上 下
25 / 83
6.好きな子は大事にする

好きな子は大事にする④

しおりを挟む
「大きな企業の会社員さんのようですね。問題なさそうだ。綺麗な人でしたね」

 最後の一言は完全に久木の個人的な感想であることは、笑みを含んだ表情で鷹條を見ていることからも、察しがついた。

「だから心配なんですよ。それでいて自分の魅力には気づいていない人なのでなおさらです」

「なるほど。鷹條くんとでは美男美女で非常にお似合いそうですが」
「どこがです? 美女と野獣みたいなものでしょう」

 自分の魅力に気づいていないのは、鷹條も同じなのだった。

 ◇◇◇

 午後からの仕事はスムーズに終わって、スーパーで買い物をし、家に帰るとそれを見計らったようにスマートフォンが着信を知らせる。

 連絡先を交換した鷹條からだった。
 亜由美は嬉しくて、胸がほわっと温かくなる。

「はい」
 通話に出た声が少し浮かれてしまっても大目に見てほしい。

『今、仕事中じゃない?』
「今日は定時に終わって、今、お家です」

『無事に帰ったか? 転倒したり、どこかで絡まれたりしなかったか?』

 どういう心配の仕方なんだろう? と思うがすべて鷹條に助けられた時の状況だから、それには強く返せない亜由美でもある。

「ちゃんと無事でした」
『そうか。良かった』
 からかった訳ではなくて、本当に心配していたらしい。

「一条さんのことも、今後はイレギュラーがあれば課長で対応してくださることになったんです」

 あの時の状況がきっかけだったので、これ以上心配させてもいけないしと亜由美は報告する。

『それは良かった。杉原さんの会社はすごくしっかりしている。それに、普段の杉原さんの様子をみんなも見てくれているんだろうな』

 穏やかな電話の向こうの声を聞いて、亜由美はとても嬉しい気持ちになり、見守ってくれる人のいる安心感に満たされていた。

「鷹條さん……」
『ん?』
「心配して下さって、ありがとう」

『いや。うん。杉原さんは心配だよ。でもそんな風に言ってもらえると……嬉しいもんだな。彼女、って感じする』

 とても真っすぐな鷹條の言葉は、いつも亜由美の心をぎゅっと掴んでしまう。

 だから素直に亜由美も返せるのだ。
「私も嬉しい……。心配してもらえるのって幸せですね」

 はーっと深いため息が電話の向こうから聞こえてきた。
『くっそ、なんで電話なんだか。抱き締めたい。すごくぎゅうっとしたいよ』

 甘やかに伝えられる言葉がくすぐったい。
 こんなことを言っていても、きっと冷静なはずの鷹條の顔を想像すると亜由美は笑えてきてしまった。

『こら、笑うなよ』
「だって……ふふっ」
『今度の休み、どこか行かないか?』
「行きたいです!」

『勤務体制は独特なんだけど、今週末は非番なんだ。遠出はできないから近場で』
「あ、それなら……」

 亜由美は水族館やプラネタリウムも併設している商業施設の名前をあげる。

『行ったことない。行ってみたいとは思ってたけど』
「じゃあ、そこにしましょう」

『分かった。時間とかはまた後で連絡する。無事に帰ったかを確認したかったから』

 じゃあ、ゆっくり休めよ、と電話を切られて亜由美は急に顔が熱くなってしまった。
 優しいとは思っていたけれど、心配して電話を掛けてくれるとは思わなかった。

 メールでも済ませられるかもしれないことを、わざわざ電話してくれたのが嬉しかった。

 とても大事にされている。
 それは心がとても温かくなって、こんなに幸せな気持ちになるものだったのだと亜由美は知った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同期の御曹司様は浮気がお嫌い

秋葉なな
恋愛
付き合っている恋人が他の女と結婚して、相手がまさかの妊娠!? 不倫扱いされて会社に居場所がなくなり、ボロボロになった私を助けてくれたのは同期入社の御曹司様。 「君が辛そうなのは見ていられない。俺が守るから、そばで笑ってほしい」 強引に同居が始まって甘やかされています。 人生ボロボロOL × 財閥御曹司 甘い生活に突然元カレ不倫男が現れて心が乱される生活に逆戻り。 「俺と浮気して。二番目の男でもいいから君が欲しい」 表紙イラスト ノーコピーライトガール様 @nocopyrightgirl

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

正義の味方は野獣!?彼の腕力には敵わない!?

すずなり。
恋愛
ある日、仲のいい友達とショッピングモールに遊びに来ていた私は、付き合ってる彼氏の浮気現場を目撃する。 美悠「これはどういうこと!?」 彼氏「俺はもっとか弱い子がいいんだ!別れるからな!」 私は・・・「か弱い子」じゃない。 幼い頃から格闘技をならっていたけど・・・それにはワケがあるのに・・・。 美悠「許せない・・・。」 そう思って私は彼氏に向かって拳を突き出した。 雄飛「おっと・・・させるかよ・・!」 そう言って私のパンチを止めたのは警察官だった・・・! 美悠「邪魔しないで!」 雄飛「キミ、強いな・・・!」 もう二度と会うこともないと思ってたのに、まさかの再会。 会う回数を重ねていくたびに、気持ちや行動に余裕をもつ『大人』な彼に惹かれ始めて・・・ 美悠「とっ・・・年下とか・・ダメ・・かな・・?」 ※お話はすべて想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。メンタルが薄氷なんです・・・。代わりにお気に入り登録をしていただけたら嬉しいです! ※誤字脱字、表現不足などはご容赦ください。日々精進してまいります・・・。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。すずなり。

処理中です...