73 / 83
18.両親へのご挨拶
両親へのご挨拶④
しおりを挟む
家かと思ったら官舎だったらしい。
鷹條が説明していると、ちょうどパトロールにでも出ていたのか、パトカーが一台駐車場に戻ってくる。
「お疲れ様です!」
こちらに向かって大きな声で挨拶するのに、鷹條は軽く手を振った。
「お疲れ様です」
鷹條はまた亜由美に向かって話しかける。
「署長となると緊急時に対応しなくてはいけなくて、こうして警察署と署長官舎が敷地で繋がっているケースもあるんだ。表は普通なんだけどね?」
「驚いたわ……」
「そうだよな。警察署から見ても分からないようになっているし、表から見ても分からないのに、中では繋がっているんだ。面白いだろう?」
鷹條の言う通り、表からは全く分からなかった。
「祖父も退職直前は小さな所轄署の署長をしていて、そこの官舎も似たような造りだったな。敷地の隣が警察署でパトカーが出入りするんだ。子供にはたまらない遊び場だったよ。制服警察官は皆親切で、よく面倒を見てもらったし」
子供の頃の鷹條少年が目をキラキラさせながらパトカーに釘付けになっていたり、それを可愛がる制服警察官という光景も亜由美は想像するとなんだか微笑ましい気持ちになる。
「全ての警察署がこの造りになってるわけじゃない。都心は土地の関係もあるから官舎を少し離れたマンションで借り上げているケースもある。それでも徒歩圏内ではあるけど」
言われてみれば、緊急時に対応しなければいけない立場で、電車が停まっているから行けませんというのは言い訳にはならないのだなと分かる。
「こうやって、街を守ってくれてるのね……」
「まあ、そうだな」
確かに子供心にもそんな祖父や父親を間近で見ていて、尊敬の対象となり憧れるのも亜由美には理解できた。
「だから、警察官だったの?」
「まあ……そうだな」
鷹條は少し眩しそうな顔で警察署を見ていた。
「今の父のような立場だと夜昼構わずに警電が鳴る。都度対応しなければならないから、ほぼ休みはあってないようなものだ。旅行なんかももちろん行けない」
「警電?」
「警察電話。警察の業務専用通信回線の電話だよ。警察内部では警電って言って、会社でいう内線電話みたいな感じだな。署から連絡があることもあるし所轄管内からも管区からも連絡がある。父は寝る時も警電は枕元に置いてるよ」
鷹條の説明だとその警電というのは官舎に回線として敷いてあることになる。
鷹條の父はいつ鳴るか分からないその回線にいつでも対応できるようにしているということなのだろう。
「すごいのね……」
亜由美は知らなかった。そんな風にして自分達が守られていたなんて、聞かなかったらきっと知らないままだっただろう。
けれどきっと鷹條は子供の頃からそういう環境だったのだ。
「本来の実家は実家で別にあるんだ。正直……どちらに亜由美を連れて行くか迷ったけれど、一度こういうところも見ておいてほしくて。それに父が署長という立場じゃないとこんな警察官の裏なんて入り込めないからな?」
「貴重な経験だわ」
「父もあと三年で定年で、定年前の最後の奉公だと言ってる。だからその間にいい警官を育てたいそうだよ」
鷹條は普段は仕事については必要なこと以外ほとんど話さない。
こうやってたくさん話してくれるのが、信頼されているようで亜由美は嬉しかった。
「いい警官?」
「例えば、今日官舎に来ていたのは本当にまだ寮にいるような歴の浅い巡査なんだ。本来なら署長となんて直接話す機会はないよ。それでも触れ合う機会を作る。父は自分の経験を話したり、彼らの上司にも牽制になる」
「牽制……」
「男ばかりの世界だからな。どうしても他の業界より力関係が出やすい」
「あ、パワハラ的な?」
「そうだ。別に部下達は直接は父には何も言わないよ? それでもいつでも言えるっていう環境だけでも牽制になる。無茶をしないんだ」
鷹條が説明していると、ちょうどパトロールにでも出ていたのか、パトカーが一台駐車場に戻ってくる。
「お疲れ様です!」
こちらに向かって大きな声で挨拶するのに、鷹條は軽く手を振った。
「お疲れ様です」
鷹條はまた亜由美に向かって話しかける。
「署長となると緊急時に対応しなくてはいけなくて、こうして警察署と署長官舎が敷地で繋がっているケースもあるんだ。表は普通なんだけどね?」
「驚いたわ……」
「そうだよな。警察署から見ても分からないようになっているし、表から見ても分からないのに、中では繋がっているんだ。面白いだろう?」
鷹條の言う通り、表からは全く分からなかった。
「祖父も退職直前は小さな所轄署の署長をしていて、そこの官舎も似たような造りだったな。敷地の隣が警察署でパトカーが出入りするんだ。子供にはたまらない遊び場だったよ。制服警察官は皆親切で、よく面倒を見てもらったし」
子供の頃の鷹條少年が目をキラキラさせながらパトカーに釘付けになっていたり、それを可愛がる制服警察官という光景も亜由美は想像するとなんだか微笑ましい気持ちになる。
「全ての警察署がこの造りになってるわけじゃない。都心は土地の関係もあるから官舎を少し離れたマンションで借り上げているケースもある。それでも徒歩圏内ではあるけど」
言われてみれば、緊急時に対応しなければいけない立場で、電車が停まっているから行けませんというのは言い訳にはならないのだなと分かる。
「こうやって、街を守ってくれてるのね……」
「まあ、そうだな」
確かに子供心にもそんな祖父や父親を間近で見ていて、尊敬の対象となり憧れるのも亜由美には理解できた。
「だから、警察官だったの?」
「まあ……そうだな」
鷹條は少し眩しそうな顔で警察署を見ていた。
「今の父のような立場だと夜昼構わずに警電が鳴る。都度対応しなければならないから、ほぼ休みはあってないようなものだ。旅行なんかももちろん行けない」
「警電?」
「警察電話。警察の業務専用通信回線の電話だよ。警察内部では警電って言って、会社でいう内線電話みたいな感じだな。署から連絡があることもあるし所轄管内からも管区からも連絡がある。父は寝る時も警電は枕元に置いてるよ」
鷹條の説明だとその警電というのは官舎に回線として敷いてあることになる。
鷹條の父はいつ鳴るか分からないその回線にいつでも対応できるようにしているということなのだろう。
「すごいのね……」
亜由美は知らなかった。そんな風にして自分達が守られていたなんて、聞かなかったらきっと知らないままだっただろう。
けれどきっと鷹條は子供の頃からそういう環境だったのだ。
「本来の実家は実家で別にあるんだ。正直……どちらに亜由美を連れて行くか迷ったけれど、一度こういうところも見ておいてほしくて。それに父が署長という立場じゃないとこんな警察官の裏なんて入り込めないからな?」
「貴重な経験だわ」
「父もあと三年で定年で、定年前の最後の奉公だと言ってる。だからその間にいい警官を育てたいそうだよ」
鷹條は普段は仕事については必要なこと以外ほとんど話さない。
こうやってたくさん話してくれるのが、信頼されているようで亜由美は嬉しかった。
「いい警官?」
「例えば、今日官舎に来ていたのは本当にまだ寮にいるような歴の浅い巡査なんだ。本来なら署長となんて直接話す機会はないよ。それでも触れ合う機会を作る。父は自分の経験を話したり、彼らの上司にも牽制になる」
「牽制……」
「男ばかりの世界だからな。どうしても他の業界より力関係が出やすい」
「あ、パワハラ的な?」
「そうだ。別に部下達は直接は父には何も言わないよ? それでもいつでも言えるっていう環境だけでも牽制になる。無茶をしないんだ」
69
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
My HERO
饕餮
恋愛
脱線事故をきっかけに恋が始まる……かも知れない。
ハイパーレスキューとの恋を改稿し、纏めたものです。
★この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる