34 / 70
あの時のこちら側
あの時のこちら側①
しおりを挟む
──そう言えば、ここ数ヶ月、私服で出かけることはなかったな。
蓮根はクローゼットの前で両腕を組んで、考える。
高槻結衣の正式な年齢は知らない。
先日、ランチを取り、自宅まで送り届けた際の私服はオフホワイトのニットワンピースで、彼女の清楚な雰囲気にとても似合っていた。
5~10歳位の年齢差だろうか。
全ての反応が初々しかったなと思い返すと、休みの日に会えることは楽しみで仕方ない。
本当にこんなことは、最近なかった気持ちだ。
行先は決めていた。
たまたま偶然なのだが数年前に購入したリゾートマンションが、結衣のセンターから1時間ほどの場所にある。
周りに観光地もあることは知っているが、行ったことはない。
そもそも、ここ数ヶ月間で久しぶりの休みなのだ。
『私でいいんですか?』
ドライブに行きたいと言ったらそんな返事があって、声に戸惑いがあった。
「結衣さんと行きたい」
『……っ!』
軽く、息を飲む音。
やはり、いい。
息を飲むそれだけでも……
いや、そんな風に駆り立てられるから堪らないのだ。
彼女にとってはたいして意味のない言葉かも知れない。
でも彼女から発せられるものであれば、意味があろうがなかろうが愛おしく感じるし、言ってくれる言葉には素直に喜べる。
可能であれば、もっと声を聞きたい。
けれど結衣は忙しいし、責任感もある。
蓮根は結衣の声が、本当に好きなのだ。
仕事仕様で澄ましている声も、自然に笑っている声も、すごーいと感心している声も。
そして困っている声も、吐息すら……。
蓮根は軽くため息をつく。
──キリがない。
本当に最初は声の持ち主が知りたいだけだった。
それが、出会ったらその姿にも惹かれてしまったのだ。
声だけでも完璧だったのに、最初個室に二人取り残されて、少し困ったような様子を見ていたら、もう少し話してみたくなった。
もっと聞かせてほしい。
仕事のときには、動揺したり困った様子は多分見せないはずだ。
あの時の感じから、仕事中はプロに徹していることは分かる。
実物は目の前で困ったりするのかと思うと当然なのだが、その戸惑っている様子は可愛くて愛おしくて、とても欲しくなってしまった。
最近、そのように思うことはなかった。
仕事が忙しかったし、適度に女性も側にいた。
今は仕事が忙しすぎて、そんな風に女性が欲しいとも思ったことはなかったし、必要な場合はすぐに呼び出せる割り切った関係の相手もいた。
だから、そんな気持ちになった自分に驚いたし、こんなことはいつ起こるか分からない。
そう思うと、なりふり構うつもりはなかった。
そんな、自分に苦笑したのだ。
一日だけでも、側にいたいだけ。
それが今後ももっと会いたいとなり、たまに話せるだけでもいい、がもっと会いたい、に変わって。
もっともっと、と欲しがる自分の欲しい気持ちは底無しな気がして、怖いと思いつつその深淵を覗いてみたいとも思う。
厄介だな。
嫌なら、いつでも拒まれて構わないのだ。それもやむない。
けれど結衣の優しい、思いやりある性格ではおそらく無理だろう。
蓮根はそれを察している。
(知ってて、引かないんですよ)
彼女の弱みにつけ込んででも、彼女が欲しい。
今は定期的に連絡をし、休みの日に会ってもらえる所まで来た。
次は、どうしましょうね……?
蓮根はクローゼットの前で両腕を組んで、考える。
高槻結衣の正式な年齢は知らない。
先日、ランチを取り、自宅まで送り届けた際の私服はオフホワイトのニットワンピースで、彼女の清楚な雰囲気にとても似合っていた。
5~10歳位の年齢差だろうか。
全ての反応が初々しかったなと思い返すと、休みの日に会えることは楽しみで仕方ない。
本当にこんなことは、最近なかった気持ちだ。
行先は決めていた。
たまたま偶然なのだが数年前に購入したリゾートマンションが、結衣のセンターから1時間ほどの場所にある。
周りに観光地もあることは知っているが、行ったことはない。
そもそも、ここ数ヶ月間で久しぶりの休みなのだ。
『私でいいんですか?』
ドライブに行きたいと言ったらそんな返事があって、声に戸惑いがあった。
「結衣さんと行きたい」
『……っ!』
軽く、息を飲む音。
やはり、いい。
息を飲むそれだけでも……
いや、そんな風に駆り立てられるから堪らないのだ。
彼女にとってはたいして意味のない言葉かも知れない。
でも彼女から発せられるものであれば、意味があろうがなかろうが愛おしく感じるし、言ってくれる言葉には素直に喜べる。
可能であれば、もっと声を聞きたい。
けれど結衣は忙しいし、責任感もある。
蓮根は結衣の声が、本当に好きなのだ。
仕事仕様で澄ましている声も、自然に笑っている声も、すごーいと感心している声も。
そして困っている声も、吐息すら……。
蓮根は軽くため息をつく。
──キリがない。
本当に最初は声の持ち主が知りたいだけだった。
それが、出会ったらその姿にも惹かれてしまったのだ。
声だけでも完璧だったのに、最初個室に二人取り残されて、少し困ったような様子を見ていたら、もう少し話してみたくなった。
もっと聞かせてほしい。
仕事のときには、動揺したり困った様子は多分見せないはずだ。
あの時の感じから、仕事中はプロに徹していることは分かる。
実物は目の前で困ったりするのかと思うと当然なのだが、その戸惑っている様子は可愛くて愛おしくて、とても欲しくなってしまった。
最近、そのように思うことはなかった。
仕事が忙しかったし、適度に女性も側にいた。
今は仕事が忙しすぎて、そんな風に女性が欲しいとも思ったことはなかったし、必要な場合はすぐに呼び出せる割り切った関係の相手もいた。
だから、そんな気持ちになった自分に驚いたし、こんなことはいつ起こるか分からない。
そう思うと、なりふり構うつもりはなかった。
そんな、自分に苦笑したのだ。
一日だけでも、側にいたいだけ。
それが今後ももっと会いたいとなり、たまに話せるだけでもいい、がもっと会いたい、に変わって。
もっともっと、と欲しがる自分の欲しい気持ちは底無しな気がして、怖いと思いつつその深淵を覗いてみたいとも思う。
厄介だな。
嫌なら、いつでも拒まれて構わないのだ。それもやむない。
けれど結衣の優しい、思いやりある性格ではおそらく無理だろう。
蓮根はそれを察している。
(知ってて、引かないんですよ)
彼女の弱みにつけ込んででも、彼女が欲しい。
今は定期的に連絡をし、休みの日に会ってもらえる所まで来た。
次は、どうしましょうね……?
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
社内恋愛にご注意!!
ミミリン
恋愛
会社員の平井マコ(26)は同じ社内の先輩、田所義明(28)と同棲中。そろそろ結婚を視野に入れて幸せな生活を送っていた。
けど、最近彼氏と気持ちが上手く噛み合っていないと思ってしまうことも…。そんなことない!と幸せな結婚に向けて頑張るマコ。
彼氏をデートに誘ったり、食事を作ったり、業務外で仕事を手伝ったりと健気に行動するマコだが…。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる