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12.必ず護る

必ず護る③

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 他のポストからはそんな風にはみ出すような郵便物はない。鷹條は昨日の夜のことを思い返していた。

 買い物に立ち寄って帰ったあと、亜由美がポストから郵便物を取り出していたのを確かに見た。

 夜から朝までの間に郵便物が配達されることは考えづらい。少し雑な放り込まれ方をされているのも気になった。

 鷹條は嫌な予感がして、その封筒にあまり触れないように角の部分をそっとつまんで封筒を取り出す。

 封筒の表面には住所の記載がなく
『杉原 亜由美様』
 とだけ印刷されていた。端正な鷹條の眉がすうっと寄った。

 鷹條は口元を引き結ぶ。
「初めてか?」
 真っ青な顔色の亜由美は首を横に振る。

「前にも来ていたんだな」
 気づけなかったことに鷹條は歯噛みしたいような思いだった。

 ◇◇◇

(コーヒーにミルクが欲しいな)

 亜由美は近くのコンビニエンスストアに買い物に行くことにする。
 買い物を終えマンションに戻って部屋に入ろうかと思ったが、そろそろ鷹條が帰ってくる頃だろう。

 カギがいつものように自宅ドアのポストに入っていたので、オートロックを開けるのなら待っていて一緒に戻ろうと思ったのだ。

 きっと亜由美が待っているのを見たら喜ぶ。
 そんな気持ちで少しわくわくしながら待っていた。

 部屋に入っていればいいのにとか言いながらも嬉しそうな鷹條の顔が見たかった。

 それはひどく目を引いた。
(あ……れ?)
 集合ポストからはみ出ていた封筒だった。亜由美の部屋のポストだと気づく。

 その瞬間顔から血の気が引いたように思った。

 以前に投函されていたものと同じものではないのだろうか?
 そう思うと亜由美は動けなくなる。

 その時マンションの前に鷹條が姿を現した。一緒嬉しそうな表情を見せたが、亜由美の様子に気づいて駆け寄ってくる。

「どうした? なにかあったのか?」
「ポストに……」

 亜由美は指を差すことしかできなかった。
 ポストを目にした鷹條の眉がふっと寄る。

「初めてか?」
 そう言った鷹條の表情がみるみるうちに真剣なものとなる。
 亜由美は首を横に振る。

 顔を強ばらせた鷹條には空気までピリッと引き締まるように亜由美は感じた。
「それ、まだ持っているか?」
「ええ。捨ててしまおうかとも思ったんだけれど、念のために……」

 なるべく封筒に直接触れないようにしながら手紙を持つ鷹條に亜由美の戸惑いは大きくなる。

 エレベーターの中で亜由美は鷹條に尋ねられた。
「つまりこれは一通目ではないんだな? 何度も来ているか? 中身は確認したか?」
 
 鷹條の矢継ぎ早の質問に亜由美は頷く。
「前のは開けて見てみたわ。写真が入ってたの。私を写したものが入ってた。コンビニにいるときのものとか、本屋さんで買い物しているときのものだったと思う」

「持っているんだな?」
 こくりと亜由美は頷いた。確か、状差しに入れたはずだ。それはリビングのカウンターの端の方に置いてある。

「状差しに入れてあったはずよ」
「何回目だ?」
「二回目だわ」

「分かった。部屋に入ったら見せてくれるか?」
「うん」
 エレベーターの中、手紙を持っていない方の手で鷹條は亜由美を抱き寄せた。

 亜由美は寄り添ってぎゅっと鷹條の服を握る。
「大丈夫」
 力強い声で言って、鷹條はもう一度亜由美の肩を抱いてくれた。

 部屋に入ると鷹條はリビングに向かう。
「手紙を見ていいか?」
「ええ。もちろん」

 手紙を渡そうと亜由美はカウンターに向かい、状差しに手を伸ばすとその手を鷹條に掴まれる。

「触れないでくれ。そのまま待っていてくれるか?」
「はい」

 何が起こっているか分からないが、とんでもないことが起きているのかもしれない。今は鷹條の指示に従うしかない。
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