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折り返し致します

折り返し致します③

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結衣はリーディングルームは最後の砦でもあると思っているのだ。

今日の30分の電話の内容はスタッフが親身になって話を聞いていたようで、場合によっては長くなってしまうこともあるけれど、概ね親切なその対応はいいなと結衣は思った。

ここに来て知ったことなのだが、やはり最前線であるコールセンターの業務はハードなのである。

しかし、生の声を聞くその仕事はやりがいもある。
長い電話の全てがクレームという訳ではなく、中には寂しさのあまり話が長くなってしまったり、夜中に電話をかけてくる常連さんもいる。

まさに人っていろいろだよね、と言いたくなるのがこのコールセンターだ。

結衣は最後に、明日自分が対応しなくてはいけない今日の案件である、蓮根涼真の顧客情報を確認するためにリーディングルームでパソコンを操作していた。
顧客データからは、蓮根の登録先には車数台の契約もあるようだが、保有している法人が代理店登録されている。

──あれ? 代理店さん?
……ということは、関係者ということになるが。

今度はその登録されている蓮根の代理店としての、内容を確認する。
顧客の人数は少ないけれど、個人のロットが大きく、場合によっては自分の会社の営業が個別対応している案件もあるようだ。

それはつまりこの蓮根涼真はすねりょうまという人物は、会社を経営していて、その会社が車を数台保有しており、その客先は富裕層であるということだ。

営業が個別対応しているのは、総合提案している先があるということだろう。

──何やってる人なんだろ?
データに上っている職業は『税理士』と記載されている。

(なるほど。道理で)
結衣は自分が対応する前からのコールの内容をログから確認してみる。

事故を起こしたところから、名前や所在地、相手の情報など、蓮根は落ち着いて話している。
たしかに困らせようという意図はなかったようだ。

けれど対応していたのが社歴の浅いスタッフであったこともあり、イレギュラーの対応に困ったというだけのようだった。

蓮根は冷静に話をしてくれている。
むしろ怒り出すような人でなくてよかったかも。

スタッフにはこういう時はSVを呼んでいいよーとだけ言おう、とログを切ろうとした瞬間、ヘッドセットから聞こえた低めの声の、ふぅ……とつかれたため息に結衣はぞくっとした。

なに……今の……。
『仕方ないな。急いでいるし。君、名前は?』
『高槻と申します』
『フルネームは?』

その時は、うざっ!と思ったけれど、今改めて聞くとまたぞくんとする。

──な、なんだろ……。

低めの甘い声、ささやくような声は時折、掠れる。その掠れ具合も。
イヤホンで聞いていると腰のあたりがぞくぞくする。

(嘘でしょ)

このセンターに来て数ヶ月。
結衣はありとあらゆる『声』を聞いてきた。

どちらかと言うとこのセンターにかかってくる電話は、事故直後で少しパニック状態でかかってくることが多い。
事故などそうそう起きるものではないし、これからどうしたらいいんだろうと不安なことも多いからだ。

そんな中、この人は比較的落ち着いている方だった。

自分は声フェチではない……はずだ。
こんな風になったことはない。

『では高槻結衣さん。お電話お待ちします』耳元に響く甘くて低い声。
──この声に電話する……。

結衣は急にドキドキしてきた。今まで聞いたことのない、とてつもなく良い声の持ち主。
冷静に対応できるのだろうか?



代理店からは落ち着いたイタリア車を貸してくれる先が見つかったので、とりあえず抑えてあるが、どうするかと相談があった。

結衣はサービス課とも連絡を取り客先が希望した場合はそれで対応するとして、その後は案件はサービス課で引き取りますということで話がついた。

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