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2.男運悪すぎ問題
男運悪すぎ問題④
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端正な顔立ちに涼しげな目元。見覚えのある男性だ。声をかけた彼も目を見開いていた。
「朝の人ですか?」
「朝はありがとうございました」
とてもいい人で可能ならばお礼もしたいと思っていたのに、よりによって片足裸足の姿を見られるとは、もう本当に今日はどうなっているのか。
「大丈夫?」
踏んだり蹴ったりの一日で、亜由美の目には本当に涙が溜まっている。
困っていても誰も助けてくれなかったのだ。
この目の前の彼以外は。
「ヒールが抜けなくて……」
亜由美の言葉に彼はヒールが刺さってしまっているブロックの隙間を見てふっと軽く微笑んだ。
「そんな風に嵌まるものなんだな。俺に捕まっていて。引っ張ってみる」
亜由美の側にしゃがみこんだ彼は片足裸足の亜由美を気遣って、膝に亜由美の足を乗せようとする。
(スーツが汚れちゃう!)
「あの! もう地面に足をつけてしまったので、スーツが汚れちゃいます」
「そうか……」
そうしたら、彼はポケットからハンカチを出して地面に置いた。
「洗えるから気にしないで」
そこに足を置いていいということなのだろう。
朝の件といい、本当になんて親切なのだろうか。
その言い方に愛想はなかったけれど、とても親切だと亜由美は思った。
亜由美が足をそっとハンカチの置かれた地面に降ろしたその瞬間である。
「い! 痛ーいっ!」
「え!?」
地面に刺さったヒールを手にした彼が亜由美の悲鳴に驚いて目を見開いている。
亜由美は本当に今度こそ涙が出てきた。
「……っう……もう、やだ……」
「ちょ……君、どうした?」
「痛いんだもの……」
置いた足の足首辺りにとんでもない痛みを感じたのだ。
「どこが痛い?」
「足です……」
「ヒールに足を取られたときに捻ったんだろう」
度重なる不幸と痛みに亜由美はぽろぽろと涙をこぼす。
「まあ、朝もあんなことがあったしな。泣くな……痛いか? ん? ちょっと動かすぞ」
彼は亜由美の足をそっと手に取った。
そうして軽く動かす。
「これはどうだ?」
「大丈夫……」
「これは?」
と別の方向に動かされたとき、足に鋭い痛みが走った。
「痛っ!」
「靭帯は大丈夫そうだ。捻挫だと思うが痛みが強いし、念の為、病院に行くか」
彼は亜由美に靴を渡すと、ひょいっと亜由美を横抱きに抱えた。いわゆるお姫様抱っこだ。
駅前でお姫様抱っこは目立ちすぎる。軽々と抱えられて亜由美は戸惑ってしまった。
「あの! 大丈夫ですから!」
亜由美は慌てて彼にそう言って降りようとしたのだ。けれど、彼は淡々と亜由美に伝える。
「あんなに痛がって大丈夫もないだろう。病院までは我慢しないか?」
「我慢?」
我慢と言われて、一瞬何のことかと思った。病院まで痛みを我慢するのは当然のことだ。
「見知らぬ男と一緒でも」
そう言われて、慌てて亜由美は首を横に振る。
彼が見知らぬ人だから我慢しなきゃなんて思わない。目立ちすぎるくらいに目立ってしまっても、亜由美のために亜由美を抱き上げてくれるような人だ。
「いえ。むしろこちらがご迷惑かけているし、あの重いですよね? 私、片足で……」
片足で行くから大丈夫です。そう言おうとしたのだ。
「そんなヒールでケンケンしてみろ。そっちの足も挫くのがオチだ」
そう言って怖い顔をされた。
「ごめんなさい」
亜由美が謝ると彼はふっと表情を緩める。
「まあ、朝もあんなことがあったし、これも縁だから気にしなくていい」
横抱きにしたまま亜由美を運んで、彼は駅のタクシー乗り場へ向かいタクシーに乗せてくれた。
「朝の人ですか?」
「朝はありがとうございました」
とてもいい人で可能ならばお礼もしたいと思っていたのに、よりによって片足裸足の姿を見られるとは、もう本当に今日はどうなっているのか。
「大丈夫?」
踏んだり蹴ったりの一日で、亜由美の目には本当に涙が溜まっている。
困っていても誰も助けてくれなかったのだ。
この目の前の彼以外は。
「ヒールが抜けなくて……」
亜由美の言葉に彼はヒールが刺さってしまっているブロックの隙間を見てふっと軽く微笑んだ。
「そんな風に嵌まるものなんだな。俺に捕まっていて。引っ張ってみる」
亜由美の側にしゃがみこんだ彼は片足裸足の亜由美を気遣って、膝に亜由美の足を乗せようとする。
(スーツが汚れちゃう!)
「あの! もう地面に足をつけてしまったので、スーツが汚れちゃいます」
「そうか……」
そうしたら、彼はポケットからハンカチを出して地面に置いた。
「洗えるから気にしないで」
そこに足を置いていいということなのだろう。
朝の件といい、本当になんて親切なのだろうか。
その言い方に愛想はなかったけれど、とても親切だと亜由美は思った。
亜由美が足をそっとハンカチの置かれた地面に降ろしたその瞬間である。
「い! 痛ーいっ!」
「え!?」
地面に刺さったヒールを手にした彼が亜由美の悲鳴に驚いて目を見開いている。
亜由美は本当に今度こそ涙が出てきた。
「……っう……もう、やだ……」
「ちょ……君、どうした?」
「痛いんだもの……」
置いた足の足首辺りにとんでもない痛みを感じたのだ。
「どこが痛い?」
「足です……」
「ヒールに足を取られたときに捻ったんだろう」
度重なる不幸と痛みに亜由美はぽろぽろと涙をこぼす。
「まあ、朝もあんなことがあったしな。泣くな……痛いか? ん? ちょっと動かすぞ」
彼は亜由美の足をそっと手に取った。
そうして軽く動かす。
「これはどうだ?」
「大丈夫……」
「これは?」
と別の方向に動かされたとき、足に鋭い痛みが走った。
「痛っ!」
「靭帯は大丈夫そうだ。捻挫だと思うが痛みが強いし、念の為、病院に行くか」
彼は亜由美に靴を渡すと、ひょいっと亜由美を横抱きに抱えた。いわゆるお姫様抱っこだ。
駅前でお姫様抱っこは目立ちすぎる。軽々と抱えられて亜由美は戸惑ってしまった。
「あの! 大丈夫ですから!」
亜由美は慌てて彼にそう言って降りようとしたのだ。けれど、彼は淡々と亜由美に伝える。
「あんなに痛がって大丈夫もないだろう。病院までは我慢しないか?」
「我慢?」
我慢と言われて、一瞬何のことかと思った。病院まで痛みを我慢するのは当然のことだ。
「見知らぬ男と一緒でも」
そう言われて、慌てて亜由美は首を横に振る。
彼が見知らぬ人だから我慢しなきゃなんて思わない。目立ちすぎるくらいに目立ってしまっても、亜由美のために亜由美を抱き上げてくれるような人だ。
「いえ。むしろこちらがご迷惑かけているし、あの重いですよね? 私、片足で……」
片足で行くから大丈夫です。そう言おうとしたのだ。
「そんなヒールでケンケンしてみろ。そっちの足も挫くのがオチだ」
そう言って怖い顔をされた。
「ごめんなさい」
亜由美が謝ると彼はふっと表情を緩める。
「まあ、朝もあんなことがあったし、これも縁だから気にしなくていい」
横抱きにしたまま亜由美を運んで、彼は駅のタクシー乗り場へ向かいタクシーに乗せてくれた。
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