12 / 70
うに鍋とシフォンケーキ
うに鍋とシフォンケーキ①
しおりを挟む
「おはようございます!」
結衣がキャスターを引いて、ホテルのロビーに降りると、ロビーで新聞を広げていたその人が爽やかに微笑んで立ち上がり、結衣の方にやって来る。
ロビーで一際目立つ、その姿。
立ち上がると、スタイルの良さがまたさらに存在感を煽る。
品のあるざっくりとしたグレーのニットと、黒のパンツの組み合わせは、シンプル故に、着る人のセンスを問われる姿だ。
私服、素敵ですね……。
てか、どうしてここにいるのかなぁ?
「おはようございます。蓮根先生」
「今日も素敵ですね、結衣さん」
声が?
笑顔も引き攣りそうだ。
「ありがとうございます」
いえいえ、こちらは支店の重要顧客。
わたくし如きが、怒らせてはいけない相手です。
「蓮根先生、どうされたんですか?」
「今日はご予定は?」
「少し、銀ブラでもしてから、帰ります」
「ご一緒しましょう」
「そんな、お忙しい先生のお時間をいただく訳には……」
それは、結衣なりのお断り、だったのだが。
「奥ゆかしい人ですね、あなたは」
ガン無視である。
しかも、
ほんっとに、囁くの、やめてもらっていいですか!!
「大丈夫ですから」
「僕のことは気にしなくていいんですよ。そうだ、せっかくだから、お昼をご一緒しましょう。銀座ならいいお店があります」
聞いてないのかな。
結衣はすうっと息を吐く。
「蓮根先生……本当にお気遣い嬉しいんですけど、そんな事をして頂いたら、会社に怒られてしまいます。お気持ちだけで充分です」
結衣は少し、俯き加減におしとやかに言ってみる。
NOと言わずに、断る!
しかも、お仕事モード全開だ。
分かるよね!大人なんだし。
察するよね!普通。
気持ちだけで充分て、断り文句だよね!
「結衣さん。そんな僕とあなたの間にそんな水くさい。気持ちだけでは、伝えたいことも伝わりません。僕は伝えたいことは形にする主義です」
マジ、主義とかどーでもいいわ。
結衣の伝えたいことは、むしろ全く伝わっていない。
「昨日、あなたが僕のことを知りたい、と言って下さって、こうふ……いや、嬉しくて寝られませんでした。今日はぜひ、僕のことを知ってほしいんです」
品があり、甘やかな雰囲気。
けど、興奮……とか言おうとしました?今……。
え?知りたいとか言ってないよ?
「知りたいって言いました? 私?」
「存じ上げないって、そういう意味ですよね?」
存じ上げない。つまり、知らないからの知りたい??
曲解!!察しないくせに、その曲解!
この人の頭はどうなっているのだろうか。
税理士なんてしてるくらいだから、頭はいいはず。
うん、回転のよさはすごく感じる。
ただ……方向が、違うんだよー。
「雲丹鍋とか食べたことありますか?」
「うになべ……?」
しまったぁ!つい、聞き返してしまった!
だって、だって、雲丹鍋だよ?!
興味津々だよー。
にこっと笑った蓮根が、スマホの画面で雲丹鍋なるものを見せてくれる。
その写真は、オレンジ色の雲丹出汁と、品のある白身魚が綺麗に添えられていた。
何これ、すっごく美味しそう。
「雲丹の出汁の入った鍋に海鮮をしゃぶしゃぶにして頂くんです。締めの雑炊は絶品ですよ。少し、ブラブラしたら小腹空きますよね。ランチに雲丹鍋。その後少しお茶して、お送りしますよ。シフォンケーキ、お好きですか?」
負けた……。
うに鍋とか、シフォンケーキとか、勝てる気がしない。
絶対、無理じゃん。
結衣がキャスターを引いて、ホテルのロビーに降りると、ロビーで新聞を広げていたその人が爽やかに微笑んで立ち上がり、結衣の方にやって来る。
ロビーで一際目立つ、その姿。
立ち上がると、スタイルの良さがまたさらに存在感を煽る。
品のあるざっくりとしたグレーのニットと、黒のパンツの組み合わせは、シンプル故に、着る人のセンスを問われる姿だ。
私服、素敵ですね……。
てか、どうしてここにいるのかなぁ?
「おはようございます。蓮根先生」
「今日も素敵ですね、結衣さん」
声が?
笑顔も引き攣りそうだ。
「ありがとうございます」
いえいえ、こちらは支店の重要顧客。
わたくし如きが、怒らせてはいけない相手です。
「蓮根先生、どうされたんですか?」
「今日はご予定は?」
「少し、銀ブラでもしてから、帰ります」
「ご一緒しましょう」
「そんな、お忙しい先生のお時間をいただく訳には……」
それは、結衣なりのお断り、だったのだが。
「奥ゆかしい人ですね、あなたは」
ガン無視である。
しかも、
ほんっとに、囁くの、やめてもらっていいですか!!
「大丈夫ですから」
「僕のことは気にしなくていいんですよ。そうだ、せっかくだから、お昼をご一緒しましょう。銀座ならいいお店があります」
聞いてないのかな。
結衣はすうっと息を吐く。
「蓮根先生……本当にお気遣い嬉しいんですけど、そんな事をして頂いたら、会社に怒られてしまいます。お気持ちだけで充分です」
結衣は少し、俯き加減におしとやかに言ってみる。
NOと言わずに、断る!
しかも、お仕事モード全開だ。
分かるよね!大人なんだし。
察するよね!普通。
気持ちだけで充分て、断り文句だよね!
「結衣さん。そんな僕とあなたの間にそんな水くさい。気持ちだけでは、伝えたいことも伝わりません。僕は伝えたいことは形にする主義です」
マジ、主義とかどーでもいいわ。
結衣の伝えたいことは、むしろ全く伝わっていない。
「昨日、あなたが僕のことを知りたい、と言って下さって、こうふ……いや、嬉しくて寝られませんでした。今日はぜひ、僕のことを知ってほしいんです」
品があり、甘やかな雰囲気。
けど、興奮……とか言おうとしました?今……。
え?知りたいとか言ってないよ?
「知りたいって言いました? 私?」
「存じ上げないって、そういう意味ですよね?」
存じ上げない。つまり、知らないからの知りたい??
曲解!!察しないくせに、その曲解!
この人の頭はどうなっているのだろうか。
税理士なんてしてるくらいだから、頭はいいはず。
うん、回転のよさはすごく感じる。
ただ……方向が、違うんだよー。
「雲丹鍋とか食べたことありますか?」
「うになべ……?」
しまったぁ!つい、聞き返してしまった!
だって、だって、雲丹鍋だよ?!
興味津々だよー。
にこっと笑った蓮根が、スマホの画面で雲丹鍋なるものを見せてくれる。
その写真は、オレンジ色の雲丹出汁と、品のある白身魚が綺麗に添えられていた。
何これ、すっごく美味しそう。
「雲丹の出汁の入った鍋に海鮮をしゃぶしゃぶにして頂くんです。締めの雑炊は絶品ですよ。少し、ブラブラしたら小腹空きますよね。ランチに雲丹鍋。その後少しお茶して、お送りしますよ。シフォンケーキ、お好きですか?」
負けた……。
うに鍋とか、シフォンケーキとか、勝てる気がしない。
絶対、無理じゃん。
0
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
【完結】あなたに恋愛指南します
夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。
お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。
少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり……
純真女子の片想いストーリー
一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男
ムズキュンです♪
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜
玖羽 望月
恋愛
親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。
なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。
そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。
が、それがすでに間違いの始まりだった。
鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才
何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。
皆上 龍【みなかみ りょう】 33才
自分で一から始めた会社の社長。
作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。
初出はエブリスタにて。
2023.4.24〜2023.8.9
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる