょっと距離を縮めたい。
けれど、それだけではなくて、いちばんは聞いてみたいのだ。
結衣のその声で自分の名前を呼んで欲しい。
「名前で、呼んで?」
結衣の身体がぴくっと揺れる。
蓮根の呼んでほしい、に少なからず官能の匂いを感じ取ったのかもしれない。
声フェチの蓮根に、人の声を聞くプロフェッショナルである結衣。
気付いたかもなとは思ったけれど、無邪気を装って、ん?と結衣に向かって首を傾げて見せる。
とても、とても戸惑っているし、それが越えてもいいラインなのかどうか、非常に慎重に判断している様子だ。
その警戒心は正しい。
けれど、蓮根は結衣が優しいことも知っている。
「涼真って、言って?」
蓮根にとってはそれだけでも前戯のようなものだ。
「涼真さん……」
恥じらいながらのそれは、下半身にくる。
「は……あっ、すごくいい」
つい、熱い息が漏れてしまった。
大好きな人が大好きな声で自分の名前を恥じらい気味に呼ぶ。
良すぎるだろう。
「結衣さん、お願いです。もう1回」
「なんか、やだ」
「お願いします。もう1回だけ!」
そこで蓮根は逃がさない、とばかりに結衣をぎゅうっと抱きしめた。
ふと気付くと、腕の中の結衣が赤くなっている。
蓮根としては特に照れてしまうような要素はなかったと思っていたので、体調が悪いのかと一瞬心配になった。
「変なんです、私。声フェチとかじゃないのに蓮根先生の声にはどきどきします。それにあんなふうにぎゅってしたら、先生こそいい香りなんです!」
おや……?
「結衣さん……僕の声好きなんですか?」
「分かりません。今までそんなこと考えたことないから。でも……どきどきするんです」
何を言っているのか、分かっているのだろうか。
思い当たることがあるとすれば、結衣の感応性の高さだ。
どういう環境で身についたものか分からないが、結衣は相手の言葉や、それ以外のものから相手の状況を察することに長けている。
相手のことを自分の事のように、感じて察する能力が非常に高い。
だからこそ、非常時に対応する保険会社に向いているのだとは思うが。
蓮根が結衣を分析して思うのは、さらに感受性が豊かということだ。
おそらく最初の電話の時、蓮根が結衣の何を聞いていたのか、自然に汲み取っていたのではないかと思う。
『声』を聞いていた蓮根。
その『声』を聞かれているということに反応した結衣。
だから急に蓮根が発する声を聞こうとしている自分が訳分からなくて、こんなことを言い出しているのではないのか。
もちろん蓮根自身は意識的に、結衣を落とすことに全力を傾けている。
発している雰囲気も、声も動きも意識下でも無意識下でも結衣を落とそうとしている。
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