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11.水も滴る……
水も滴る……②
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そう文章を入力して、眠っているネコのスタンプも一緒に送る。
『おやすみ。気を付けて帰ってな』
こんなささいなやり取りすら幸せな気持ちになって、心がほわりと温かくなるのが分かる。
電車内のアナウンスで気づいたら最寄り駅まで電車が近づいていたので、亜由美はスマートフォンの画面を落としバッグに入れた。
その足音に気づいたのは駅からだいぶ離れて自宅マンションの近くになってからだ。
亜由美の後ろから、少しだけ距離を開けて人がついてきているような気がした。
この前、ポストに入っていた封筒のこともある。亜由美は怖くなって足を早めた。それに合わせて後ろの人物も足早になったような気がする。
カバンの中からカギを取り出した亜由美はオートロックを手早く開ける。
後ろからの足音はマンションを通り抜けそのまま真っすぐ進んでいったようだった。
自動ドアの中に入って、亜由美は大きく息をつく。心臓がどくどくいっていた。
ドアの中に入ったら少し気持ちが落ち着いたのだけれど、その時初めて鼓動が早くなっていたことに気づいたのだ。
後ろの人物はついてきたわけではなくて、ただ同じ方向に行く人と一緒になっただけのようだ。
尾けられていたわけではないと知って亜由美は安心してエレベーターに乗る。
──大丈夫。あれはきっと単なるイタズラなんだから。
自分にそう言い聞かせて、亜由美は家の中に入った。
翌日、定時に終わった鷹條と亜由美は駅で待ち合わせをする。
駅に直結しているスーパーマーケットに寄り、二人で買い物をすることにした。
明日は亜由美も休みで、鷹條も休みなのだ。
亜由美は自分のマンションで鷹條にもゆっくりしてもらいたかった。
「なにか食べたいものはある?」
こういう時、何でもいいとか言わないのが鷹條だ。
「亜由美のハンバーグ食べたい」
「分かった。ハンバーグね」
亜由美は材料を適当にカートの中に放り込む。亜由美のハンバーグはあめ色に炒めた玉ねぎと多めにまぜる豆腐がポイントだ。
ふわふわな食感で甘みがあって美味しいと家族には好評だった。少し前に作った時、鷹條もとても喜んでくれていたことを思い出す。
「で、大丈夫だったか? どこかで転倒したり絡まれたりはなかったな?」
「ないですってば」
買い物をしながらするのはそんな会話だ。
肩を並べて仲良く買い物をする超絶美形カップルは微笑ましい。そんな会話が交わされているとは他からは分からないだろう。
亜由美が反論できないと分かっていてからかっているのか本気なのか、鷹條の表情からは分からない。
(千智さんはなんだか本気な気がする)
鷹條の心配は甘やかされているようにも、大事にされているようにも亜由美は感じて嬉しいものだった。
「そんなに……転んだり、絡まれたりしないから」
「ま、それならいいけどな。亜由美がしっかりしてるのは分かっているけど」
そう言って鷹條は亜由美の顔を覗き込む。整った顔を目の前に近づけられて亜由美はドキドキしてしまった。
「俺の前でしっかりしようとしなくていい。甘えていいんだ。それより俺は亜由美がどこかで無理していないほうがいい」
そう言って鷹條は柔らかく微笑む。
本当に優しくされていつも見守ってくれていて、亜由美は嬉しかった。こんな風にしてくれる人はいなかったから。
好きな人は大事にする、と言った鷹條の言葉に嘘はなかったのだ。
だからこそ、一瞬迷った。
(この前の手紙のこと、話した方がいいの?)
『おやすみ。気を付けて帰ってな』
こんなささいなやり取りすら幸せな気持ちになって、心がほわりと温かくなるのが分かる。
電車内のアナウンスで気づいたら最寄り駅まで電車が近づいていたので、亜由美はスマートフォンの画面を落としバッグに入れた。
その足音に気づいたのは駅からだいぶ離れて自宅マンションの近くになってからだ。
亜由美の後ろから、少しだけ距離を開けて人がついてきているような気がした。
この前、ポストに入っていた封筒のこともある。亜由美は怖くなって足を早めた。それに合わせて後ろの人物も足早になったような気がする。
カバンの中からカギを取り出した亜由美はオートロックを手早く開ける。
後ろからの足音はマンションを通り抜けそのまま真っすぐ進んでいったようだった。
自動ドアの中に入って、亜由美は大きく息をつく。心臓がどくどくいっていた。
ドアの中に入ったら少し気持ちが落ち着いたのだけれど、その時初めて鼓動が早くなっていたことに気づいたのだ。
後ろの人物はついてきたわけではなくて、ただ同じ方向に行く人と一緒になっただけのようだ。
尾けられていたわけではないと知って亜由美は安心してエレベーターに乗る。
──大丈夫。あれはきっと単なるイタズラなんだから。
自分にそう言い聞かせて、亜由美は家の中に入った。
翌日、定時に終わった鷹條と亜由美は駅で待ち合わせをする。
駅に直結しているスーパーマーケットに寄り、二人で買い物をすることにした。
明日は亜由美も休みで、鷹條も休みなのだ。
亜由美は自分のマンションで鷹條にもゆっくりしてもらいたかった。
「なにか食べたいものはある?」
こういう時、何でもいいとか言わないのが鷹條だ。
「亜由美のハンバーグ食べたい」
「分かった。ハンバーグね」
亜由美は材料を適当にカートの中に放り込む。亜由美のハンバーグはあめ色に炒めた玉ねぎと多めにまぜる豆腐がポイントだ。
ふわふわな食感で甘みがあって美味しいと家族には好評だった。少し前に作った時、鷹條もとても喜んでくれていたことを思い出す。
「で、大丈夫だったか? どこかで転倒したり絡まれたりはなかったな?」
「ないですってば」
買い物をしながらするのはそんな会話だ。
肩を並べて仲良く買い物をする超絶美形カップルは微笑ましい。そんな会話が交わされているとは他からは分からないだろう。
亜由美が反論できないと分かっていてからかっているのか本気なのか、鷹條の表情からは分からない。
(千智さんはなんだか本気な気がする)
鷹條の心配は甘やかされているようにも、大事にされているようにも亜由美は感じて嬉しいものだった。
「そんなに……転んだり、絡まれたりしないから」
「ま、それならいいけどな。亜由美がしっかりしてるのは分かっているけど」
そう言って鷹條は亜由美の顔を覗き込む。整った顔を目の前に近づけられて亜由美はドキドキしてしまった。
「俺の前でしっかりしようとしなくていい。甘えていいんだ。それより俺は亜由美がどこかで無理していないほうがいい」
そう言って鷹條は柔らかく微笑む。
本当に優しくされていつも見守ってくれていて、亜由美は嬉しかった。こんな風にしてくれる人はいなかったから。
好きな人は大事にする、と言った鷹條の言葉に嘘はなかったのだ。
だからこそ、一瞬迷った。
(この前の手紙のこと、話した方がいいの?)
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