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14.このままでは済まさない

このままでは済まさない②

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 鷹條が発見した手紙は開封しないで、そのままビニール袋で保管していたのだが、証拠品として提出する際、確認をしていた。

 鑑識に渡す時に中身を確認したいので開封してほしいと言われたのだ。

 亜由美は開けたくないと言ったため、亜由美の許可を受け鷹條がその場で鑑識から手袋を借りて開封したのだ。

 中に入っていたのは前回と同じく写真。しかし今回は写真だけではなく手紙が添えられていた。

『別れろ!』
 白い便せんに大きく印刷された文字が見えた。一緒にいた亜由美が隣で息を呑んだ音が聞こえる。

 写真は鷹條と一緒に買い物しているときのものまで含まれていた。

 鷹條は自然と眉間にシワが寄っていた。
 純粋な悪意は力がある。
 こんなものを亜由美に一人で開けさせることをしないで済んで本当によかったと心から思った。

 その時のことを鷹條は思い出す。

「警察組織自体を脅したことと同意です」
 久木の低い声が会議室に響いて、鷹條はハッとした。久木の表情は一層厳しいものとなっている。

 鷹條もその写真を見た時にこのままでは終わらないことを察していた。
 写真に鷹條が映っていることで鷹條も被害者と判断されることになる。

 ──『警察官が被害者』
 その時点ですでに特殊なケースとなり、久木よりもさらに上の局長クラスにまで報告が上がっているはずだ。

 昨今の時節柄、特にストーカー被害については警察も力を入れている。難しい事案だからと回避することはできない。場合によっては命にも関わることだ。

 それを置いておいたとしても鷹條が被害者に含まれると判断されることは、通常の事件の対応とは全く違う事態になる。

 警察官である鷹條が被害に遭うということは、警察自体を貶めようとしている可能性があると判断され、すでに組織対応することが決まっていた。

 警察官には確かに縛りも非常に多く、不自由なことも多い。それは治安を維持する機能を持っている組織として仕方のないことなのだ。

 しかし一旦所属している警察官が標的となれば、警察は組織に対して害意を持っていると判断し対応する。

 それを身内意識などと言うものがいるが、それは違う。
 あくまでも治安を維持する組織としての対応なのだ。

 治安維持に害意を持っているとも判断される。おそらく今回の犯人はそこまで考えてはいなくて、単なる亜由美のストーカーなのだとは思うが、組織にその言い訳は通用しない。
 それが鷹條が属する組織だ。

 あったことをあったと証明することはとても簡単なことだが、なかったことをなかったと証明することは実はとても難しい。

 つまり犯人が『そんな意図はありませんでした』と言っても、それを証明することは難しいということだ。

『本当は怖かった……』
 亜由美はそう言って震えていた。それがすべての被害者の本音なのだろうと思う。
 鷹條に容赦する気持ちは一切なかった。

「ところで手紙については破損しても構わないと杉原さんからは聞いていますが」
「要らないでしょうから」

「一部DNAが取れる可能性があるそうです」
 鷹條も研修の中で鑑識については学んでいる。だからこそ、手紙の取り扱いはかなり慎重にしたのだ。

「鑑識に聞いたところ体液が採取できる可能性があるそうです。一般的にあの手のことをやらかす時は興奮状態にあって、汗その他の体液を残しやすい。まだ検分していないが、封筒の糊部分を舐めていたりしたら最高なのですがね」

 それにしても手紙からDNAの採取ができるとまでは思わなかった。鷹條が思い至ったのは指紋を破損しないようにすることくらいだったからだ。

「もちろん鷹條くんのおかげで指紋はしっかり取れています。けどそれだけでは証拠にならないこともご存知ですね?」
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