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11.水も滴る……
水も滴る……③
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けど鷹條に迷惑がかかるかもしれないと思うとどうにも口を開くことができない。
(あの後は何もなかったのだし)
迷っているうちにマンションに着いてしまった。
きっとタチの悪いイタズラだったのだと思うことにした。
亜由美のマンションに到着すると、亜由美は早速エプロンを着け下ごしらえを始めた。鷹條は買ってきたものを冷蔵庫やストックに収納してくれている。
(これって、ちょっと新婚夫婦みたいかも……)
そう思うと亜由美は少し気持ちが浮き立つ。
「千智さん、良かったらお風呂に入ってきてね。出来上がるにはまだ時間もかかるから」
玉ねぎをフードプロセッサーに投入しながら亜由美は鷹條に声をかけた。
それなのに鷹條は軽く腕まくりしてキッチンに入ってくる。
「手伝うよ」
「ではタネができたらお手伝いをお願いします」
「子供扱いか?」
鷹條が拗ねたような表情を見せ、亜由美を後ろから抱きしめた。
そんな風にされてしまうと亜由美は身動きできなくなってしまう。
「準備できない、よ?」
「本当のことを言え」
この人に隠し事なんてできるわけがなかった。
「あの……千智さんは出張で疲れているかなって」
「まあ、そんなことだろうと思ったよ。俺も一人暮らし歴は長いから手伝える」
正直に言った亜由美を鷹條は解放することにしたようだ。
そこまで言われてしまったのだから、亜由美は素直に甘えることにした。
あめ色の玉ねぎはたくさん作っておけば他の料理にも使える。亜由美はフードプロセッサーからみじん切りされた玉ねぎを出した。
「後ろのラックにガラスの器があるので、ラップしてレンチンしてもらっていいかしら?」
「了解」
こうして二人でキッチンに立つことは初めてだったが、鷹條の気遣いは自然だった。
「次は?」
と柔らかく亜由美に聞いてくれる。
「ああ、なるほど。レンチンは時短のためか。あとは弱火で炒めればいいか?」
察しがいいのも手際がいいのも、亜由美にはとても心地良いことだった。
「亜由美、なんかこれすごく量が多くないか?」
ボウルにできあがったハンバーグのタネの量を確認して、鷹條は首を傾げる。
それは二人分をはるかに越える量だった。
「あ、そうなの。焼いて冷凍しておくとね、いつでも食べられるの。千智さん、良かったら持って帰らないかなって」
「え?」
(ん? 余計なお世話だったかしら?)
大量に作ったハンバーグのタネを次から次に焼いてゆく亜由美だったのだが、それが自分のためだったと知って、鷹條は亜由美を抱きしめる。
「無理するなって言った」
「えー? 作り置きは無理じゃないでしょ?」
「どうしよう。すげー嬉しい。俺の彼女優しくて可愛くて、よく気がつき過ぎる」
余計なお世話ではなかったと知って、亜由美は笑顔になった。
「大袈裟ね」
「本当のことだ。絶対持って帰る。大事に食べる」
「いくらでも作るから」
一緒にキッチンに立って料理をして、一緒に食事をして、鷹條は片付けまで一緒にしてくれた。
「さて、あとは……風呂か?」
鷹條の亜由美を見る視線にたっぷりと艶が含まれているような気がする。
「せっかくだから一緒に入るよな? 亜由美?」
「あの、もしかしてさっきお風呂に入らなかったのって……」
亜由美は鷹條をじっと見返す。鷹條は顔色一つ変えずに、なんなら口元に笑みすら浮かべてしれっと返した。
「もちろんこのためだな」
「お手伝いしてくれたのかと思っていたのに」
「一緒にいたいんだって。そういうのは一石二鳥というんだろ」
口調に甘さが含まれている。
(あの後は何もなかったのだし)
迷っているうちにマンションに着いてしまった。
きっとタチの悪いイタズラだったのだと思うことにした。
亜由美のマンションに到着すると、亜由美は早速エプロンを着け下ごしらえを始めた。鷹條は買ってきたものを冷蔵庫やストックに収納してくれている。
(これって、ちょっと新婚夫婦みたいかも……)
そう思うと亜由美は少し気持ちが浮き立つ。
「千智さん、良かったらお風呂に入ってきてね。出来上がるにはまだ時間もかかるから」
玉ねぎをフードプロセッサーに投入しながら亜由美は鷹條に声をかけた。
それなのに鷹條は軽く腕まくりしてキッチンに入ってくる。
「手伝うよ」
「ではタネができたらお手伝いをお願いします」
「子供扱いか?」
鷹條が拗ねたような表情を見せ、亜由美を後ろから抱きしめた。
そんな風にされてしまうと亜由美は身動きできなくなってしまう。
「準備できない、よ?」
「本当のことを言え」
この人に隠し事なんてできるわけがなかった。
「あの……千智さんは出張で疲れているかなって」
「まあ、そんなことだろうと思ったよ。俺も一人暮らし歴は長いから手伝える」
正直に言った亜由美を鷹條は解放することにしたようだ。
そこまで言われてしまったのだから、亜由美は素直に甘えることにした。
あめ色の玉ねぎはたくさん作っておけば他の料理にも使える。亜由美はフードプロセッサーからみじん切りされた玉ねぎを出した。
「後ろのラックにガラスの器があるので、ラップしてレンチンしてもらっていいかしら?」
「了解」
こうして二人でキッチンに立つことは初めてだったが、鷹條の気遣いは自然だった。
「次は?」
と柔らかく亜由美に聞いてくれる。
「ああ、なるほど。レンチンは時短のためか。あとは弱火で炒めればいいか?」
察しがいいのも手際がいいのも、亜由美にはとても心地良いことだった。
「亜由美、なんかこれすごく量が多くないか?」
ボウルにできあがったハンバーグのタネの量を確認して、鷹條は首を傾げる。
それは二人分をはるかに越える量だった。
「あ、そうなの。焼いて冷凍しておくとね、いつでも食べられるの。千智さん、良かったら持って帰らないかなって」
「え?」
(ん? 余計なお世話だったかしら?)
大量に作ったハンバーグのタネを次から次に焼いてゆく亜由美だったのだが、それが自分のためだったと知って、鷹條は亜由美を抱きしめる。
「無理するなって言った」
「えー? 作り置きは無理じゃないでしょ?」
「どうしよう。すげー嬉しい。俺の彼女優しくて可愛くて、よく気がつき過ぎる」
余計なお世話ではなかったと知って、亜由美は笑顔になった。
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「さて、あとは……風呂か?」
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「あの、もしかしてさっきお風呂に入らなかったのって……」
亜由美は鷹條をじっと見返す。鷹條は顔色一つ変えずに、なんなら口元に笑みすら浮かべてしれっと返した。
「もちろんこのためだな」
「お手伝いしてくれたのかと思っていたのに」
「一緒にいたいんだって。そういうのは一石二鳥というんだろ」
口調に甘さが含まれている。
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