1 / 83
Prolog
Prolog①
しおりを挟む
遅刻、遅刻~と言いながらパンをくわえて走っていて、角を曲がると誰かにぶつかる。
──それは運命の相手。
実際は遅刻しそうになっていたら、ただ走るだけである。
杉原亜由美は自宅の最寄り駅の改札をかなりの早足で通り抜ける。
昨日の夜は大好きでずっと追っていたコミックスの最終話が配信されたということもあって、つい夜更かししてしまった。
最終話は感動で号泣ものだったし、亜由美も、もちろん泣いた。ハッピーエンドで大満足だったけれど、それを読んだらまた最初から読みたくなって見返したのが、夜更かしの理由だ。
ホームからはもうすぐ電車が到着するというアナウンスが聞こえる。
(これなら電車に間に合う!)
その時改札に向かっていた人と亜由美は肩がぶつかってしまった。
「おい!」
その時だ。野太い声で呼び止められてしまった。男性が亜由美のことをじっと睨んでいたのだ。
ぶつかってしまったのは間違いない。亜由美は足を止めて慌ててその男性に向かって頭を下げた。
「すみません!」
謝ったのだし、それで終わるかと思ったのだ。
そうしたら腕を掴まれた。
「わざとぶつかっただろう!?」
そんな訳はない。完全に因縁をつけられているのだが、焦っていた亜由美にそんなことは分からなかった。
確実に分かっていたのは、今日は遅刻だ、ということだ。
「すみませんでした」
腕を掴まれた亜由美がぶつかったと主張する男性に向かって再度頭を下げると、ホームから乗りたかった電車が出発する音が聞こえた。
──終わった……。
「これで済ませるつもりか? あんたがぶつかった肩が痛えんだけどな」
(ん?)
さすがに手は離してくれたけれど、今度は亜由美の前に立ちはだかってそんなことを言う。
遅刻どころではない。完全にヤバい人に捕まってしまったことを察して、亜由美の眼の前が暗くなった。
亜由美はロングヘアに目鼻立ちのくっきりした華やかな容姿の持ち主だ。綺麗な栗色の髪を出勤のときはウエーブに巻いて一つに結んでいる。
大きくて猫のような瞳は気まぐれにも見えて、華やかな顔立ちとも相まってひどく魅力的だ。
百六十を超える身長はスラリとしているから、第一印象では近づきがたい雰囲気の大人な女性。
しかし実のところ、愛読書は少女漫画で、好きな映画は恋愛物語、可愛いものやコスメも好きで、部屋の中はリボンとピンクとフリルに彩られている乙女系女子なのだった。
亜由美は商社で経理をしている社会人二年目だ。
経理部にはいろんな仕事があるが、亜由美はその中でも社内の経費関連の業務を担当している。
両親が銀行勤めだったこともあって、お金について小さい頃からしっかり躾けられていたことは今の業務にも役立っている。
だからそんな風に育ててくれた両親には感謝だ。
両親は早々と退職して今は二人で海外に移住し優雅に過ごしている。
しっかりした躾と教育を施してくれたことには本当に感謝している……しているけども、もっといろいろ教えておいてほしかった。
(た……例えばこんな風に駅で輩に絡まれたらどうしたらいいのかとかねっ!)
遅刻しそうに急いでる時にぶつかるのって、転校生とかじゃないの!?
なんでこんな怖いおじさんにぶつかっちゃったかな?
目の前の怖そうな男性は亜由美を離してくれそうな気配がない。
──こ、怖いっ。誰か助けてっ!
──それは運命の相手。
実際は遅刻しそうになっていたら、ただ走るだけである。
杉原亜由美は自宅の最寄り駅の改札をかなりの早足で通り抜ける。
昨日の夜は大好きでずっと追っていたコミックスの最終話が配信されたということもあって、つい夜更かししてしまった。
最終話は感動で号泣ものだったし、亜由美も、もちろん泣いた。ハッピーエンドで大満足だったけれど、それを読んだらまた最初から読みたくなって見返したのが、夜更かしの理由だ。
ホームからはもうすぐ電車が到着するというアナウンスが聞こえる。
(これなら電車に間に合う!)
その時改札に向かっていた人と亜由美は肩がぶつかってしまった。
「おい!」
その時だ。野太い声で呼び止められてしまった。男性が亜由美のことをじっと睨んでいたのだ。
ぶつかってしまったのは間違いない。亜由美は足を止めて慌ててその男性に向かって頭を下げた。
「すみません!」
謝ったのだし、それで終わるかと思ったのだ。
そうしたら腕を掴まれた。
「わざとぶつかっただろう!?」
そんな訳はない。完全に因縁をつけられているのだが、焦っていた亜由美にそんなことは分からなかった。
確実に分かっていたのは、今日は遅刻だ、ということだ。
「すみませんでした」
腕を掴まれた亜由美がぶつかったと主張する男性に向かって再度頭を下げると、ホームから乗りたかった電車が出発する音が聞こえた。
──終わった……。
「これで済ませるつもりか? あんたがぶつかった肩が痛えんだけどな」
(ん?)
さすがに手は離してくれたけれど、今度は亜由美の前に立ちはだかってそんなことを言う。
遅刻どころではない。完全にヤバい人に捕まってしまったことを察して、亜由美の眼の前が暗くなった。
亜由美はロングヘアに目鼻立ちのくっきりした華やかな容姿の持ち主だ。綺麗な栗色の髪を出勤のときはウエーブに巻いて一つに結んでいる。
大きくて猫のような瞳は気まぐれにも見えて、華やかな顔立ちとも相まってひどく魅力的だ。
百六十を超える身長はスラリとしているから、第一印象では近づきがたい雰囲気の大人な女性。
しかし実のところ、愛読書は少女漫画で、好きな映画は恋愛物語、可愛いものやコスメも好きで、部屋の中はリボンとピンクとフリルに彩られている乙女系女子なのだった。
亜由美は商社で経理をしている社会人二年目だ。
経理部にはいろんな仕事があるが、亜由美はその中でも社内の経費関連の業務を担当している。
両親が銀行勤めだったこともあって、お金について小さい頃からしっかり躾けられていたことは今の業務にも役立っている。
だからそんな風に育ててくれた両親には感謝だ。
両親は早々と退職して今は二人で海外に移住し優雅に過ごしている。
しっかりした躾と教育を施してくれたことには本当に感謝している……しているけども、もっといろいろ教えておいてほしかった。
(た……例えばこんな風に駅で輩に絡まれたらどうしたらいいのかとかねっ!)
遅刻しそうに急いでる時にぶつかるのって、転校生とかじゃないの!?
なんでこんな怖いおじさんにぶつかっちゃったかな?
目の前の怖そうな男性は亜由美を離してくれそうな気配がない。
──こ、怖いっ。誰か助けてっ!
80
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした
日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。
若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。
40歳までには結婚したい!
婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。
今更あいつに口説かれても……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる