上 下
40 / 83
10.恋愛っていいものですね

恋愛っていいものですね③

しおりを挟む
 そんな思いやりも、大事にされていることもとても嬉しいので、亜由美は心配をかけないためにもこまめに連絡をするようにしていた。

 自宅に帰ってきたことと、今日はコミックスの新刊を入手したので読むのが楽しみだと鷹條にメールを送っておく。

 そしてソファに座って楽しみにしていたコミックスを開いた。

 前巻はいいところで終わってしまっていたから続きがとても気になっていたのだ。

 両片想いだったのが、もしかして? とお互いの想いに気づいたところで終わっていた。わくわくしながら亜由美はページを開く。

 なんとなくお互いの気持ちに気づきながらも伝えることができず、素直になれないヒロインとヒロインをどこまでも溺愛したいヒーローにきゅんきゅんしながら読み終わった。

 今回も結ばれることはなかったけれど、じれじれする展開も嫌いではない。

 幸せな気持ちでベッドに入り、お行儀悪いとは分かっているけれど、寝転がったままもう一度コミックスに手を伸ばす。そして、眠った。

 朝、スマートフォンを確認すると、鷹條からのメッセージが入っている。

『昨日は楽しんだ? すごく楽しみにしていた様子が伝わってきていたから、楽しめたらいいなと思ったよ』

 返信の時間は亜由美がすっかり眠ってしまっている真夜中だった。

 警護の仕事というのは対象者に側でピッタリ張り付くだけのものではないのだそうだ。

 あらかじめ決められている行先予定の場所をチェックしたり、事前の打ち合わせや事後のミーティングなどもかなり重要なことらしい。

 もともと鷹條からは一旦警護の業務に入るとかなり忙しいとは聞いていたので、こうやって隙間の時間にも連絡をくれること自体が本当に亜由美への気づかいだと分かる。

 この日帰ってきた亜由美はいつものように、ポストの中に入っていた手紙類をダイニングテーブルの上に置いた。

 パラっと広がったその中の封筒が妙に気になる。
 なんでもない封筒なのにやけに存在感があるのだ。なぜだろうか?

 亜由美は気になったその封筒を手に取った。気になった理由が分かる。住所が記載されていないのだ。そして宛名だけが印刷されている。
『杉原 亜由美様』

 不審に思いつつも封筒にはさみを入れた。中から出てきたのは亜由美の写真だ。コンビニで買い物をしているものや、先日書店で本を買った時のものもあった。

 ──イタズラ……?

 封筒の住所の記載がないということは差出人がポストへ直接投函したものだということだ。
 そのことに気づいて亜由美は少し怖くなる。

 一体誰が?
 心当たりが全くない。

 気持ち悪いことも確かだ。けれど、どうしたらいいのかも分からない。過剰に反応するものどうかという気がして、写真を封筒に戻し一瞬捨てようかと少し迷ったけれど、請求書などと一緒にまとめておいた。


「少し、遅くなっちゃったわね?」
 隣の席の奥村に話しかけられて、パソコン画面に集中していた亜由美は手を止め時計を確認する。

「あ……そうですね」
 気づいたら定時を過ぎていた。

「杉原さん、今日はあの素敵な彼と待ち合わせとかしてない?」
「今、出張中なんです」

「あら、じゃあ一緒に食事でもどう?」
「いいんですか? ぜひ、お願いします!」

 ランチで一緒に食事に行くことはあっても、業務の終了後に声を掛けられることはあまりない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした

日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。 若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。 40歳までには結婚したい! 婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。 今更あいつに口説かれても……

同居人以上恋人未満〜そんな2人にコウノトリがやってきた!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
小学生の頃からの腐れ縁のあいつと共同生活をしてるわたし。恋人当然の付き合いをしていたからコウノトリが間違えて来ちゃった!

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...