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8.大事なことは言いましょう

大事なことは言いましょう①

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 玄関に入ったら、後ろからきゅっと鷹條に抱きしめられた。

 耳元に低い声が囁く。
「いやなら、今すぐ抵抗してくれ」

 亜由美の胸がぎゅっと掴まれたような気持ちになって、どくんどくんと大きな鼓動が鷹條にまで聞こえてしまうんじゃないかと思う。

 抵抗なんてできるわけがなかった。
 胸元のボタンが外されて、するっと肌に鷹條の指が触れる。

「抵抗、しなくていいの?」
 そう聞かれて耳元に甘くキスされる。

「んっ……」
 漏れてしまった声に驚いて、亜由美は慌てて口元を手で抑える。

「何してる?」
「だ……って、ヘンな声、出ちゃった……から」

 涙目の亜由美を鷹條はぎゅうっと抱き締める。
「本っ当になんでそんなに可愛いかな」

「可愛くない、です」
 可愛くないと言われ続けてきたのだ。

「どの辺が? 誰かに言われたか? そいつの目はおかしいぞ。可愛いでしかないんだが」
「きゃ……」
 鷹條に抱き上げられて、亜由美は思わず声が漏れた。

「寝室は?」
「あっちです」
 赤くなりつつ亜由美は部屋の方を指さす。

「あのっ! 待って」
「なんだ? やっぱり、止める?」

「違うの。そうじゃなくて、幻滅しないでくれたらって……」
「なにを?」

 部屋の中に入った鷹條が無言になるのが分かる。

 部屋の中はピンクやフリルに彩られているからだ。
「こんな部屋……引きますよね?」

 大人びた雰囲気だから、もっとシンプルな感じかと思っていたのになにこの乙女!? 全く雰囲気と合ってない萎える! とまで言われたこともある。
 本当に萎えたらしくそのまま別れた

「可愛いじゃん、女の子の部屋って感じで」
「本当に?」
 はぁ、と聞こえたため息。

「亜由美、俺のことを誰と比較してる? とにかく君が今までろくでもないヤツと付き合ってきたのは分かった。俺を一緒にするな」
「やっぱりろくでもない人達なんでしょうか!?」

 ろくでもないかもと思っていたけれど、ハッキリ明言されるとやっぱりそうだったのかと思ってしまう。

「それは分からない。でもありのままの亜由美を否定したのなら、それは違うだろう? そのままを受け入れてほしいんじゃないのか? 俺はそのままの亜由美が好きなんだけど?」

 そのままの亜由美が好きだと言ってくれて、目元がまたじんわり熱くなる。
 この人はなぜこんなにも亜由美が欲しい言葉を自然にくれるのだろうか。

「鷹條さん……」
千智ちさと!」
 亜由美の胸を昂らせておいて、拗ねたように名前を呼ばせようとする。

(どうしよう。大好き……)
 亜由美をベッドに降ろした鷹條は体重を掛けないようにそっと覆い被さる。

 その整った顔が近くて、覆い被さるような体勢はまるで鷹條に包み込まれているようで、亜由美は鼓動が大きくなるのを止めることができない。

「俺の名前、千智。亜由美、呼んで。俺、亜由美に名前呼ばれるのも好きらしい」

「ち……さと、さん」
「ん?」

 名前を呼んでそれにふわりと微笑んで応えてくれる。たったそれだけのことが、これほどまでに甘い気持ちで胸を満たすものだなんて思わなかった。

 好きという気持ちで胸がいっぱいになる。
 今日一日ずっと一緒に過ごして、鷹條の好きなところしか見つけられなかった。
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